2003年9月19日
「今入りました、臨時ニュースです。本日17時ごろ、安芸山で、男女5人の死体が見かりました。
死因は、一酸化中毒によるものとみられ、警察のほうから、衣服の乱れ、物取りではないので、
自殺と断定されています。また詳しい情報が入り次第、おって報告します。」
「また、自殺か。」
最近よく耳にする。なんでも、ネットで知り合った奴等があつまり、集団自殺をするという。
はやりではないと思うが、わからなくもない。
リストラ・借金・いじめ・戦争とこの御時世つまらないものだらけだ。
でも、“死”を選ぶなんて、ばかげている。他に手段はあるはずなのに…あいつだって。
「翔。ごはんよ~」
下から母の声が響いた。そんな時間かと思い、時計を見ると針は19時をさそうかとしていた。面倒くさい。
「聞こえているの?早く降りておいで。」
「うるさい、わかったよ。今から行く。」
は~、やだやだ。未成年っていうのは。なんでもかんでも、親、親、親。早く自立したい。
でも俺はまだ高校生。稼ぐ場所もないし、お金もない。くそ!悔しい。
食卓には、ハンバーグ、味噌汁といった、ごくありふれた料理が並んでいた。
翔は面倒くさそうに食事をしていた。
「今日も来ないのかしらね、先生。」
「さぁ~、忙しいんでしょ。」
「翔、どうするの?このまま辞めるの、学校。」
「たぶん。」
「多分って、曖昧な返事ね。月謝も馬鹿にならないのだから、早く決めなさい。それに先生にも悪いし。」
「ああ、そのうちね。ごちそうさま。」
「まだ、話は終わってないわよ。待ちなさい、翔!」
そんな言葉に耳も傾けず、翔は自分の部屋へと戻った。
「学校ね~。」
翔はあの事件以来、学校には行っていなかった。
2003年6月18日
俺は今年から公立高校に入学した。勉強は好きではなかったが、さすがに高校ぐらいは行きたいと思い、
猛勉強をして、この高校に受かった。頭は良くなかったからな。
高校に通いだして、まだそんなに月日は経っていないが、友達が出来た。同じクラスメイトの涼だ。
あいつとは、席が隣同士ということもあって、すぐに意気投合した。そんなある日、
「翔、今日帰りに、ちょっと付き合ってくれないか?」
「なんで?」
「なんでって、そんな冷たい言い方しなくてもいいだろ。しゃべり方直せよな。」
「うるさい。生まれつきなんだからしょうがないだろ。」
「生まれつき?赤ちゃんの時からそんな生意気だったの?ふ~ん。そうなんだ。」
涼はニヤニヤしながら翔を見た。
「そうそう、はじめてしゃべった時からこんな口調・・・・なんでや!!」
「ぷっ、はあははは。」
二人は授業中にもかかわらず、大声で笑った。
「こら~、そこ、授業中だぞ。聞く気がないなら、廊下に立っておれ!」
「すみませ~ん。」
先生はぶつぶつといいながら、授業に戻った。俺たちはまた小声でしゃべりだした。
「で、なんだよ、どこか行くの?」
「おもしろい場所見つけたんだ。ショップなんだけど、売っているものがすごいんだ。」
「何売ってるの?」
「それは、行くまで教えない。楽しみにしとけ。」
「涼、そこまでいったんだから、言えや。」
「やだね。」
「卑怯な~。」
「卑怯でいいよ~だ。」
「くそ、絶対に連れて行けよ。そこに。」
「あたりまえだろ。楽しみにまっとけ。」
放課後、二人は急いでそのショップへと足を運んだ。
学校からそう遠くはなかった。走って20分ぐらいのところだ。
「はぁはぁ、ついたよ。」
二人は息を切らしながら、ショップの入口に足を止めた。
「何も走らなくても・・・・いいんじゃ・・・なかった?」
「翔が、急げって。はぁはぁはぁ・・言ったから。」
確かに俺は言ったけど。まさか全力で行くと思わなかった。タバコやめよっかな。
「少し後悔。」
翔は息をきらせながら、その場に座った。
「翔、立てよ、入るぞ。」
涼は、すでに呼吸が落ち着いていた。それに比べて俺は。
