SILENT SERVICE
大洋を縦横無尽に活動する潜水艦戦力を英訳した呼び名となっています。
彼らはサブマリナー!
こちらは、海上自衛隊 『くろしお潜水艦』 (おやしお型潜水艦)の雄姿です。
海中での静穏な行動には定評ある日本製のディーゼル艦。
現代の潜水艦らしく、考慮されたティアドロップ型の形状で水圧の抵抗を減らします。
高精度ハイドロホーンアレー方式の音響探査機能は米国譲りのハイテク。
日夜…日本周辺海域を守るために航行しています。
乗艦しているのは、もちろん貴女の隣人…自衛官です。
現在までは、たとえ戦闘兵器で職務を遂行しようと彼等は立派な正義を貫いています。
複雑な世界のパワーバランスから見れば特異な日本の海上防衛…
日本政府の新たな選択肢により、海上自衛隊の意味も変わるのでしょうか。
核を所有しない、戦わない、攻撃しない、しかし世界の軍事レベルに対して高度な兵器は配備せざるをえない立場。
たとえ有事が発生しても矛盾と背中合わせ…まさに影ながら命懸けで安全を守る防人。
我々は、安穏と暮らす為に身の安全を自衛隊に任せ、感謝どころか批判だけしていませんか。
この国を…頽廃した民衆を守る価値はあるのか。
むしろ現状に問題提起したいのは彼等のほうではないでしょうか。
『沈黙の艦隊』
かわぐちかいじ氏の描いた近未来の世界情勢を舞台にした漫画作品。
1988~1996年に渡り『モーニング』(講談社)誌上に連載されました名作です。
この連載期間には、ソ連邦崩壊から冷戦終結といった実際の世界情勢が激動した時代であり、作品中にも変化を与えています。
あらすじは…
日本近海の太平洋上で潜水艦同士による海難事故が発生しました。
千葉県犬吠埼沖、海上自衛隊所属のディーゼル潜水艦『やまなみ』の被った海難事故。
それは、日本へ領海侵犯していたロシアの原子力潜水艦を巻き込んだ衝突による沈没。
主人公は、『やまなみ」艦長である海江田四郎二等海佐と彼の部下76名の全乗員は生存が絶望的という衝撃の報道から始まる。
海江田は殉職。 二階級特進して階級は海将補となります。
(形式上は、いきなりメインキャスト全員死亡…でした。)
だが、海江田と『やまなみ』クルー全員は脱出し生存していたのです。
この恐るべきプロジェクトは、現在では若干の疑問が残りますが、『やまなみ』クルーは、日米共謀により極秘開発により建造された最新技術の集大成ともいえる
原子力潜水艦『シーバット』の乗組員に選ばれ、原子力潜水艦操船のノウハウ獲得任務に就いているという荒唐無稽とも思える筋書きでした。
前代未聞の特殊任務”は原潜クルーとなること。
非核三原則のある日本、自衛隊が原子力潜水艦を保有する足がかり…
ロシア原潜を道連れにした海難事故は、海江田達を日本初の原潜へと乗務させる偽装工作であったと判明します。
(しかも自衛官が任務とはいえ、家族にも秘匿で殉死を偽らねばならない過酷さ)
当然ながら、漫画ゆえの大胆な物語設定には驚かされます。
海江田の指揮のもと高知県足摺岬沖での試験航海に臨む『シーバット』は日本初の原潜であり、アメリカ海軍所属の艦艇となります。
(祝賀会の席で、日米関係や同胞に対する背信行為だと…皮肉を込めて海のコウモリ”だと言われても、海江田艦長は、潜水艦は音響探知が重要。コウモリのように超音波で索敵する潜水艦には相応しい名前だと…さらりと返します。終始…沈着冷静で超人的な思考を発揮する海江田四郎は、新しいタイプのヒーローと映ります。)
その大望”が幕を開ける瞬間が到来します。 航海試験の途中、海江田は突如艦内で全乗員に命じて反乱を起こすのです。
追跡を振り切るべく特殊な撹乱用の音響魚雷を射出。米海軍の監視からロストして逃亡艦となるのでした。
奪われた『シーバット』の真の目的とは?
