【書評】
産経ニュース久保田るり子・編集委員が読む『朝日新聞「日本人への大罪」』
(西岡力著)
慰安婦問題の本質を指摘
韓国から「日本を代表する反韓学者」と名指しされる著者だが、何を隠そう実は比類のない愛韓派である。「挺身隊と騙(だま)して連行した」と報道した植村隆元朝日新聞記者を「ねつ造記者」と初めて名指しで批判した初論文(92年文芸春秋)は『日韓関係が心配でならない…』という文章から始まっている。予感は的中し、慰安婦問題は反日と嫌韓の怨嗟(えんさ)の元凶となった。
植民地時代も知る韓国の知識人らの知己の多い西岡氏は、90年代から徹底的な取材を元に朝日批判を展開してきた。慰安婦問題はどんな経緯で誰の手によりクローズアップされてきたのか。昨年、朝日は特集で「慰安婦問題は朝日新聞のねつ造だといわれなき批判が起きている」と書いたが、本書はこれが「ねつ造」なのか読者諸兄に判断してほしい、と呼びかけた。西岡氏、22年間の朝日新聞との戦いの全記録である。
世界中で日本の名誉をおとしめた慰安婦問題。その本質としてふたつのことを指摘する。まず出発点の「ゆがんだ構図」の特異性だ。被害者である韓国人を加害者の日本人が代弁してきた事実。慰安婦訴訟に奔走したのは日本人運動家や弁護士らで根拠は「済州島で慰安婦狩り」との吉田虚偽証言だった。そして朝日のキャンペーン報道だ。
2つ目には日本政府の謝罪外交を挙げる。「慰安婦は性奴隷」と深刻な誤認を広めた国連クマラスワミ報告(96年)は、日本の左派弁護士らのロビー活動により作成に至ったが、日本外交は一度作った反論文書を取り下げて「奴隷狩りの日本」というイメージを国際社会に定着させた。
韓国の「反日」の正体を解剖する-と題した第6章がもうひとつの読みどころ。朴正煕時代からの反日の系譜がわかる。特に1980年以降の反日の背後には親北勢力による政治工作がうごめく。慰安婦問題の背後にもある分断国家の闇の深さがうかがえる。
戦いは続く。植村氏は自らを被害者だとして、西岡氏を名誉毀損(きそん)で訴えた。言論同士「論争しようではないか」との西岡氏に、朝日も植村氏もいまだ応じない。(悟空出版・1400円+税)
評・久保田るり子(編集委員)