能登の地に 遠い昔から伝説が残っておりました。(要約しますと?)
村人を困らせた悪行三昧の猿鬼”として伝承は続きます。
柳田という村の当目(とうめ)と呼ぶ土地に岩井戸…という大きな岩穴があったそうです。
そこを棲家にした猿鬼”が恐ろしく強い怪物で、十八の鬼を眷属として暴れまわっていた。
夜行性なのか? 暗くなれば牛馬を襲って喰い、田畑を荒らして作物を奪い取り…
時には女子供を略奪して、岩井戸の傍にある巨木の上で酒盛りまでしていたそうです。
村人は畏れ困窮し、神様に猿鬼退治を懇願したという訳です。
神々は出雲に集結した際に事態を解決すべく会談、遂に能登の事は能登の神に一任。
能登一の宮 気多大明神と 輪島市三井 大幡神社の神杉姫に追討の命が下りました。
猿鬼を退治すべし、神は軍勢を興して当目の地へと向かわれました。
正面から攻め入る神の軍勢から一斉に無数の弓矢で攻撃が開始されます。
ところが知恵もあり敏捷な猿鬼たちは、ことごとく躱してしまいました。
猿鬼の屈強な抵抗に対し、神々は戦略を再構築するのです。
幾度もの戦闘で時間ばかり費やしたある日のこと。
神杉姫は、思案のため外浦に面した輪島の地にある稲舟の浜へ立ち寄られ…
寄せる波音に耳を澄ましておられると、不思議にも波の音が囁きに聞こえるのでした。
『白布干反にて御身を隠し 筒の矢に射させ給えよ神杉の姫』と聞こえた(幻聴?)そうな。
この体験を神様方に伝えると、まさに名案であろうと軍略がまとまりました。
村人に筒に入る矢仕掛けを作らせた後、再び猿鬼退治に出陣されたのでした。。
神様の軍勢は迷彩の如く白布に身を隠し奇襲、岩井戸の岩穴を包囲していきます。
案の定、猿鬼たちは巨木の上で酒盛りの最中、猛然と放たれた弓矢を躱しながら
煩わしいのか、その内に気多大明神が放った矢を素手で掴み取りました。
すると筒の仕掛けから内側の毒矢が飛び出し、猿鬼の左目に突き刺さります。
あまりの激痛で苦しみ慌てて逃げ出した猿鬼は、もう岩穴から出てこなくなりました。
ここで仕留めようと気多大明神と神杉姫の次の手は?十二単に身を包み絶世の美女に。
琴など弦楽器を見事に奏でながら…傷の癒えない猿鬼を艶美で騙し誘い出します。
身も心も病み苦しむ猿鬼たちは警戒を忘れ岩穴から眷属とともに出てきました。
神杉姫が脇に隠し持つ2尺1寸の名剣で猿鬼の首を一刀両断。
断末魔の猿鬼は延々と黒く川を濁すほどの血を流しながら絶命し、眷属も討ち取られました。
この地は猿鬼討伐の後も神社として祀られ、血で染めた川は…黒川と呼ばれています。
いまも猿鬼の首塚を荒らすと驚天動地の大雨災害になると信じられているそうです。
北陸の能登地方に伝わる昔話しでした。
さて、防衛省の大臣には?とても出来ない大胆な戦略など 不可思議な伝説。
しかし、内容から私が察するのは、この地の森林や洞窟に住む縄文系の狩人たち。
猿鬼”として忌み嫌われた人々の真の姿ではないかと推理しています。
次第に開墾して勢力を拡大する渡来系の農耕民族。
いつしか縄文系の民族がテリトリーとする狩りの領域にまで居住地を広げた衝突。
猿鬼”などと揶揄しながら畏怖した運動能力、家畜を奪った件などは間違いなさそう。
元来、真脇など周辺の土地は縄文の時代から栄えた一大拠点がある能登半島。
神々として描かれた朝廷などの使者や軍勢が支援して駆逐した原住民族の末裔。
不都合なら乱暴な悪者と表現して隠蔽した体質は、現代とどこが違うのでしょう。
伝承される神話や昔話しにメタファー(隠喩)として隠された民族の趨勢と殺戮の歴史。
洞窟住居は、彼ら直系の縄文人が棲家とした場所の名残り。
蹂躙し、駆逐して奪い取った過去を闇に隠しても 畏れ…祟りなど罪悪感が残った。
いまは神社として祀られた岩井戸も、最期まで生き抜いた原始生活者の聖域でしょう。
この伝説の猿鬼”は、民衆にトリックスター的に捉えられ愛される存在でもあります。
神社の歴史や云われを書き記し… そこに永井豪先生のイラストが描いてあります。
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この鳥居から谷に降りていくことになります。
縄文人と渡来した弥生人の民族と混血が進んだ確執は、世代を超えて共存しています。
倭の血と 朝鮮半島からの大陸の民族が入り込んだ深い血の絆に考えさせられます。
岩井戸 神社 として祀られる場所に…後世の来訪者として見聞する私のような人間。
縄文一万年をも超えるという近年の研究。 狩猟民で猟犬として大切にしていたそうです。
右側にある阿形相の狛犬、毬を前足で押さえ
左側にある吽形相の狛犬、子を前足で押さえた姿。
蜩(ひぐらし)の鳴く音が虚空に満ちて…頬を伝う汗、夏の風が心を休めてくれます。
鳥居をくぐり 結界に足を踏み入れると、戦慄が背筋に冷たい何かが…高鳴る胸の鼓動。
彷徨う遺恨の魂 …もしかしたら古代の陰惨で悲しい出来事を封じた場所かもしれない…。
綺麗な谷川の清流。 この奥で幻視する遠い日の息吹と慟哭を感じることができますか。
石川県鳳珠郡能登町柳田字当目 県道26号線沿い
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