【from Editor】特権だらけのP5
いい眺めだなあと思った。眼前に広がるのはゆったりと流れるイーストリバー。長い机といくつかの椅子だけがある簡素な部屋は国連本部内にある安全保障理事会の「奧の院」。米英仏中露の安保理5常任理事国だけが使える部屋だった。
5常任理事国、通称P5(Permanent5)は拒否権を筆頭にさまざまな特権をもっている。この部屋もそのひとつだが、彼らにとってはささいな特権にすぎないだろう。
さて、安保理が出すメッセージには大別して決議と声明(議長声明、報道機関向け声明など)がある。決議は加盟国への法的拘束力を持つが、声明は持たない-という解釈が一般的で、記事でもそのように表現している。
しかし、最近は議長声明も「文言の強さや内容によって法的拘束力を持つ」との見解が出てきている。こちらが多数派となっているのであれば、「決議と違って拘束力は持たない議長声明」という現在の表現を変える必要がある。
拘束力ありとみる根拠は国連憲章25条。「加盟国は安保理の決定を受諾し、履行することに合意する」とあり、安保理で決められたことは、加盟国を拘束するというのが前提の解釈だ。加盟国である以上、安保理のメッセージを順守するのは当然とも思うのだが、「義務」と「拘束」を嫌う国が多いのも国連の真実である。
調べてみると、議長声明の拘束力については否定する専門家の意見もあり、国連事務局が公式見解を出したわけでもない。さあ、どうしたものかと考えていたとき、胸にストンと落ちる言葉を聞いた。「決めるのはP5です。結局、P5が嫌がることはダメなんです」(国連関係者)
いい実例がある。ロイター通信が報じた北朝鮮制裁委員会の専門家パネルの報告書によると、北朝鮮は一昨年、シリアに武器輸出をしようとしてフランスに阻止された。安保理決議違反だが、それら物資の「積み替え拠点」(ロイター)となっていたのが中国・大連の港で、積み荷の偽装工作が行われていたのではとの指摘もある。
こうなると議長声明の位置づけより、決議の実効性について再考する方が先かもしれない。たとえば現在の「法的拘束力のある決議」ではなく、「拘束力はあるとされるが、常任理事国自らが順守していないふしもある決議」など。安保理の現実をより映しているように思うのだが。
(副編集長 長戸雅子)