「タバコなんか吸ってるからだよ。はい、立って。」
「勘弁してよ。」
涼は、翔に手をさしのべた。翔はその手をかり、立ち上がり、何とか呼吸を整えながら店に入った。
そこには思いもしない光景が広がっていた。店に入るなり壁一面、仮面で敷詰められている。
あまりの量に翔は言葉を失っていた。
なんという数だ。どこを見ても仮面・仮面・仮面。信じられない。こんなに数があるなんて。
「どう?すごいでしょ。」
「すごいっていうレベルじゃないだろう。なんなんだここは。」
「最近俺も知ったんだけど、ここにはいろんな種類の仮面を売っているんだ。
地方の仮面、民族の仮面といったかんじで。」
「へ~すごいな、ここまでくれば。でもなんでお前がこんなところに?」
「う、うん。たいしたことはないんだけど、ある日、いつもの帰り道を通らず、
ぶらぶらしながら帰ったんだ。そしたらここにきて、興味半分ではいってみたんだ。
そしたらこの景色だろ。なんだかすごくて。翔にも教えよっと思ってさ。」
「ふ~ん。」
俺はなんだか涼の言葉に違和感を感じた。
「翔、知ってる?仮面の存在意義。」
「はぁ?なんだ、存在意義って?」
「仮面の役割だよ。」
「そんなもん、祭りの時につけるとか、宗教の類とかで使うんだろ?」
「ぶ~、ハズレ!」
「ハズレって他に意味あるのかよ。じらさずに教えろ。」
「ひ・み・つ」
「殺す!!」
二人はいつものような感じで会話をしていた。そこに、老人がやってきて、
「いらっしゃい・・・ん?涼君じゃないか。今日も来てくれたんだね。」
「こんにちは、おじいさん。」
「今日は一人じゃないんだね。」
そう言いながら、俺の方を見た。
「どうも。」
「はじめまして。ここの店主をしてます、黒澤 昭です。」
「翔です。」
なんか変な感じだった。生まれて初めてだよ。店の人に自己紹介するの。
涼の奴、結構通ってんだな。ここに。でないと店員に向かって“おじいさん”はないだろう。
「おじいさん。この前言っていた奴、入った?」
「戦闘民族の仮面か、ちょっと待っておれ。」
そう言って、店主は奥へと消えた。
「なんだ?戦闘民族って。」
「俺も本でしか見たことないんだけど、すごくかっこよくて。ついつい取り寄せてもらったんだ。」
涼は目を輝かせながら、俺にそう言った。よっぽど気に入っているのだろう。
しかし、よく買う気になったもんだ。仮面といえば、田舎の玄関とかに般若とか飾ってあるが、
この歳ではまる奴はそういないだろう。
「かっこいいって・・・よくわからん。」
翔は理解に苦しんだ。そして奥から店主が現れた。右手には今話したものであろうというものを持って。
「涼君、おまたせ。これね。」
店主が差し出した物は、すごく特殊な色彩をした仮面だった。右半分が黒、
左半分が白とすごく対象的であった。そして目は狐みたいにつりあがり、頬には赤で模様が描かれている。
また口は、にやついている感じだった。そしてなんとも言いようのない、灰色の髪。
これはまるで、鬼そのものだ。
これをかっこいいなんて、涼のセンスがわからん。
「すげ~、やっぱり本と実物は全然違うね。」
「喜んでもらえたかい。苦労したよ、探すのに。もうこれは生産されてないからね。」
「うん。ありがとう、おじいさん。」
涼はまるで子供の頃に帰ったかのように、無邪気に笑っていた。
「涼、さっきに続き聞かせろよ。なんだよ、存在意義って。」
「あれはね・・・」
「もう一つの自分じゃよ。」
店主が話しに入ってきた。
「自分?なんです、それ。」「そうじゃな~わかりやすく言うと、夜店にキャラクターのお面が売ってるじゃろう。買ったことあるかい?」
「確か、子供のころ一度だけ。その時好きだった、お面を親父に買ってもらったような気がする。」
「そうかい。だったらそのお面を付けたときの気持ち覚えておるか?」
