【話題の本】
『福島第一原発収束作業日記 3・11からの700日間』
■現場のベテランのつぶやきに反響
東京電力福島第1原子力発電所事故から2年9カ月。今も数千人が廃炉に向けた作業を進める。その1人が記した「生の声」は反響を呼び、刊行から1カ月半で5刷2万部に達した。
著者は20年近く原発に携わったベテラン作業員。事故直後の平成23年3月からツイッターでつぶやき始めた。「憶測ばかりで、国民の不安を煽(あお)るような報道がいっぱいあったから許せなかったんだ」。豊富な知識、現場の実態、さまざまな思いが平易な文章で語られる。
例えば酷暑のなか「十分休憩をとって」と言われても、工期の延長も作業員の増員もない。結局休憩を削り、体力ぎりぎりまでやる…ともすれば安全や効率よりコストが優先される実態が浮かぶ。「数十年後の人たちにも伝える」(担当編集者の坂上陽子さん)ため、出版に際して写真を多く入れた。明るい話題は少ないが、現場の生の声には「分からない」ことで生じる不安を打ち消す力がある。
「収束作業は一日でも早く、日本の面子(めんつ)にかけて国家事業として取り組んで欲しいんだ」「いつかきっと、必ずハッピーな日が訪れますように…」。切実な願いに胸を打たれる。(ハッピー著/河出書房新社・1680円) 戸谷真美