遠藤 周作
海と毒薬
母親が「これを夜読むと、気持ち悪くなって寝れない」といって、私にススメた本。
第二次大戦中、九大医学部で起きた、生体解剖実験をもとに、遠藤周作が書き上げたもの、文学賞をいくつかとり、映画にもなった話題作である。

遠藤周作は、キリスト教信者でもあることで、よく人間の「罪」というテーマをとりあげるが、今回は宗教観を抜きにして人間の持つ心の闇の深さに追求している。
当時の軍のメンバーと民間人である医者が、敵であったアメリカ兵を「手術」といって騙して、生きたまま解剖した事件が実際に起きた。
当時は、空襲で人が大 勢死んで当たり前な時代で人の命の尊さも失われていた時代といってもよい。しかも、実験対象は 日本を攻撃してきた米国の捕虜兵。殺すか殺されるか分からない、自分達が生きるのに必死な時代に、憐れみなどは必要もないといったところか?
この機会に、どこまで臓器を切り取れば人間は死ぬのか、という医学の永遠の命題を、捕虜の生の体を使って実証しようとする医学者達の考えは、人間の感覚が麻痺した時代に真っ当に通ってしまったことが、とても恐ろしい。

実際に起きた事件がベースにあるということからも、読んでいると実にリアルに様子が思い浮かびあがってくる。暗い湿った病院内の様子や、生々しい手術の描写など、この時代に病院に入っても生きて出てこられない絶望感がじわりと伝わってくる。(ホント戦時に生まれてこないでよかった・・)

このストーリーの核となる主人公は、勝呂という医者。彼はまだ瀕死の患者の命を救うことに生きがいを持っていたのだが、解剖実験に立ち会ってしまったことで、人としての道を踏みはずした罪悪感に駆られ人生を棒に振る運命となっていく。彼がまだ、まっとうな感覚をもっていた人間としてかかれているのが、まだ救いに思われる。彼と対照的に、同僚の医師戸田や看護婦たちが、病院内での権力争いやどろどろの情愛に駆られていくさまが、際立って描かれている。