どうしてもっと早くに気づかなかったのだろう。


自分は同じ所をいつまでも回っている。




回転木馬




この馬は前に進むことなく、上下に跳ねる。


いや、弾む様な動きだ。


この空間自体が、ぐるぐる回っているだけで


この馬は、自分は全く前に進むことはない。



目の前の馬がどこかへと走り去った。


あまりにも自然で、どうして? なんてことは思い浮かばなかった。



気がつけば、どんどん馬は減っていた。


自分の馬は全く駆ける気配なんてないのに。


何だかひどくうらやましくなった。


一方で、馬を操る必要性がないことに安堵していた。


馬は勝手に弾みながら、同じ所を回るだけ。


自分は、ただそれに乗っているだけ。


駆ける馬から落ちる自分の姿が浮かんできた。


途端にここから離れるのがイヤになった。



やはり、このままでいい。


このまま回っていたい。



振り向けば、馬はいるのだろうか。


ふと、疑問に思った。




きっと、同じような馬が、ヒトがいるハズだ。


確かめたい。


けれど、振り向けない。



ただただ、馬が上下に弾むだけ。


ただただ、自分は揺られるだけ。



何度も何度も進んでは、元の場所へと戻るのだ。


出発地点がどこなのかはわからないのだけれど。


それに気づきさえしなかったら、前に進んでいると


思っていたのかもしれない。


自分は気がついても、ここからは抜け出せないが。



ここから抜け出さなければ、進めはしない。


走り去っていた馬は、ヒトはどうやって抜け出したのだろう。



どんどん馬は減っていく。


まるで最初から存在なんてしていなかったみたいに。





急に髪の長い女性が見えた。


その顔を窺うことはできない。


でも、どこかで見た覚えがある。



どこで。


誰だ。




その女性が振り返る。



あぁ、そうか。


そうだったのか。



ここが何だかわかった瞬間


馬が弾むのをやめた。



彼女の馬に近づいていく


彼女の馬はまだ弾んでいる。



彼女の馬と並んだとき、咄嗟に手を差し出した。


彼女は一瞬驚いたが、悲しそうに首を横に振っただけだった。



馬は自分の意志とは関係なく、進もうとした。


ここではないどこかへ。


馬のとめ方がわからない。


どんどん彼女が遠ざかる。


そこにはもう、彼女しかいない。


彼女はひとり取り残された。


いや、彼女がそれを選択したのか。






彼女はまだ過去にいるのだろうか。