【from Editor】
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/120602/ent12060207410001-n1.htm
思わぬ場所で、由紀さおりさんの生の歌声を堪能した。欧米でCDが大ヒットし、乗りに乗る、あの美声である。
昼下がり、都内のホテルで催された千葉工業大学の創立70年式典だった。その大宴会場、1千人を超える参集者は、ダークスーツの男が多数を占め、グラス片手に寄り添って歓談という、よくある光景の中に由紀さんが登場した。
事前には知らされず、立食会場の視線はクギづけになる。夜明けのスキャット、ブルー・ライト・ヨコハマと、たっぷり30分以上、最後には熱烈なアンコールとなって、本人も感激していた。
記者はしばしば予期せぬ瞬間に巡り合うが、ステージでの由紀さんの話にもひきつけられた。圧巻は、昨年10月、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで開いたコンサートの様子だった。
最後の曲が終わり、7千席のホールを埋め尽くした聴衆が靴音を鳴らし、アンコールを叫ぶ。由紀さん自身が最も難しいというマシュケナダだった。なじみのリズムに、由紀さんの日本語が溶け込むように流れる。聴衆は一斉に立ち上がり、大拍手となった。
「ホールの99・9%は私のこと知らなかっただろうに、どうしてかしら…。日本語でも、一生懸命に歌ったの。きっと、そのコトダマ(言霊)が伝わったのね」
冗談を交え、由紀さんがそう語ったとき、今度は感動に私たちが震える番だった。
創立70年の式典では、由紀さんの前に、ジャーナリストの櫻井よしこさんがスピーチに立ち、福島の原発事故現場で被害状況の調査に投入されている千葉工大のロボットをたたえた。
「千葉工大の技術には、民族の心、人間に対する根源的なやさしさがある。日本人がはぐくんだこの技術があれば、21世紀の世界で日本は一番大切な国になると確信している。世界中の価値観を引っ張っていくときです」
一転、櫻井さんは「いま、その技術が盗まれようとしている」と最近の楽観できない国際環境を指摘するのだが、しかしそれは、日本が「心」を知らない者に簡単に追いつかれることはない、との思いをにじませるものだった。
まさに、心からの熱唱でロンドンの聴衆を総立ちにさせた由紀さんの強さと響き合うのだ。
こうして記念式典は、2人の女性によって盛り上げられ、男たちはといえば、ひたすら、うなずくばかりだったのである。
(編集委員 平山一城)