「・・・・忘れました。そんな昔のこと。」
「多分じゃと思うが、それを付けた時は少なくとも、強くなったはずじゃ。
そのキャラクターに成りきったという心理がはたらいて。」
「なんで?」
「TVでそのキャラクターは強いじゃろ、正義の味方とかなんじゃから。
子供の憧れじゃからな~。そういったもんは。」
「確かに。弱い怪獣とかはお面として売ってないですね。」
「そして、TVでは怪獣をやっつける。だから強い。
その心理が働いて、お面をつけた自分は強いとなるんじゃ。」
「それと、もう一つの自分ってどう関係があるんです?」
俺はちんぷんかんぷんだった。続けて店主が、
「それを付けることによって、自分が自分でなくなるんじゃ。
そのキャラクターに成りきるから。俺は強い正義の味方だぞってな。」
「そうか。そしたら弱い自分でもそれをつけたら、強くなる。」
「そう言うことじゃ。自分は自分なのに、そのお面によって勘違いをする。
だから仮面はもう一つの自分なんじゃ。」
「翔、わかった?」
ようやくわかった。まさかここまで、仮面の奥が深いとは。俺は関心するしかなかった。
たかが仮面と思っていたけど、ここまで話を聞くとそうとも言ってられない。
自分の分身か~、なんかとんでもないものだ。
「翔?」
「うぁ、ごめん、あまりにもすごい内容だから、あっけにとられて。」
「だろぅ。でもよかった。翔なら“あっそ”で終わりそうだから。」
「そんなことないよ。すごいものはすごいって思うから。」
翔は改めて店に飾ってある仮面を見た。もう一人の自分、少し欲しくなったな気分になっていた。
しかし数がありすぎる。翔はその中から何個か手にとって見た。
そんななか、翔は気に入ったものを一つ見つける。鬼の面だ。
そして裏には金額が表示されたラベルがあり、その金額は一・十・百・千・万・・・
「はい?」
翔は目を疑った。そこに表示されている金額は21万5千、あまりの金額に仮面を落としそうになった。
他の仮面を見てみると、15万6千・9万・38万7千、とんでもない金額が表示されている。
これは高校生には到底、手が出せない品物だ。翔は慌てて、
「涼、その仮面いくらだ。」
「17万3200。どおした?」
「はぁ?お前それ買うの?」
「えっ、もう買ったよ。」
「は??買った?」
「うん。」
「お前、そんな金どっからでてきたの。」
「貯金。」
「貯金って・・・・」正直涼が恐かった。こんな仮面に18万もだすなんて。貯金って俺らまだ16歳だぞ。
どんなに小遣いもらってもそんな金額たまるはずがない。でも、涼は持っている。うらやましい限りだ。
「翔、なんかいいのあった?」
「あったもなにも、そんな大金俺もってね~よ。」
「そうか?安い仮面もあるだろう。」
「そういうことじゃない。」
翔は、涼との貧富の差にすこしいらついていた。
「もういい。買ったんなら帰るぞ。」
「ほ~い。」
「じゃ~おじいさん、ありがとね。」
そういって二人は店を出ようとした。
「翔君、」
翔は振り返り、店主を見た。店主は翔に向かって小声で、
「涼君を頼む。」
俺は思わず、
「なにが?」
「頼む。」
店主はそれ以外のことを口にしようとしなかった。俺は不思議に思った。
頼むって、何を。俺はとりあえず、涼のもとに行った。
「おじいさん、なんか言ったの?」
「お前を頼むって。」
「ふ~ん。」
「意味がわからん。」
「だね、ほっとけば。」
俺は不思議だったがその時はあまり気にも止めなかった。
いつもの帰り道まで戻ると、涼は用事がまだあるからといって翔のもとを離れようとした。
「翔、またね。」
「おう、明日な。」
そういって、涼は走り去った。涼は俺と違って気が弱い方だ。喧嘩も弱く、体格もやせている。
ただ頭は良かった、いやむしろ良すぎた。こいつがここの高校を選んだのが不思議なくらい。
あいつのレベルならもっと上があったろうに。不思議な奴だ。
