僕は生活の要である、今の仕事を辞める事にした。

親父が退院したら、僕がすべて面倒をみるためだ。

僕には姉(次女)がいる。しかし迷惑はかけられない。


取引先に事情を説明して、僕は仕事から離れた。

これから、今迄の様に贅沢は出来なくなるが仕方あるまい。

僕と親父の僅かな蓄えと親父の年金で凌いでいくしかあるまい。


退院も近い10月23日のことである。

この日仕事の休みが取れた姉と病室へ行くと、酸素吸入しているではないか。

聞くと昨夜からかなりの熱があるという。点滴も受けている。

一通りの世話をして、夕方帰り際に苦しそうな親父が何か言っているのだが聞き取れない。

そんな親父は僕と姉に向かって手を合わせたのだ。何を言いたいのだろう、解らなかった。


翌朝病院から連絡が入る。急変したと・・・・

姉に連絡をとり、すぐに向かった。病室に入ると親父はいなかった。

別室に案内された。そこに親父は眠っていた・・・逝ったのだ。


葬式はごく身近な人だけで済ませた。


入院するまで親父が死んでも泣けないだろうと冷めた気持ちであった。

泣けた、思い切り泣いた。この先世話をしようと決めたのに・・・・・

それで僕の本心を知ってもらおうと思ったのに・・・伝えられなかった。


看護士さんがいつか、言っていた。「毎日、息子さん来てくれて幸せだねお父さん」

「お父さんとこだけだよ、毎日家族の方きてくれるのは」・・・・・


ベットの中で頷いてる親父の姿が浮かんでくる・・・・・


ある日、僕は夢みた。

紙おむつをしただけの親父である。

しかし、歳は若くアルバムの中にある20代の写真の顔であった。

にこにこしながら近付いてくる。言葉はない。

僕は言った「向こうの部屋にみんないるよ 会っていって」

親戚もいた、でも親父が見えるのは僕と姉だけだった。親父最後までにこにこしてた。


目が覚めた僕はふと、カレンダーに目をやるとある事に気付いたのだ。

11月23日、そう、1ヶ月前の今日、病室で僕と姉に手を合わせた日なのだ。


不思議に思い姉に夢と日にちの事をメールしたのだが、すぐに返事が来た。

「今、地下鉄に乗っていたら急におじいさん(姉も僕も普段はそう呼んでいる)の事が浮かんできて、涙が出てとまらないのでこまってた」と・・・・

会いにきたね、あの時手をあわせたのはありがとうだったんだ・・と思うことにしたのだ。



そんな訳で親父は僕に世話を掛けまいと、逝ってしまったにちがいない。

しかしそれからというもの、僕は気がぬけてしまったみたいである。

寂しいわけではない。覚悟を決めてやらなければいけない事が突然なくなってしまったのだ。


まだ少し時間がほしいと思っている。

のんびりはしてられないのはよく、解っているのだが・・・・


今の僕は親父のせいではないよ。横の親父の写真に、心の中でつぶやいてみた・・・・



親父の顔は微笑んでいる・・・・・・・ごめんな・・・・・