それは…まさに霧海(むかい)ともいえる深く白い世界でした。
スティーヴン・キングが書いた小説『霧』を題材に映画化した…
ホラー映画 『ミスト』のようでした。
いかなる怪異が起ころうと不思議ではない静寂さが時と空間の意識を麻痺させそうな夜。
とある港町は…通常の世界から隔絶されたように視界を奪われていました。
彼方の漁り火も夜景も失われてしまった。
近年…新たに架けられた橋梁の高さまで登っても、果てなくミストに阻まれてしまいました。
誰ひとり…いない街、クルマすら通らない橋の頂点まで…進んでいく愛機。
まさか妖かしの仕業なのか… 畏れが生み出した異形の怪物が下界に潜むような戦慄。
灯火の中に幽かに浮かぶ…水蒸気のクラスターが無数に流れていく様子に…
あまりの美しさに動けなくなってしまいました。
同じ景色が震えているように…肌に浸透してくる気配。
高密度の濃霧に包まれると、まるで違う時間が流れているようでした。
何気ない…メンテナンス・ハッチが白い仮面のように向いている…
遂に…誰も来ないまま、深遠な霧海の最深部へと…移動し始めました。
時の彼方へと私が失踪しても…痕跡すら残らない…ミスト
霧の中に自分がいるのか、それとも霧は自らの意識が生み出した幻想なのか?
ようやく生存できた…主人公のデヴィッド、異常事態に吞み込まれた彼の困惑が解るようで…
あの夜の記憶は真実だったのでしょうか。
いまも私は…霧の中を彷徨っています。