梅、桜、桃の花といえば、春の訪れから春まっさかりまでの季節です。
始めに梅が咲いて、冬の終わりを告げてくれ、次いで桜が満開に咲きます。
桜というのは、田んぼの神様のことを「サの神」といい、「くら」は神様が座るところ。
春の訪れとともに桜が咲き、サの神様が桜の木の上にやってくる。
サの神様は、それから秋の終わりまでずっと桜の木の上に宿って、田んぼの収穫を見守ってくれるわけです。
それで、サの神様がおいでになったことを祝って、桜の木の下にみんなで集まって、一杯やるのが、花見酒。
稲は、種モミを植えると、3~7日で芽が出ます。
この芽が、10日から二週間くらいたつと、葉がではじめ、15cmくらに成長したところで、苗を水田に植え付けます。これが田植えです。
そして桃の花が咲く頃になると、椿や菜の花、すみれなどが次々と開花し、いよいよ本格的な春になる。
もっとも今年は暖冬で、梅、桜、桃がいっぺんに咲くという、なんとも贅沢な年になりました。
ちなみに靖国神社の桜は、東京の開花宣言の基準木とされています。
桃といえば、すぐに連想してしまうのが桃の実ですが、実は秋の収穫のお楽しみで、春には桃は木いっぱいに可憐な花をつけます。
桃というと、花モモなどの紹介の本などを読むと、なぜか必ず書いてあるのが、「桃はバラ科モモ属で中国が原産」。
なかには、「桃の木は江戸時代の初め頃に日本に渡来した」などともっともらしく書いてある本も多いのですが、これ、とんでもない大嘘です。
なぜなら江戸時代どころか、古事記や日本書紀に、桃はちゃんと出てきます。
イザナギが黄泉の国に妻のイザナミを尋ねて行った帰り道、追って来る黄泉の国の怪物達に桃の実を投げて、これをしりぞけた、というお話です。
桃は縄文時代から、日本では栽培されてきたものですし、ついでに申上げると、桃から産まれた桃太郎も、すくなくとも江戸時代の物語ではありません。
むしろその江戸時代、日本では園芸がたいへんに盛んとなり、桃の木をかけあわせて、様々な種類の観賞用の桃を産んでいます。
たとえば「関白(かんぱく)」という花桃は、 早咲きで、白い花を八重につけます。
「菊桃(きくもも)」は、濃いピンクで、菊の花のようなカタチをしている。
「矢口(やぐち)」は、ピンクで八重咲き。
ホウキをさかさにしたようなカタチをしているのは「照手桃(しょうてもも)」です。
そして、私が大好きなのが、「源平桃」。
紅白に咲き分ける庭植え用の品種ですが、これがとてもきれい。
なにせ一本の木の同じ枝から、白や、ピンクや緋色の花が咲くのです。
その豪華さといったら。
しかも名前がいいです。
その昔、源氏は白旗、平家は赤旗で戦いました。
いまでも運動会などでは、赤組、白組に別れて競ったりしますが、これも源平合戦に由来しています。
戦いそのものは、決して褒めた話ではないけれど、平安時代の終わりにあったこの源平合戦を、美しい花にみたてて、名前をつけるというところが、実に日本的でみやびな感じがします。
ちなみに、この源平桃の花、同じ木でも、今年は白が出るか、ピンクが出るか、緋色が出るか、これが咲いてみないとわからない。
ですから年によっては、源氏(白)が優勢だったり、平家(赤)が優勢だったりするのです。
それがまるで合戦みたいというので、源平桃というのですね。
この源平桃の花は、なかには、ひとつの花が、紅白にわかれているものもあります。
すごくおもしろいと思うのは、なんとそうした場合、花びらだけでなく、よくみるとおしべの色も紅白にわかれているのです。
なんとも不思議です。
ちなみに源平桃などの花桃も、秋には実をつけますが、花桃の実は固くて食用にはされません。
ちょっと残念な気もしますが、それでも春に咲く花桃の豪華さは、なんとも美しい。
そうそう、桃の実といえば、二つに割れたような姿が特徴ですが、このことから日本髪には、マゲを二つに割ったカタチの桃割れなんてものもあり、これは明治から大正期の日本の女性たちの間で大流行した髪型となりました。
また、桃尻ということばもありますが、これはもともとは、桃の実がすわりが悪いことから、馬に乗るのが下手で鞍に尻が落ち着かないことを指す言葉でした。
なんだか最近では、この言葉はもっぱら女性のヒップを指す言葉のようにされていますが。
さて、桃の花言葉といえば、チャーミングが有名ですが、ほかにもうひとつ。
「私はあなたのとりこ」という意味があります。
桃って、なんだかとても素敵ですね。