翔は家に帰ると、部屋でぼーっとしていた。店主の言葉が気がかりで。
「何を頼んだなんだ?涼は気にするなっていったけど、なにか引っかかる。涼がなにかするのか?それとも仲良くしろってことなのか?」
俺は理解に苦しんだ。
翔はそんなことを考えながら、パソコンをたちあげ、ネットをひらいた。
「さて、あれはどこまで値上がりしたかな~♪」
翔は、欲しいものすべてネットオークションで購入している。今の世の中、ネットですべてが買える時代だ。しかも普通で買うより断然安い。なかには希少価値の物もある。そして自分のもので要らなくなったものも売れる。便利な世の中である。
「まだ5千円か、あと2日。どこまで値上がりしてくれるかな。」
要らないものを売って、欲しい物を買う。まさにリサイクル。
「ん?メールが届いてる。誰だ。」
メールを開くと、そこには信じられない言葉が書いてある。


件名 誰でもいい


本文 今日私は死にます。このメールを見た方はいたずらと思うでしょうが、本当です。
    ただ死ぬ前に誰かに言いたかったから。
    私は、14才 某女子中学に通っています。同じクラスメートに毎日いじめられ、
    耐えれなくなりました。毎日廊下の通行料といい、お金を取られ、机には花瓶。
    ひどい時には、殴られたり、蹴られたり。どうして私だけなの?何がいけないの。
    もう生きることに疲れました。サイトの皆さん、いろいろとありがとうございました。
    お母さん、お父さん、先に逝きます。ごめんなさい。


俺は言葉を失った。こんなメール初めてだ。どうしてこんなメールが来たのだろう。考えれるとしたら、フリーメールしかない。このサイトにオークション用として一つアドレスを持っている。そのアドレスにメールを送れば、自動的にこのパソコンに来る。そして、フリーメールもサイト内に記載されている。だからか。
死ぬのは勝手だが、送られてくる身にもなってほしかった。気分がいいのもではない。
しかし、いじめか。まだあるんだな。こんな世界も。俺はメールを閉じ、パソコンも閉じた。




2003年6月19日

今日学校へ行くと、そこには涼の姿がなかった。もう2時限目だというのに。
「あいつが遅刻?めずらしい。」
俺は朝が弱く、たまに遅刻をするほうだが、涼は違った。入学以来ずっと遅刻も休みもなかったから。俺はたまに早く来ることがあったが、涼はそれよりも早く登校していた。あいつに一度何時に来てるのかと聞くと、だいたい7時40分ごろと答えた。
風邪でもひいたのかと思ったが、昨日はそんな風には見えなかった。むしろ、はしゃいでいたせいか、元気そのものだった様な気がする。
しかしあいつも人間だ。風邪の一つや二つはひくだろう。
翔は、昨日のメールのせいか、よく寝ていなかった。そのため、授業はそっちのけ。
5時限目が終わった時、
「今井君、ちょっと。」
翔は担任の新谷先生呼ばれた。翔はしぶしぶ担任の元に行った。
「なに、先生。もしかして説教?勘弁してよ。今日は眠たいんだから。」
「ちがうの、山本君のことでちょっと聞きたいことがあるの。」
「涼?」
「今井君、山本君と仲いいでしょ。それで、何か聞いてる?」
「ん?何を」
「悩みとか…」
「いいや、あいつとはいつも一緒にいるけど、そんなこと聞いたことないよ。どうかしたの、先生。」
「いや、何でもないのよ。ただなんか聞いているかなっと思って。」
俺は先生の質問の意図が見えなかった。今日確かに涼は休んでいる。それとなにか関係があるのか?
「あいつ、今日は風邪かなんかで休みでしょ?」
先生は答えてくれなかった。
「おい、先生。聞いてる。なにかあったの?」
「…何でもないのよ。ごめんね、変なこと聞いて。」
そのとき6時限目のチャイムが鳴り始めた。先生は、なんだかぎこちない笑顔で去っていった。
翔は、なんだか嫌な感じをおぼえた。
「まさか!」
昨日の店主の言葉が脳裏に流れた。
"涼を頼んだよ"
この言葉の意味はわからない。でもなにかあるはずだ。俺は授業には戻らず、涼の家に向かった。

