僕には兄弟以上に仲の良かったいとこがいた。
彼は僕と同い年。でも、学年は一つ下だった。
子供の頃からちょっと変わり者で、ちょっとクセのあるやつだった。
でも、ひょうきんな、それでもって頭のいいやつだっった。
そんな彼は母子感染から肝炎を発症して、三年前の八月の下旬にこの世を去った。
そんな彼との、忘れる事の出来ない思い出のひとつを紹介しよう。
ずっと前、ふたりで飛び込み営業の仕事をしてた時の事だ。
県境の小さな村で、道に迷ってしまった僕と彼。
周りは田んぼばかりで、大勢のお百姓さんが作業をしてる。
彼は道を尋ねようと車を止め、窓を開けて声を掛けた。
{そうそう、ひとつ言い忘れてた事がある。大事なことだ。
彼はひとつの事を思い込むと、周りが見えなくなる性格なんだ。}
お百姓さん,腰を前に屈め背中をむけたまましらんぷり。
なんだとばかりに「すいません!」と強い口調で車から降りていった
それでも、反応はない。
彼、お百姓さんのすぐ後ろまで近づいていた。
「すいません!」と彼、でも反応がないのだ。
何度も繰返す彼、無反応なお百姓さん。
僕は、彼が窓から声を掛けた時から気がついた。
声を潜めて笑う僕、彼はまだ気つかない。
しばらくして彼は、横からお百姓さんを覗き込んだ。
僕は我慢の限界に達し、声を出して大笑いだ。
やっと気づいた彼は、満面の照れ笑いと小走りで戻ってきた。
彼は案山子に声を掛けてたのだ。何度も、何度も・・・・・
この案山子、じつはマネキン人形なのだ。
実によくできた案山子であった。
よく見渡すとかなりの数がこの案山子であった。
彼のその時の様子を見せられないのが残念で仕方がない。