海江田などクルー全員には、思想や素性などの問題は一切なし。
この異常事態が公になれば日米の国際関係には大打撃となります。
米艦隊の威信をかけ総力を上げた追跡網が洋上に展開される中…忽然と姿を消す新鋭潜水艦の獰猛さ。
この秘匿事態をいち早く解明したのは、海江田の僚友である海自の深町艦長。
彼は潜水艦『たつなみ』の艦長であり、海江田とはライバルのような真逆の直感的な熱いキャラクター。
物語の重要人物として終始活躍する日本人です。
『日本初の原潜乗組員。 彼らは愛する者達と永遠に別れることで、それを選んだのだ』 …深町の追求に対する海自海将の言葉。
以降、なんと海江田を国家元首とする…独立戦闘国家『やまと』を宣言するのでした。
この諧謔は、明らかに国家としての日本政府が成し遂げられなかった、日本民族の英断としての試みという壮大な実験”と呼べるでしょう。
『我々は独立国 やまと』
モーツァルト作曲 交響曲第40番…効果的に使われていますね。
原子力蒸気タービンを搭載した原潜は、海水中から酸素を分離させ、長期に渡る潜水行動を可能とします。
船体は無反響タイルを張り巡らせ音響探査から逃れ、水中速度40ノット以上、最大潜水深度1250mという脅威のスペックに533mm魚雷管8門。
しかも広大な大洋は…地球上で月よりも遠い軌跡を描けるフィールド。
事実上 『やまと』を捉えきれる戦力は存在しない…。
最大の疑惑、それは日本と違い、出港時『シーバット』は米国側の核弾頭を積載している可能性があると発覚します。
核武装した新鋭原潜がジャックされた、世界に与える恐怖は計り知れません。
アメリカ合衆国大統領ベネットは、海江田を危険な核テロリストに仕立てて抹殺を図り、事態を収束しようとするのですが。
衆人環視のもとで『やまと』を葬り去ることで権威を保ちたい国家代表。
ところが世界最強の軍事力を前に、神出鬼没の天才的な操艦術と原潜の優れた性能を駆使した戦略が次々と敵を戦闘不能に追い込んでいく。
しかも核兵器という脅威を武器に、世界軍事の矛盾を正面から粉砕していきます。
日本から乖離した元自衛官達の真意は何か?。日本政府と同盟関係を結ぶという稀代の戦略。
そしてアメリカやロシアの艦隊を叩き、世界に圧倒的な見えざる脅威として認識されていきます。
遂には、核武装による均衡を掲げる先進諸国と対峙しながら…国際連合本部を目指す航海を慣行することとなる。
ニューヨークを目指す原潜『やまと』…
戦後、日本が成し得なかった、もうひとつの選択肢。
それは日本人の培ってきた力と善の精神性のみを抽出したような象徴。
これら狂気とも思えた行動の裏には、奇蹟の如き『世界規模の軍縮・核廃絶』という大望が次第に明らかになっていきます。
海江田四郎は、海自始まって以来のトップエリート。
沈着冷静にして大胆な操艦技術と乗組員にも強い絆で慕われる人格の者。
『やまと』は無数の魚雷と対潜弾を躱しながら、高度な戦略で勝利を続けます。
その行動は世界の耳目を集め、強国の軍事バランスに支配された国家に属さず防衛を受けられるという新しい構想を示します。
防衛される国々は、一定の補給を『やまと』に提供するだけ。
報酬は平和維持でもあり、究極の犠牲(サクリファイス)となるために存在し続ける艦隊。
(仮に…『やまと』が報復撃沈されても、それらの国々に戦火は及ばない。)
『やまと』の示す防衛理論は、世界で戦争という破壊行為などあれば、姿すら掌握できない核武装潜水艦から即時報復攻撃を行うという通告。
これまで不可能とされたことが、海江田と『やまと』を持ってすれば叶う。
