「発送電分離」 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 









【金曜討論】 高橋洋氏、中野剛志氏





 電力会社の地域独占を解消し、発電事業への新規参入を促して自然エネルギーの導入に結びつけようと、発送電分離に向けた検討が政府内で進められている。民主党政権では東日本大震災後、発送電分離に向けた発言が相次いだが、経済界からは異論も出ている。発送電分離は進めるべきなのか、電力の安定供給は保てるのか。富士通総研経済研究所の高橋洋主任研究員と、京大大学院の中野剛志准教授に見解を聞いた。

                                    (溝上健良)

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 ≪高橋洋氏≫

ネットワーク広がり安定

 --発送電分離の目的は?

 「発電会社が競争することで論理的には電力料金が下がることのほかに、電気を使う人にとっては発電会社の選択肢が増える。そして送電ネットワークを広げることで電力の安定供給につながるメリットが大きく、欧州では送電網がどんどん広く接続されている。ネットワークは広いほうが互いに融通しあえるので安定的になる」


再生エネ導入進む


 --発電会社間の競争は再生可能エネルギー導入を阻むのでは?

 「現状で再生エネルギーはまだ高く、政策的に固定価格買取制度で買い取ることになるが、自由競争と矛盾するものではない。再生エネルギーの導入が進まなかった背景には送電網が自由に使えなかったことがある。発送電分離による送電網の公正な開放が重要だ」

--送電会社の規模はどの程度のものが望ましいか

 「なるべく大きいほうがいい。理想的には全国1社か、周波数で分けて東西2社が妥当だろう」

 --不安定な再生エネルギーを大量に導入するためにも、送電網の統合が必要ということか

 「スペインの例が参考になる。同国の送電網は東日本(東京電力+東北電力)と同程度だが、再生エネルギーの導入割合が20%を超えている。日本でも送電網の統合で20%の導入は可能なはずだ」

 --欧州の例でも、発送電分離後に電気料金は上がっている

 「化石燃料の価格上昇や消費税率の増加、環境税や固定価格買取制度のためで、発送電分離で料金が上がったわけではない。ただ日本では今後、電気料金が上がる要因が多く、発送電分離しても料金はそれほど下がらないだろう」


電力の構造改革を


 --発送電分離のメリットはむしろ別のところにあると

 「電気料金が上がったとしても再生エネルギー導入量が増えて原発が減り、消費者が発電会社を選べるというメリットが多いことを政治家がきちんと説明すべきだ。目的は電力システムの構造改革。一部の電力会社にすべてお任せで責任も押しつけることがいかに脆弱(ぜいじゃく)かということが、大震災で明らかになったのだから」

 --結果的に、ドイツのように発電会社が大規模に統合されることも考えられるが

「全国10地域の電力会社の発電部門が将来的に統合されていくのは、独占禁止法に抵触しなければ構わないと思う。発電会社も海外進出すべきだし、外資による日本の発電事業への参入も歓迎だ」

 --エネルギー安全保障上も、発送電分離を進めるべきか

 「それによって純国産の再生エネルギーの導入を増やすべきだ。太陽光や風力は枯渇の心配もなくこんな理想の電源は他にない」

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 ≪中野剛志氏≫

停電のリスクが高くなる

 --民主党の政治家が大震災後に発送電分離に言及し始めた

 「大震災で電力の安定供給がいかに難しいかが明らかになったのであって、安定供給できる態勢強化こそが目指すべき方向だ。いま発送電分離が行われようとしている理由がまったく理解できない」

 --発送電分離は欧米で実施例があるが、評価は?

 「北欧の場合はノルウェーの水力発電やスウェーデンの原子力発電のように安価・安定的な電力供給が行われていて比較的うまくいったが、火力発電の割合が高い米カリフォルニア州などは電気料金が高騰した。誰も言わないことだが、日本でどうしても発送電分離をしたいのなら、原発の比率を飛躍的に高める必要がある」

 --米国では電力自由化を中止・撤回した州も出てきている。また米国では、築30年以上の原発が104基も使われ続けている

「発電事業者間での競争を促すことは、コストカット競争で安全投資を怠ることにつながる。だから米国では発電所も送電網も老朽化している。日本では大震災で、安全投資が不十分だったことが分かった。むしろ競争を抑え、安全投資を促さねばならない」


欧米すべて失敗


 --発送電分離の主張は、ここ30年来の新自由主義の流れを引き継いでいるとみるべきか

 「そういうことだ。改革というと規制緩和や自由化や民営化しか知らない。新自由主義的な考えが間違いだということはとっくに明らかになり、欧米の電力自由化はすべて失敗に終わっているのに」

 --電力の供給が厳しい状況だが、発送電分離は急ぐべきことか

 「電気が余っているのなら分かるが、なぜ足りないのに自由化か理解不能だ。まず原発事故の収束と電力の安定供給、原発の再稼働をやってからの話だろう」

 --発送電を分離した後に東南海などで大地震が起きたとすると

 「発電会社は送電会社の足元をみて値段をつり上げるので、電力料金は急騰する。電気が足りないほど高く売れるため、発電会社は発電所を造ろうとは考えない。発送電分離でおそらく電力料金は上がり、停電のリスクも高まる。日本の産業にとってもマイナスだ」

 --震災後の計画停電について

 「発送電が一致しているからこそ計画停電ができたのであって、仮に分離していたら無計画停電になっていたはずだ」


格差は拡大する


 --太陽光や風力発電は固定価格買取制度で増やすしかない

 「この制度は愚の骨頂。原資は電力料金だが、電気は貧しい人も使っている一方、太陽光パネルはお金持ちしか買えない。結果的に貧しい人が払った電力料金がお金持ちの収入に回ることになる」

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【プロフィル】高橋洋






草莽崛起:皇国ノ興廃此ノ一戦在リ各員一層奮励努力セヨ。 



 たかはし・ひろし 昭和44年、兵庫県生まれ。42歳。東大法学部卒業後、ソニー、内閣官房IT担当室などを経て平成19年、東大大学院工学系研究科博士課程修了。21年から富士通総研経済研究所主任研究員。著書に「電力自由化 発送電分離から始まる日本の再生」など。

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【プロフィル】中野剛志

草莽崛起:皇国ノ興廃此ノ一戦在リ各員一層奮励努力セヨ。 



 なかの・たけし 昭和46年、神奈川県生まれ。40歳。東大教養学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。英エディンバラ大で博士号。経産省産業構造課課長補佐を経て京大大学院に出向し、平成23年から准教授。共著に「それでも日本は原発を止められない」など。