あれは、ほんの数時間前のこと
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動脈壁の石灰化”らしいですね?。
このCTの画像には、くっきりと輪郭まで解るな。
おおかたの大動脈解離、この患者は下行大動脈の解離が始まるⅢb型。
胸部のレントゲン写真、本来なら大動脈は映りづらい…いや映らないもので
しかし、この患者さんの画像には、明らかにそれと解る輪郭まで見てとれる。
通常は、弾力性に富んでいるのが動脈の壁。
長年の高血圧による影響や … 加齢のためにと考えられます。
かなり高齢のおばあちゃん。 … 激痛だし辛かっただろうね。
動脈硬化と高血圧が引き起こしてしまう『大動脈解離』の特徴なんです。
検査結果も確認してるけれど
今夜は緊急手術も無理だから、いまは異常な血圧の高さを下げるべく
内科的な治療が行われているところで …
とりあえず心臓血管外科の医師にも連絡したところだしな。
こうして血圧を下げていけば、患部の解離を抑えていけますからね。
血管の偽腔にある血液を固めながら、膨れ上がる状態を緩和しながら朝を待つか … 。
なんとかこれで痛みがとれてくれれば … ね。
(早ければ一ヶ月ほどで、退院してもらえますよ。)
CTの画像では左の胸腔に溜まる血液の様子が解る。
通路でストレッチャーを押していた緊張から … ひと息ついた。
研修医の頃は、なんでも目まぐるしい処置室の動きに翻弄される自分がいたけれど
それよりも医療の現場は、発見ばかりだ。
医師は個性ありすぎるし、患者の家族も複雑?な人はいる。
それと同じように …
症状は同じでも 厳密に言えば 一人として同じ体質も症状もない。
『まさしく患者さん(傷病)との一期一会だよな。』
驚くほど高かった血圧も130から … さらに下降している。
気のせいか、おばあちゃんの表情も穏やかになってるようだし。
もし内部に縦隔(大動脈の)あたりの僅かな出血があるかもしれないけれど。
こうした症状の患者さん、それも高齢ということで予後の状態が悪いのが普通です。
(後で大動脈瘤の破裂という結果に)
手術 … 少なくともこの病院では、オペは難しいだろうね。
救命救急センターでは、早く症状を特定して、より専門の医師や設備ある医療機関に搬送するなど、処置と判断のスピードが重要で。
ようやく家族も到着したようだし。
動脈硬化が酷いが、出血が治まってるようだから、モルヒネを投与して今夜は安静に処置室で眠ってもらうしか … 。
日本の社会を支えてきてくれたのはお年寄り、立派なおばあちゃんだから。
どうしても助けてあげたいのだけれど … 。
患者さん、手術に体力がもつかどうか いつも問題はそっちかな。
心臓血管外科の医師も高度な手術に挑めない理由はあるんです。
リスクは大きくて、手術って簡単に踏み切れないんです。
家族の希望次第ですけど、明朝は大学病院に搬送されることでしょう。
夜更けなんて … 数値上の時間経過を忘れて久しいな。
まさしく搬送されてくる患者は一刻を争う現場でもあるから。
当直医も看護師にも あいにくの雨だから。
今度は … 若い母親が子供を連れてやってきたようだ。
インフルエンザも流行しているけれど、必ずしもそうとは限らない。
発熱だけでも、 … でも親には心配だから。
『自分も幼い頃、両親には心配かけていたものだ。』
誰にも病気はしてほしくないよ、もちろん怪我だって。
一瞬、処置台に寝かされていた … おばあちゃんの姿が重なった。
とても優しいお母さん、いつも大切な人を守りたい気持ち。
この病院には、ゴッドハンド”なんていない、名医と呼ばれて自慢する人もいない。
ドラマみたいな展開もない、無理解な市民が怒鳴り込むこともある。
投げ出さず、いかなる症状にも可能性があれば挑みたい。
看護師も疲労困憊しながら、繊細な処置を行い…いまも取り組んでいます。
どんな角度からみても 全ての職員は直向ですよ。
真に必要なのは『心』なのだから。
私だって ここで精一杯に守りたいんだ!。
いつだって、がむしゃらに、そして冷静に君と
救急隊からの一報です!!
はい解りました! いま行きます。
長い夜になりそうだ。
すぐに夜も明け いつもの喧騒の中に取り残される自分。
街は苦手ですね … いまでも
いくつの生命を繋いでいけるのだろう … 。
つづく
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