【野口裕之の軍事情勢】
産経ニュース国連が「本尊」、左翼カルト集団が「悪魔払い」する集団的自衛権。
国連安全保障理事会。創設から70年を経ても国連が「連合国」の利権争いの場である現実は一向に変わらない=2014年12月30日、米ニューヨーク(AP)この時期になると、国連に難癖を付けたくなる。第二次世界大戦(1939~45年)最終年の2月4~11日まで米国/英国/ソ連の首脳が集まり会談を行った。席上、戦後の発足を議論していた国連の投票形態について米英ソに加えフランス/中華民国の5カ国の拒否権を決めた。従って敗戦70年の今年、国連も創設70周年を迎える。会談では、武装解除後の大日本帝國将兵や非武装の日本国民を大殺戮したソ連軍参戦→北方領土不法占領も密約しており、戦勝国米英ソがそれぞれに有利な戦後の世界秩序を引き寄せようとした「利権争いの場」と言い切っても良い。そんな生臭い会談で青写真が描かれた国連は「連合国」と呼ぶのがふさわしい。今なお「連合国の利権争いの場」である現実は変わらない。
実際、韓国のネットユーザーは日本をいまだ「戦犯国」呼ばわりする。こんな具合に。アジア太平洋地域54カ国は1月、安全保障理事会・非常任理事国選出選挙(10月)で、日本を地域統一候補とする方針を決定。国連史上最多=11回目の非常任理事国入りを射程内に収めた。韓国メディアはネット上の「日本という名を聞くだけで悔しい」「早く統一して強くなるしかない」といった本音混じりの書き込みを紹介。「平和の象徴=国連が戦犯国を支持するなんて、恥を知れ」「戦犯国がなぜ非常任理事国になれるのか」などの投稿も掲載した。
韓国は日韓併合(1910年)で日本となり、韓国人150人がBC級戦犯だった正史はさて置き、米軍を核とする“国連軍”なしでは、北朝鮮の侵略を撃退できぬ韓国の「国連信仰」が透けてみえる。
連合国の利権争いの場
もっとも韓国の政府や軍は、紙くず同然となった《ブダペスト覚書合意》を目の当たりにして、米国が韓国を守ってくるのか自問自答し始めた。合意をお復習いすると-
《ソ連崩壊の1991年、ソ連領ウクライナにはソ連軍の核弾頭千数百発が保管され、英仏より多かった。ウクライナはソ連崩壊に伴う独立に際し、核弾頭を引き続き保有する姿勢を示した。核拡散を恐れる米英とロシアは核弾頭を解体施設に移し、核拡散防止条約(NPT)加入をウクライナに迫った。引き替えに、米英露に加え中国とフランスがウクライナの領土保全を約束、覚書を交わした》
覚書は条約に比べ強制力は弱いが、国際で確立された鉄則。交渉過程で国際機関の仲介を得ている上、国連を半ば支配してきた常任理事国全5カ国の合意は国連による約定そのもの。
それがどうだ。ロシアは支援している親露派武装勢力とともに、ウクライナ領クリミア半島を侵略。他の常任理事国は「口先介入」、ロシアを気遣う中国に至っては「寡黙」に徹する。そういえば、冒頭で触れた国連設立構想を練った首脳会談もクリミア半島ヤルタで行われた。今やクリミアは「国連の限界」の象徴となってしまった。
刻み続ける無力の二文字
「国連の権威」を探すのは一苦労だが「軽さ」は容易に見つかる。第一次インドシナ戦争▽中東戦争▽ベトナム戦争▽中印戦争▽スーダンでの大量虐殺▽中越戦争▽ソ連のアフガニスタン侵攻…、国連は歴史に無力の二文字を刻み続ける。
屈辱の年表に、新たにイスラム過激武装集団《イスラム国=ISIL》が加わる。日本人殺害を受け安保理は1日、報道声明を出した。
「根絶・撲滅させるべきだ」「裁きに掛けるべきだ」
ならば問いたい。どこが「根絶・撲滅させる」のか? 誰が「裁きに掛ける」のか?
大国の利権が絡み合う国連の“主催”はハードルが高い。やむを得ず、イスラム諸国を含む有志連合が空爆を行っているが、国民を惨殺されても日本は参加できない。むなしさ漂う口先介入するだけの国連報道声明を聞いて、己の姿だとも気が付かない。なおも、国連を「世界政府」と買いかぶり、イザというとき助けに来てくれると幻想を抱いている。
ISILと日本の狂信性
小欄には非武装・無抵抗の民を平然と殺害する狂信的信者の集団ISILと日本がダブってみえるときがある。国民が惨殺されても非武装・無抵抗が最良の“安全保障”と信じる、政治家を含む多くの日本人も狂信的信者ではないか。実は、中国や北朝鮮の脅威が高まる中、少数派に衰退したと思っていたが、さにあらず。狂信的信者は「宗旨替え」して依然命脈を保つ。「本尊」を独善的な非武装中立から、日本の皆様に愛される国連に替え、国連が醸し出す“中立性”で「教義・教典」を偽装した国連信仰を「布教」。信者は、都合よく切り張りした日本国憲法なる怪しげな「経文」を唱え、国連=国際社会での平和的解決をひたすら祈る。集団的自衛権行使を「悪魔払い」する儀式も欠かさない。実体は宗旨替え前と変わりなく、他の有力国並みに積極的平和主義を目指す日本を、またぞろ一国平和主義で封印せんと謀る左翼カルト集団に他ならぬ。ただ、古参の左翼闘士に加え中道に近い層まで取り込み、「首相の中東での人道支援発表が日本人殺害を誘発した」と国会で野党議員に言わせる辺りは、宗旨替えが奏功した証左であろう。
しかし、本尊の「御利益」は期待できない。そも国際法=国連憲章で、国連軍が乗り出すまでの間、個別的自衛権同様、集団的自衛権行使が許されるのはなぜか。侵略国・組織に対し国連軍を投射する実力行使は不可能に等しく、自らの無力を自覚する国連が編み出したウラ技。集団的自衛権行使には、日本人が有り難がる「国連のお墨付き」があるのだ。
とはいえ、集団安全保障や集団的自衛権の確度を自問自答する韓国を、見ならう必要はある。確かに国連同様、同盟国が危機に際して来援しない可能性は低くはない。だからこそ同盟相手に、日本の戦略価値で得られる国益を認識させ、日本の危機における軍事支援を取り付ける代わりに、同盟相手の危機でも能動的に動けるよう準備が必要になる。
ところで、この準備を阻止し、国連に国運を委ねる「宗派」は中露の善意も信じて疑わない。日本の軍事的脅威で、安保理で拒否権を有する中露ではあるが、多分日本の繁栄を願ってくれている、と。
カルト集団の洗脳はかくも恐ろしい。
(政治部専門委員 野口裕之/SANKEI EXPRESS)