集会で、北朝鮮の専門家らの分析に耳を傾ける拉致被害者の家族ら=22日、東京都港区の友愛会館(川口良介撮影)
迫る再調査!
北朝鮮をどう動かすべきか 家族会、救う会、拉致議連の思いは
拉致被害者らの安否について調査する北朝鮮の特別調査委員会が間もなく、設立される見込みだ。日朝両政府の合意文書に関してさまざまな問題点が指摘される中、再調査は果たして被害者帰国につながるのか。被害者の家族会と拉致被害者の支援組織「救う会」、超党派の国会議員でつくる「拉致議連」が22日に開いた集会では、拉致問題全面解決のため、北朝鮮への対処法について議論が進められた。
「拉致は外交交渉ではない」
集会では、再調査で日本が何をすべきかについてディスカッションが行われ、拉致議連の平沼赳夫会長、救う会の西岡力会長、特定失踪者問題調査会の荒木和博代表が再調査について意見を述べた。
最初にマイクを握った平沼氏は合意文書にある日本独自の制裁解除時期に疑問を示した。文書では、調査が始まった時点で解除するとなっており、平沼氏は「交渉ごとで毅然とやるのであれば、向こう(北朝鮮)が誠意を見せてきたら、一つひとつ解除することが筋ではないかと思う」と指摘。日本政府に対し、「今までの経緯をみてみると、日本は甘いところがあった。(北朝鮮を)細かに追及していただきたい」と語った。
西岡会長は、平成9年以来4回にわたって北朝鮮が調査に応じるとしながら、そのすべてがでたらめだったことを説明し、「5回目に心を入れ替えて真実を言うのか」と北朝鮮の対応に懐疑的な見方を示した。
さらに拉致問題の現状を「今犯人が人質をとって立てこもっている。これは犯罪。何人か(帰国)でいいということではない。全員取り戻すことに関しては譲歩の余地はない」と主張。「外務省の方々にいいたい。(拉致問題は)外交交渉ではない。彼ら(北朝鮮)を動かすために餌は必要だといろいろなことをいうが、全員取り戻すという前提でないといけない」と訴えた。
調査会の荒木代表は「北朝鮮はまともに約束を守る国ではなく、外交交渉は成り立たない。1994年の核の合意以来、米国を含め世界中の国がだまされ続けてきた20年を忘れてはいけない」と説明。「何人か帰ってくれば、帰ってきただけで怒濤(どとう)のような状況となり、すべて(の被害者)を取り返すという一番大事な本質がすっ飛んでしまう恐れがある」と全面解決の大切さを強調した。
外務省が「前のめり」
議論ではその後、合意文書の問題点や日本がどう調査に対処すべきかについて意見が出た。
西岡会長は「北朝鮮の専門家として」とことわったうえで、文書を「穴だらけ」と断言。調査対象が拉致被害者以外に日本人遺骨問題や終戦時に北朝鮮に残された残留日本人も含まれていることや、生存する日本人がいた場合に去就について協議するとされていることなどを問題視した。
最も懸念している点として西岡会長が挙げたのは、文書に「北朝鮮側は、(中略)全ての日本人に関する調査を包括的かつ全面的に実施し、最終的に、日本人に関する全ての問題を解決する意思を表明した」と記されていることだった。
「最終的に」という表現があるため、北朝鮮が1回の調査で終えるようにも読み取れ、西岡会長は「申告、検証、申告、検証ということを続けることになっていないのではないか」と指摘した。
今回の再調査に関し、「前のめりになっているのは日本の外務省」と主張する荒木代表は、「北朝鮮はいつどうやって(合意を)ほごにするか、どうやって取るものだけ取ってあとは知らん顔をするかということを毎日考えているという前提でやらないといけない」といさめた。
「日本国内の拉致協力者を摘発せよ」
議論の最後では、それぞれが今後の展望を示した。平沼氏は拉致問題解決のため、「絶対大切なことは日本人がこの問題の全面解決で団結することと、もう一つ制裁をしっかりやっていくことに尽きると思う」と述べた。
最悪の場合、北朝鮮が生存被害者に危害を加える恐れがあると心配する西岡会長は、拉致被害者の田口八重子さん=拉致当時(22)=が肝臓の病気で入院したという情報があることを紹介。「こっち(日本)にも生存情報がある。変なことを出してきたら『こちらにも情報があるんだぞ』という交渉をしてほしい」と訴えた。
荒木代表は日本国内の問題点として、「日本国内の拉致の協力者の摘発がまったくやられていない。日本国内に山ほどいるはずの元工作員、工作員に何の手もかけていない」と説明。「こういう連中を次々捕まえてしまえば、日本は(拉致問題解決に)本気だという意思表示ができる」と提言した。
「最後の一人帰国するまで」
集会の最終盤では、出席した拉致被害者の家族が現在の思いを口々に訴えた。
田口八重子さんの兄で家族会代表の飯塚繁雄さん(76)は「八重子は肝臓病で入院しているというはっきりした情報もある。日朝交渉では包括的に拉致被害者や遺骨の問題などいろいろあるが、今生きていて日本に帰るのを待っている人たちの解決がまず先決だろうと思う」と話し、最後に「ぜひとも生きている田口八重子に会いたいというのが心境です」と語った。
増元るみ子さん=拉致当時(24)=の弟、照明さん(58)は「今度下手な調査結果を出してきたら、日本は承知しないぞという覚悟を含めたメッセージを北朝鮮に送らないといけない。それが北朝鮮を動かす大きな力になる」と呼びかけた。
再調査に不安を抱きながらも期待を託す被害者家族ら。松本京子さん=拉致当時(29)=の兄、孟(はじめ)さん(67)はこう訴えた。
「せっかく開いた扉ですので、中が空っぽだったということがないようにしてほしい。北朝鮮から全員、最後の一人が日本に帰れるまでみなさんの声援をお願いします」
集会で、早期救出への思いを訴える拉致被害者の家族=22日、東京都港区の友愛会館(川口良介撮影)
集会で、被害者救出への思いを訴える横田めぐみさんの父、滋さん(右から2番目)ら=22日、東京都港区の友愛会館(川口良介撮影)