「今入りました、臨時ニュースです。本日17時ごろ、安芸山で、男女5人の死体が見かりました。
死因は、一酸化中毒によるものとみられ、警察のほうから、衣服の乱れ、物取りではないので、
自殺と断定されています。また詳しい情報が入り次第、おって報告します。」
「また、自殺か。」
最近よく耳にする。なんでも、ネットで知り合った奴等があつまり、集団自殺をするという。
はやりではないと思うが、わからなくもない。
リストラ・借金・いじめ・戦争とこの御時世つまらないものだらけだ。
でも、“死”を選ぶなんて、ばかげている。他に手段はあるはずなのに…あいつだって。
「翔。ごはんよ~」
下から母の声が響いた。そんな時間かと思い、時計を見ると針は19時をさそうかとしていた。面倒くさい。
「聞こえているの?早く降りておいで。」
「うるさい、わかったよ。今から行く。」
は~、やだやだ。未成年っていうのは。なんでもかんでも、親、親、親。早く自立したい。
でも俺はまだ高校生。稼ぐ場所もないし、お金もない。くそ!悔しい。
食卓には、ハンバーグ、味噌汁といった、ごくありふれた料理が並んでいた。
翔は面倒くさそうに食事をしていた。
「今日も来ないのかしらね、先生。」
「さぁ~、忙しいんでしょ。」
「翔、どうするの?このまま辞めるの、学校。」
「たぶん。」
「多分って、曖昧な返事ね。月謝も馬鹿にならないのだから、早く決めなさい。それに先生にも悪いし。」
「ああ、そのうちね。ごちそうさま。」
「まだ、話は終わってないわよ。待ちなさい、翔!」
そんな言葉に耳も傾けず、翔は自分の部屋へと戻った。
「学校ね~。」
翔はあの事件以来、学校には行っていなかった。
2003年6月18日
俺は今年から公立高校に入学した。勉強は好きではなかったが、さすがに高校ぐらいは行きたいと思い、
猛勉強をして、この高校に受かった。頭は良くなかったからな。
高校に通いだして、まだそんなに月日は経っていないが、友達が出来た。同じクラスメイトの涼だ。
あいつとは、席が隣同士ということもあって、すぐに意気投合した。そんなある日、
「翔、今日帰りに、ちょっと付き合ってくれないか?」
「なんで?」
「なんでって、そんな冷たい言い方しなくてもいいだろ。しゃべり方直せよな。」
「うるさい。生まれつきなんだからしょうがないだろ。」
「生まれつき?赤ちゃんの時からそんな生意気だったの?ふ~ん。そうなんだ。」
涼はニヤニヤしながら翔を見た。
「そうそう、はじめてしゃべった時からこんな口調・・・・なんでや!!」
「ぷっ、はあははは。」
二人は授業中にもかかわらず、大声で笑った。
「こら~、そこ、授業中だぞ。聞く気がないなら、廊下に立っておれ!」
「すみませ~ん。」
先生はぶつぶつといいながら、授業に戻った。俺たちはまた小声でしゃべりだした。
「で、なんだよ、どこか行くの?」
「おもしろい場所見つけたんだ。ショップなんだけど、売っているものがすごいんだ。」
「何売ってるの?」
「それは、行くまで教えない。楽しみにしとけ。」
「涼、そこまでいったんだから、言えや。」
「やだね。」
「卑怯な~。」
「卑怯でいいよ~だ。」
「くそ、絶対に連れて行けよ。そこに。」
「あたりまえだろ。楽しみにまっとけ。」
放課後、二人は急いでそのショップへと足を運んだ。
学校からそう遠くはなかった。走って20分ぐらいのところだ。
「はぁはぁ、ついたよ。」
二人は息を切らしながら、ショップの入口に足を止めた。
「何も走らなくても・・・・いいんじゃ・・・なかった?」
「翔が、急げって。はぁはぁはぁ・・言ったから。」
確かに俺は言ったけど。まさか全力で行くと思わなかった。タバコやめよっかな。
「少し後悔。」
翔は息をきらせながら、その場に座った。
「翔、立てよ、入るぞ。」
涼は、すでに呼吸が落ち着いていた。それに比べて俺は。