地上で戦争行為があり、蹂躙される国があれば敵として核攻撃されるリスクを冒してまで軍事行動に踏み切りますか?。
ただ一艦で世界を圧倒する謎の男『海江田』…キャプテン・カイエダ”の類い希なカリスマ性と思想、危惧される世界の軍事バランス崩壊。
(まさに民意とは、空虚な偶像を必要とする…いい加減な意識の総体ですね。)
日本の与党は解散総選挙、跳梁跋扈した世界の政治家や黒幕の権謀術数。
時には、白鯨とエイハブ船長に喩えられることも…
誰もが…戦争という破壊行為を憎むことで『沈黙の艦隊』の一員となれる。
シンプルかつ壮大なテーマは、世界市民という夢を与えていくのです。
米艦隊とも数々の死闘を繰り広げながら、ニューヨークへ到達。
しかし、これは単純な奇蹟や英雄物語ではありません。
国連総会に出席した海江田艦長は、その壮大な思想実現を体現し、世界に問うのです。
無論、変化を畏れる為政者の猛反発、最後には狙撃され脳に致命的なダメージを負う。
エレクトリカル・サイレント(電気的沈黙)脳死状態となりながら、心臓の鼓動だけで世界に届くメッセージを遺して…不朽の存在となる海江田四郎。
無敵を誇る『やまと』も浮上時に謎のミサイル攻撃で撃沈されてしまいます。
全ては終わってしまうのか、世界の軍事兵器永久追放は成し得ないのか?
世界中に広がる失望と慟哭…
その瑠璃色をした海からの鮮烈な意志は、協調した五つの世界大国の軍人と潜水艦隊に引き継がれていくのでした。
『独立せよ』 …あらゆる事態を予測した海江田艦長は、手紙を遺していたのです。
人類同士が、憎み争い殺し合う、戦争というシステムから『独立』せよ。
ビーインディペンデント(英)、 サブタンタルターディオス(印)、 フォダ ドウリ(中)
など…各国の言葉で伝えられていく海江田の意志は『独立』。
世界の問題は、この広大な海から眺めれば…きっと解決できるはず。
あまり知られていませんが、現実に自衛隊の装備よりも凄いのは隊員の練度。
掃海艇による機雷処理や対潜哨戒機による索敵などは、米軍以上のスキルを誇ります。
海上自衛隊の護衛艦隊は、まさに最前線で国土と領海を死守する孤独な戦いを日夜繰り広げているのですから。
いかに優秀であろうと、評価も敬意すらない存在。
それでも自由な発砲も攻撃すら許されない戦い、己の生命を防壁とする仕事に就かねばならない…言葉無き防人。
いままた日本人は、戦火を避けられぬ決断をしようとしています。
『専守防衛』という、戦後の日本が辿り着いた仕組みは理想のひとつ。
無意味に相手国の恫喝や暴挙に巻き込まれてはいけません。
そして損失なき、犠牲なき平和や安定がないことも事実なのです。
思考を停止せず、常に考え続けてください。
いかにして平和を維持していくかを…
自衛隊の兵器は殺し合うためではなく、守るための武装(勇気)なのです。
『光すら届かぬ深海から、幾度も世界を戦慄させる宣言を繰り返してきた海江田四郎』
その言葉に、普遍の人類意識が感じられます。
苦難を潜り抜け…死地から生還した者への共感。
この作品(漫画)をぜひ一度ご覧ください。
年月を超えて、いまこそ日本人とは何をすべきかという問いかけが蘇ります。
そんな作品世界を短時間に掴めるかもしれない
沈黙の艦隊…
絶体絶命の戦線から鮮やかに離脱していく『やまと』に向けて
深町洋艦長の叫びが、暗い海原に響きます。
『日本を、アメリカを…世界を! どこまで試す!…』
『海江田ぁ…、 どこまで試す!!……』
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