涼の家は何度か行ったことがある。学校から30分ぐらいのところだ。
俺は我武者羅に走った。なにもないようにと願いながら。
しかしその願いはむなしくも届かなかった。涼の家の周りには、車が沢山止めてあった。
赤いランプを回しながら。
翔はその光景を見て、慌てて中に入ろうとしたが、入口の警官に止められてしまった。
「なんだね。君は。ここは立ち入り禁止だぞ。」
「はなせ、涼のところにいくんだ。はなせっていってるだろ!」
翔は力いっぱい警官の腕を振りほどこうともがいた。しかしその力は虚しく、周りにいた警官も止めに入ってきた。翔にはどうすることも出来なかった。
「翔君?」
横から、かぼそい声がした。涼の母親だった。
「その子は、涼の友達です。放してやってください。」
そういうと、翔を押さえていた警官はゆっくり開放した。そして、翔は涼の母親のもとへ駆け寄った。
「おばさん、どうしたの。なんで警官がここにいるの?なにがあったの?」
俺は感情を押さえきれなかった。なんともいえない恐怖が俺を支配しているから。
「翔君・・・落ち着いて聞いてね。涼は・・・・」
涙をこらえながら、俺に説明しようとしていた。今にも泣き崩れそうなかんじで。
「・・・涼、死んだの。」
「!?」
俺は自分の耳を疑った。死んだ?そんな、ありえない。昨日まであんなに元気にしていたじゃないか。なのに死んだって。俺はどうしたらいいかわからなかった。
「おばさん、うそでしょ。うそだよね。」
なにも答えてはくれなかった。ただ首を横に振るだけ。
「・・・おばさん・・・・」
翔は振り返り、もう一度家の中に入ろうとした。"何かの間違えに決まっている"という希望をもって。
すると家の中からタンカーを持った警官が現れ、シートで覆い被さったものがはこばれている。翔は慌てて立ち寄り、警官が押さえる中、そのシートをめくった。
「・・・・そんな。」
全ての希望を打ち砕くかのような光景が俺の目の前にあった。
"親友の死"
どうしようもなかった。全身の血がひくのをおぼえ、俺はその場に崩れ落ち、なにもすることができなかった。
うしろからそっと翔に寄り添うものがあった。涼の母親だ。翔たちは何も言うことも無く、ただ涙を流すしかなかった。
人間とは無力なもの。こういうときは何も出来ない… 出来ないというか、何をしたらいいのかわからない。
いつも一緒にいた人を俺は失った。おばさんにとってはそれ以上だ。自分の息子を失ったのだから。
「すみません。」
翔たちに話し掛けてきたのは、茶色のスーツを身にまとった警官だった。年は40歳ぐらいはいっているだろう。ベテランの刑事という感じそのものである。
「こんなときに、話すのもつらいとおもいますが、2・3聞きたいことがあるのですが。」
「・・・なんでしょう。」
「息子さんのことなのですが、お母さんが第1発見者ですよね。」
警察とは非情なものだ。息子のことを聞いてくるなんて。今は辛くて苦しいときなのに。頭では聞かれて当然とわかっているが、実際は辛い。ふれないでくれと思う。でも向こうも仕事。原因・死因こういったものを調べなくてはならない。これが現実だから。
「死因は、窒息死です。多分自殺です。」
警官の口から驚くべき言葉が漏れた。
涼が自殺?ありえない。俺はいまだに"死"を受け止められないのに、自殺だなんて。
「天井にフックがありました。机から縄をそこに通し、自分の首へ。そして、机には遺書がありました。」
母親は、ただ聞いているだけだった。
「涼君のズボンにあなたの指紋がついていたのですが、さわりましたか?」
「は・・い、見たとき、首を吊っていたのでとっさに持ち上げて助けようとしました。でも・・・」
「重たくて持ち上がらなかった。そして、我々を呼びましたね。」
母親はうなずいた。
「これが遺書です。」
母親が見た後、その手紙を翔に渡した。




ごめんなさい。




ただそれだけ書かれていた。俺はそのとき思った。店主の言葉を。
まさかこうなることを知っていたのか?でもありえない。人の未来を予測するなんて。
おばさんが警察と話しているすきに俺はその場から離れ、あの店に向かった。


「いらっしゃい。」
店主は元気よく挨拶をした。しかし、翔の顔みるなり、
「なにかあったのか?」
翔は混乱状態であり、何から聞いていいかわからなかった。
「涼が・・・涼が、死んだ。」
「まさか!?」
店主は唖然とし、言葉を失った。翔は混乱の中、
「おじさん、この前俺に言ったでしょ。涼を頼むって。あれってどういうこと。何か知ってるの?だったらなんでもいいから教えて。」
翔はどんなことでも知りたかった。それを聞いてどうこうなるはずもないが。でもなにかしたかった。
「翔君?だったよね。」
「はい。」
「涼君から何も聞いてないのかね?」
「担任にも聞かれましたが、何も知りません。だから教えて下さい。」
俺は悲しみからイライラへと変わっていった。みんな何か知っているようなかんじがしたから。俺だけが置いてきぼり。
「涼君、実はいじめられていたんだ。」
俺は驚いた。そんなこと初めて聞かされて。続けて店主は、
「誰だかは知らないが、同じ高校らしいんじゃ。そいつらは顔には手をださず、いつも見えない体とかを殴っていたらしい。涼はいつも痛い痛いっていよった。"僕は何もしていないのに"って泣きそうになったこともあったよ。」
「俺には何も言ってくれなかった。」
「そうなのか、確かに涼君は、このことは誰にもいわないでっていよったわ。」
「でも、俺にぐらい話してくれたって・・・」
俺は自分自身にキレかけた。なんという無力さ、観察力。どうしていつも一緒にいたのに気付いてやれなかったんだ。どこにぶつければいい、この思い。
「君には知られたくなかったんじゃろう。親友の君には。」
「・・・・・・」
「涼君この前、戦闘民族の仮面買っていったじゃろう。あれは、自分が弱いからこれをもっていれば強くなれるとおもって、買ったんじゃ。全財産はたいての。あれが始めての買い物じゃったよ。君がいうようにここの仮面は高いからの。」
「でもあの時、そんな風に・・・」
「あれは、強がりだと思う。誰だって、好きな人の前では強くありたいからの。」
「俺の前では・・・・素直になってほしかった。親友だと思ったのに。」
「親友じゃとも、いつも涼君、君のこと話しよったよ。あいつはかけがえのない友達だって。」
ならなぜ俺に話してくれなかったんだ。話していれば助かったかもしれないのに。どうしたらいいんだ。俺があのとき店主の言葉をもっと追求していればこんな事態にならなかったのに。
どんなに考えても、後悔しかなかった。ああしとけばよかった、こうしとけばよかったと。