「タバコなんか吸ってるからだよ。はい、立って。」
「勘弁してよ。」
涼は、翔に手をさしのべた。翔はその手をかり、立ち上がり、何とか呼吸を整えながら店に入った。
そこには思いもしない光景が広がっていた。店に入るなり壁一面、仮面で敷詰められている。
あまりの量に翔は言葉を失っていた。
なんという数だ。どこを見ても仮面・仮面・仮面。信じられない。こんなに数があるなんて。
「どう?すごいでしょ。」
「すごいっていうレベルじゃないだろう。なんなんだここは。」
「最近俺も知ったんだけど、ここにはいろんな種類の仮面を売っているんだ。
地方の仮面、民族の仮面といったかんじで。」
「へ~すごいな、ここまでくれば。でもなんでお前がこんなところに?」
「う、うん。たいしたことはないんだけど、ある日、いつもの帰り道を通らず、
ぶらぶらしながら帰ったんだ。そしたらここにきて、興味半分ではいってみたんだ。
そしたらこの景色だろ。なんだかすごくて。翔にも教えよっと思ってさ。」
「ふ~ん。」
俺はなんだか涼の言葉に違和感を感じた。
「翔、知ってる?仮面の存在意義。」
「はぁ?なんだ、存在意義って?」
「仮面の役割だよ。」
「そんなもん、祭りの時につけるとか、宗教の類とかで使うんだろ?」
「ぶ~、ハズレ!」
「ハズレって他に意味あるのかよ。じらさずに教えろ。」
「ひ・み・つ」
「殺す!!」
二人はいつものような感じで会話をしていた。そこに、老人がやってきて、
「いらっしゃい・・・ん?涼君じゃないか。今日も来てくれたんだね。」
「こんにちは、おじいさん。」
「今日は一人じゃないんだね。」
そう言いながら、俺の方を見た。
「どうも。」
「はじめまして。ここの店主をしてます、黒澤 昭です。」
「翔です。」
なんか変な感じだった。生まれて初めてだよ。店の人に自己紹介するの。
涼の奴、結構通ってんだな。ここに。でないと店員に向かって“おじいさん”はないだろう。
「おじいさん。この前言っていた奴、入った?」
「戦闘民族の仮面か、ちょっと待っておれ。」
そう言って、店主は奥へと消えた。
「なんだ?戦闘民族って。」
「俺も本でしか見たことないんだけど、すごくかっこよくて。ついつい取り寄せてもらったんだ。」
涼は目を輝かせながら、俺にそう言った。よっぽど気に入っているのだろう。
しかし、よく買う気になったもんだ。仮面といえば、田舎の玄関とかに般若とか飾ってあるが、
この歳ではまる奴はそういないだろう。
「かっこいいって・・・よくわからん。」
翔は理解に苦しんだ。そして奥から店主が現れた。右手には今話したものであろうというものを持って。
「涼君、おまたせ。これね。」
店主が差し出した物は、すごく特殊な色彩をした仮面だった。右半分が黒、
左半分が白とすごく対象的であった。そして目は狐みたいにつりあがり、頬には赤で模様が描かれている。
また口は、にやついている感じだった。そしてなんとも言いようのない、灰色の髪。
これはまるで、鬼そのものだ。
これをかっこいいなんて、涼のセンスがわからん。
「すげ~、やっぱり本と実物は全然違うね。」
「喜んでもらえたかい。苦労したよ、探すのに。もうこれは生産されてないからね。」
「うん。ありがとう、おじいさん。」
涼はまるで子供の頃に帰ったかのように、無邪気に笑っていた。
「涼、さっきに続き聞かせろよ。なんだよ、存在意義って。」
「あれはね・・・」
「もう一つの自分じゃよ。」
店主が話しに入ってきた。
「自分?なんです、それ。」「そうじゃな~わかりやすく言うと、夜店にキャラクターのお面が売ってるじゃろう。買ったことあるかい?」
「確か、子供のころ一度だけ。その時好きだった、お面を親父に買ってもらったような気がする。」
「そうかい。だったらそのお面を付けたときの気持ち覚えておるか?」
