中山 可穂
弱法師
久々に、中山可穂さんの本を手に取りました。(前に「聖家族」を読みました)
この人の作品は、読んでいて時に、息苦しくなります。(耽美的な表現、多数)
背景や人物描写がとても繊細なタッチで描かれており、容易に風景が目の前に浮かび上がってきます。
そう、「奇麗」な表現であるゆえに、書いているテーマは、「切ない愛」。深いけれど、決して満たされない愛です。
でも、それが不幸ではなく、その経験が出来るものこそ「幸せ」であるということを、ほのめかしているようです。


「弱法師」は、3つの短編小説集。
難病を抱えた美しい少年と青年医師。義父と子という関係を超えた愛情の哀しい行く末を綴る「弱法師」
自分を愛するあまりに、天才小説家を死へと追い詰めてしまった編集者の昔語り「卒塔婆小町」
母の死により、伯母と父の複雑な関係を知ることとなった娘「碧生」の葛藤 「浮舟」
※小説のタイトルから分かるとおり、日本の古典をオマージュした構成。作家の意図にしてやられた。

不覚にも、私は「卒塔婆小町」で涙腺が緩みそうになりました。

このストーリーは、自分の作品を出版社にけなされ、自信をなくした作家がホームレスの女性に出くわすところで始まります。
実は彼女が、かつての美貌をほこり、天才といわれたある小説家を死なせた「伝説」の編集者ということを、その作家は知ることになるのですが、、小説家と編集者の愛憎の変遷が見事に書き抜かれています。最後の結末まで一気に読みました。

文章やネタ的に、好き好きが分かれる作家だと思いますが、私はここまで恋愛感情を熱くストレートに語れる女性作家は貴重な存在ということでおススメです。下手な男女間の性描写が沢山盛り込まれている作品よりも、それ以外の言葉で深く愛を語れる作品のほうが、何倍も濃く記憶の中に染み付くかな・・と思った次第。