再調査への「懸念」 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

【北朝鮮拉致】
元拉致担当相、中山恭子氏が語った再調査への「懸念」とは 
特定失踪者家族は今…


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特定失踪者、斉藤裕さんの自宅があった場所で行方不明になった時の状況を調査する特定失踪者問題調査会の荒木和博代表(右から2人目)と斉藤さんの義姉の孝子さん(右端)、姉の由美子さん(右から3人目)=6月4日、北海道稚内市(松岡朋枝撮影)


 日朝両政府が合意した拉致被害者らの再調査に関し、先行きを危ぶむ声が上がっている。茨城県那珂市で6月1日に行われた集会で、元拉致問題担当相の中山恭子参院議員が再調査に潜む危険性を指摘した。被害者家族も不安な気持ちを抱えており、拉致問題進展への期待が高まる中、懸念も強まっている。

「見極めないと、大変なこと起きる」

 平成20年8月、日本と北朝鮮は拉致問題について調べる調査委員会を立ち上げ、迅速な調査を行うことで合意した。だが、当時の福田康夫首相の辞任表明を受け、北朝鮮は同年9月に調査委の立ち上げ延期を通告してきた。

 当時、拉致担当相を務めていたのが中山氏だった。中山氏は今回の再調査合意について「安倍首相は父親の秘書をしていた時代から、拉致被害者家族と行動していた。家族の思いも分かっているはずなので、交渉に大いに期待している」としながらも、日本独自の制裁解除のタイミング、調査対象範囲の広さから懸念を示した。

 制裁解除について、日本政府は北朝鮮が再調査のために設置する特別調査委員会の立ち上げ時に解除する方針だ。だが、中山氏は「委員会を立ち上げた報告と同時に制裁を解除するという『言葉対行動』という交渉はあまりにバランスがとれていない。委員会の立ち上げについては、しっかり見極めないと大変なことが起きてしまう」と話し、「行動対行動」で北朝鮮に対峙(たいじ)すべきだと訴えた。

 さらに中山氏が心配するのが、委員会の調査対象の広さ。日朝両政府の合意文書には、「昭和20年前後に北朝鮮域内で死亡した日本人の遺骨・墓地、残留日本人、日本人配偶者、拉致被害者、行方不明者を含む全ての日本人」と記されている。

 中山氏は「全ての日本人というのは範囲が広い。全て一括でできることは理想だが、範囲が広い方が北朝鮮に有利で調査しやすい」と指摘。調査がすべての問題について同時並行的に行うこととされている点についても、「大丈夫なのかと思う」と述べた。

「日本はのんきな国になった」

 集会には、田口八重子さん=拉致当時(22)=の兄で、家族会代表の飯塚繁雄さん(76)や横田めぐみさん=同(13)=の父、滋さん(81)、母、早紀江さん(78)が出席。再調査による拉致被害者の帰国に期待を寄せながらも、不安を口にした。

 調査期間について菅義偉官房長官は5月30日の会見で、「1年を超えることはないだろう」と見通しを述べたが、飯塚さんは「だらだらとやっても仕方がない。『これはいつまで』『これはどうなった』と日本政府が細かくチェックを入れていかないといつの間にかほごにされてしまう恐れがある」と訴えた。

 飯塚さんは5月21日に弟の進さんを失ったばかり。被害者を待つ家族が近年、相次いで亡くなっており、「国民が政府の尻をたたいてせかす必要がある」と呼びかけた。

 早紀江さんは中山氏の講演に触れ、「中山先生の話は真実で、日本は(北朝鮮に)だまされ続けている。だからこそ、何の罪もない日本の青年たちが北朝鮮で暮らしている」と北朝鮮の不誠実さを批判。長い期間拉致問題を解決できない日本という国家に対しても、「日本はのんきな国になってしまった。なぜすぐに国民を取り返せないのか」と話した。

「もう少し頑張って」

 一方、今回の再調査で調査の対象に入った拉致の可能性が排除できない特定失踪者の家族は期待を高め、再調査の行方を見つめている。特定失踪者の安否をめぐっては、これまで個別の被害者に関して北朝鮮に照会されたことはあったが、すべての特定失踪者が対象となるのは初めてだからだ。

 今月4日、拉致問題を調べている「特定失踪者問題調査会」が北海道で実施した現地調査には失踪者の家族も参加し、行方不明になった当時の状況などを調べた。

 昭和42年に北海道雄武(おうむ)町沖から3人の息子とともに出漁し行方不明になった紙谷(かみや)慶五郎さん=失踪当時(55)=の三女、北越優子さん(69)は4日に同町で開かれた集会で、再調査について「ニュースを聞いたときに、うれしくてテレビの前で声をあげて泣いた」と明かした。

 43年に稚内市の自宅を出て行方不明になった斉藤裕さん=失踪当時(18)=の義姉、孝子さん(73)も「政治的な動きがなければ、個人の力では動かない。具体的な結果がほしい」と期待を込めた。

 再調査の対象に含まれたことで、特定失踪者に対する国民の関心も高まっている。調査会の荒木和博代表は「拉致の全体像を国民に知らせ、理解が深まれば調査を良い方向に持っていく力になる。何人かを帰せば(拉致問題は)終わりだと北朝鮮に思わせないためにも、国民の理解が欠かせない」と話す。

 現地調査で、調査会が運営する北朝鮮向け短波放送の収録を行った斉藤さんの姉、由美子さん(77)は斉藤さんに向け、こう呼びかけた。「もう少し、頑張ってください。みんな待っていますから」



茨城県那珂市で開かれた集会には、中山恭子参院議員(左)や家族会代表の飯塚繁雄さん(中央)らが参加し、北朝鮮による再調査について話した=6月1日(松岡朋枝撮影)