【土・日曜日に書く】論説副委員長・高畑昭男
「2030年代に原発ゼロを目指す」という野田佳彦政権の新エネルギー戦略に対し、英仏や同盟国の米国がこぞって疑問や懸念を突きつけた。この光景に「どこかで見たような?」というデジャビュ(既視感)にとらわれた人が多かったのではないか。
思いだすのは2007年夏から秋のことだ。日本の海上自衛隊が対テロ国際貢献の一環として行ってきたインド洋での補給支援活動の継続問題で、当時の民主党がとった定見なき行動である。
米中枢同時テロ以来、約6年間続いた海自の活動は、日本の重要な貢献として国際的に評価されてきた。だが、国会でテロ対策特別措置法が延長されない限り、同年11月1日には期限が切れる。
≪定見なき行動変わらず≫
この問題で、民主党は当時の小沢一郎代表らが参院の「ねじれ」を利用して特措法の延長を拒み、活動停止に追い込んだのだ。
07年8月8日、当時のシーファー駐日米大使が小沢氏と会談し、補給支援の意義を訴えた。同30日には、来日したメルケル独首相も小沢氏に継続を要請した。さらには9月下旬と10月末の2度にわたり、米加など12カ国の在京大使らが国会議員らに「日本の貢献は日本の安全だけでなく、世界の安全にも必要だ」とアピールした。
それなのに、小沢氏らは「補給支援は国連決議に基づく活動でない」との持論に固執し、「日本の平和・安全と直接関係のない場所へ部隊を派遣し、米国などと共同作戦はできない」と大使らの要請を最後まで突っぱねた。
今回の「原発ゼロ」方針も、クリントン米国務長官や在京の英仏大使らが「関心」や懸念を日本政府に伝えただけではない。
≪米も「重大な結果に」と警鐘≫
訪米した民主党の前原誠司政調会長には、ポネマン・エネルギー省副長官が「米国にも重大な結果を与える」「第3位の経済大国日本が(脱原発で)石油を買いあされば、国際価格に響く」などと具体的な警鐘を鳴らしている。
07年の民主党は野党だったが、責任ある政権与党たる今も、国際社会の助言に耳を貸そうとしない姿勢は変わらないようだ。
補給支援停止の際、米側は「重要な安保政策を国内政争の具にして日米同盟の絆を弱めた」と不満を強めた。選挙対策の観も強いとされる今回の「原発ゼロ」も同じ結果を招く恐れが少なくない。
そうした懸念の第1は、8月に公表された米知日派の「アーミテージ・ナイ報告」が指摘したように、「原発ゼロ」が日米同盟や両国の利益を損なうことだ。
日本は米国との原子力協定を通じて、平和利用技術の研究開発を深めてきた。その結果、今や米国も主要な原発関連技術を実質的に日本に頼っている。インドやベトナムなどの途上国に、安全で信頼度の高い原発を普及していくことが核不拡散政策を強化し、日米両国の商業的利益にもつながる。
日本が一方的に研究開発を投げ出せば、米国も共倒れになる。ポネマン副長官の懸念も、平たくいえば「同盟国なのに勝手すぎる」ということだ。
それが中国の原発大国化に手を貸す恐れもある。ウィーンの国際原子力機関(IAEA)総会で、日本は「原発ゼロ」方針の説明に終始したが、対照的に中国は原発建設に積極姿勢を貫いた。
日米の原発に代わって、核物質の軍事転用を防ぐ拡散防止技術に乏しい中国型原発が途上国に広がるとすれば、国際安全保障上も深刻な事態が心配される。
今年4月、米国のシンクタンク「新アメリカ安全保障センター」がまとめた「中国の挑戦」と題する報告は、原子力が日米にとって不可欠の基盤的エネルギー源で、「両国の原発政策の食い違いを放置すれば、同盟の亀裂を招きかねない」とも警告している。
軍事・外交面だけでなく、エネルギー戦略面でも中国の台頭に日米が一体で取り組む必要がある。それでなくとも、民主党政権は普天間飛行場移設問題を迷走させ、海兵隊の新型輸送機オスプレイ配備でも遅れるなど、同盟を空洞化の危機にさらしてきた。
≪世界の潮流の理解を≫
尖閣諸島をめぐる日中の緊張が高まっているが、普天間移設や米軍再編を完了した上でオスプレイ配備を進めていれば、中国に対する抑止の実効性もずっと高まっていたに違いない。
同盟国や国際社会に加え、日本の経済界、労働界指導者も「原発ゼロ」に明確な反対を示した。
野田氏は党代表選で再選は果たしたものの、安全で信頼される原発の普及を求める世界の潮流を根本的に読み違えているのではないか。同盟を損なう「原発ゼロ」を直ちに見直し、世界的視野で同盟協力強化に転じる決断がほしいと思う。
(たかはた あきお)