翔は店を後にし、歩いた。気が付くと涼の家の前にいた。
家の前はすっかり片付いている。先ほどまで入口に貼ってあった、進入禁止のテープ、沢山止まっていたパトカー、全てがなかった。俺はいるはずもない涼の家のチャイムをならした。

ガチャ

扉が開く音がした。俺はもしかしたらと思い、ドアの向こうを覗いた。そこには、おばさんがいる。
涼の姿はあるはずもない。
「翔君!?どこにいっていたの、急にいなくなるから。」
「ごめんなさい。」
「そんなとこいないで、さぁ中にお入り。」
俺はそのまま、いうとおりにした。涼の家は初めてじゃないのに、なんだか景色が違う。ものたりない。
おばさんは、俺にジュースをだすと、目の前のソファーに座った。お互い話そうとはしなかった。最初に口を開いたのは俺だった。
「おばさん、最近涼変わってました。なんていうか…追いつめたような、」
「…まったく。いつもと変わらずいい子だったよ。だからなおさらショックが大きくて…」
「ごめんなさい。変なこと聞いて。」
「いいのよ、気にしなくて。翔君も辛いでしょ。」
「今でも信じられません、あいつが死んだなんて。」
「私もよ。」
俺にはまだ事実を受け止める覚悟がなかった。いじめで自殺。できることなら助けたかった、親友として。でも、もう遅い。時は過ぎ去るものだから。
「翔君は何かしているの?」
「…」
俺はどうしたらいいかわからなかった。本当のことを話していいのか、それとも嘘をついて、知らないと言ったほうがいいのか。しかし実際はどちらが本当なのか、わからない"いじめ"は直接見たわけじゃなく、間接的に聞いたのだから。でも店主が嘘をついてるとは思わない。
「翔君、知ってるの?」
「いいえ、知りません。」
「…そう。」
これ以上悲しませたくはなかった。だから嘘を選んだ、真実がわかるまでは。
「おばさん、涼の部屋いってもいいです?もしかしたら何か解るかもしれないから。」
「いいけど…何か解ったら、教えてね。隠さずに。」
「はい。」
おばさんは俺が何か知っているのをうすうす感づいているみたいだ。でも問い詰めようとはしない。本当のことを知るのが恐いのか、それとも俺の勘違いか。

俺は涼の部屋に行った。扉は開いていた。その理由は涼の部屋に行くに連れてわかった。"首吊り自殺"だからだ。本とかで知っているが、人間は窒息死すると、穴という穴からいろいろなものがでてくる。唾液・尿・糞と。だからにおいがきつい。そのためだろう、扉を開けているのは。実際すごいにおいだ。
涼の部屋に入ると、警察が言っていた縄はなかった。でも天井にはΦ2cmぐらいの穴は空いている。
「やはりこれが現実か。」
少しづつではあるが、受け止めようとしてきた。どんなに悔やんでも変わらないのだから。俺は部屋を見渡した。本棚には、マンガ・学習本・小説、机にはパソコン、その横にはTVと。いつも遊びに来ていた風景と変わりはなかった。俺はその場に座りこんだ。
「涼、なんで死んだ。他になかったのか?」
答えなど戻ってくるはずもない。その場を後にしようと立ち上がろうとしたとき、机の異物が翔の目に入った。
「うぁ」
びっくりした。そこには顔があった。しかし、それは違った。顔ではなく仮面だった。昨日涼が買ったあの仮面だ。俺はそれを手にとった。
その仮面は左頬部分が割れていた。
「あんなに買って喜んでいたのに、もう壊したのか?どじだな、あいつ。」
気がついたら涙を流していた。その仮面を眺めながら。

「おばさん、これもらってもいいです?涼が大切にしていたもの。」
「?いいけど、そんなもの好きだったのね、あの子。私が持っているより、あなたが持っていたほうが、きっと涼も喜ぶわ。」
「ありがとう、おばさん。じゃあそろそろ帰ります。」
「気をつけてね。またおいで。」
「はい。」
俺は涼の家を後にした。