「・・・・忘れました。そんな昔のこと。」
「多分じゃと思うが、それを付けた時は少なくとも、強くなったはずじゃ。
そのキャラクターに成りきったという心理がはたらいて。」
「なんで?」
「TVでそのキャラクターは強いじゃろ、正義の味方とかなんじゃから。
子供の憧れじゃからな~。そういったもんは。」
「確かに。弱い怪獣とかはお面として売ってないですね。」
「そして、TVでは怪獣をやっつける。だから強い。
その心理が働いて、お面をつけた自分は強いとなるんじゃ。」
「それと、もう一つの自分ってどう関係があるんです?」
俺はちんぷんかんぷんだった。続けて店主が、
「それを付けることによって、自分が自分でなくなるんじゃ。
そのキャラクターに成りきるから。俺は強い正義の味方だぞってな。」
「そうか。そしたら弱い自分でもそれをつけたら、強くなる。」
「そう言うことじゃ。自分は自分なのに、そのお面によって勘違いをする。
だから仮面はもう一つの自分なんじゃ。」
「翔、わかった?」
ようやくわかった。まさかここまで、仮面の奥が深いとは。俺は関心するしかなかった。
たかが仮面と思っていたけど、ここまで話を聞くとそうとも言ってられない。
自分の分身か~、なんかとんでもないものだ。
「翔?」
「うぁ、ごめん、あまりにもすごい内容だから、あっけにとられて。」
「だろぅ。でもよかった。翔なら“あっそ”で終わりそうだから。」
「そんなことないよ。すごいものはすごいって思うから。」
翔は改めて店に飾ってある仮面を見た。もう一人の自分、少し欲しくなったな気分になっていた。
しかし数がありすぎる。翔はその中から何個か手にとって見た。
そんななか、翔は気に入ったものを一つ見つける。鬼の面だ。
そして裏には金額が表示されたラベルがあり、その金額は一・十・百・千・万・・・
「はい?」
翔は目を疑った。そこに表示されている金額は21万5千、あまりの金額に仮面を落としそうになった。
他の仮面を見てみると、15万6千・9万・38万7千、とんでもない金額が表示されている。
これは高校生には到底、手が出せない品物だ。翔は慌てて、
「涼、その仮面いくらだ。」
「17万3200。どおした?」
「はぁ?お前それ買うの?」
「えっ、もう買ったよ。」
「は??買った?」
「うん。」
「お前、そんな金どっからでてきたの。」
「貯金。」
「貯金って・・・・」正直涼が恐かった。こんな仮面に18万もだすなんて。貯金って俺らまだ16歳だぞ。
どんなに小遣いもらってもそんな金額たまるはずがない。でも、涼は持っている。うらやましい限りだ。
「翔、なんかいいのあった?」
「あったもなにも、そんな大金俺もってね~よ。」
「そうか?安い仮面もあるだろう。」
「そういうことじゃない。」
翔は、涼との貧富の差にすこしいらついていた。
「もういい。買ったんなら帰るぞ。」
「ほ~い。」
「じゃ~おじいさん、ありがとね。」
そういって二人は店を出ようとした。
「翔君、」
翔は振り返り、店主を見た。店主は翔に向かって小声で、
「涼君を頼む。」
俺は思わず、
「なにが?」
「頼む。」
店主はそれ以外のことを口にしようとしなかった。俺は不思議に思った。
頼むって、何を。俺はとりあえず、涼のもとに行った。
「おじいさん、なんか言ったの?」
「お前を頼むって。」
「ふ~ん。」
「意味がわからん。」
「だね、ほっとけば。」
俺は不思議だったがその時はあまり気にも止めなかった。
いつもの帰り道まで戻ると、涼は用事がまだあるからといって翔のもとを離れようとした。
「翔、またね。」
「おう、明日な。」
そういって、涼は走り去った。涼は俺と違って気が弱い方だ。喧嘩も弱く、体格もやせている。
ただ頭は良かった、いやむしろ良すぎた。こいつがここの高校を選んだのが不思議なくらい。
あいつのレベルならもっと上があったろうに。不思議な奴だ。