法相は速やかに刑の執行を。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 









【主張】オウム裁判終結 テロの備えは不十分だ





16年余の長きにわたったオウム真理教幹部らに対する刑事裁判が、事実上終結した。平成7年の地下鉄サリンなどの無差別テロ事件を繰り広げた教団幹部のうち、死刑確定は13人を数える。

 一連の犯行は、カルト集団が国家の転覆を図った未曽有の凶悪犯罪だった。裁判に一応の区切りがついたいま、改めて犠牲者の冥福を祈り、こうした事件を二度と起こさせてはならない。

 警察庁の片桐裕長官は「大規模な組織的テロ事件を未然に防げなかったことは、最大の教訓だ」と語った。同様の悲劇を繰り返さない対策こそ、強く求められる。

 ≪手薄な重要施設の警備≫

 地下鉄サリン事件を受け、警察庁は9都道府県警にNBC(核・生物・化学)テロ対応専門部隊を設置した。12年以降、各都道府県警は陸上自衛隊や消防と、対テロの共同訓練を行っている。

 だが、大がかりなテロにいかに対処するかという根本的課題は放置されている。テロが懸念される対象は、カルト教団にとどまらないからだ。

 米中枢同時テロの例を引くまでもなく、日本も不安定な中東や東アジア情勢を背景とする国際テロの標的となっていることを忘れてはなるまい。

 例えば、領空警備に際して武器使用は正当防衛、緊急避難に限られている。このため、実効ある対応は困難で、米中枢同時テロのように、ハイジャックされた旅客機が突入してくるような事態にはなすすべがない。

 自公政権時代にハイジャック機対応も含めた領空警備の見直しが検討されたこともあるが、実現しなかった。「想定外」を考えようとしないのである。

 自民党が最近、自衛隊の本来任務に原子力発電所警備を加える提言をまとめるなどの動きもあるが、現状では重要施設警備が手薄であることを示している。

 テロ事件を未然に防ぐためには、情報収集が欠かせない。組織の中での告発や、捜査協力によって共犯者の刑を軽減するなどの司法取引や通信傍受、おとり捜査などを導入できるよう、法の整備も検討すべきだ。

 オウム真理教に対しては、政府が破壊活動防止法(破防法)に基づく「解散指定」を請求した。だが9年1月、識者らからなる公安審査委員会は請求を棄却した。

 無差別大量殺人を実行した団体を解散させることもできない国が、正常といえるだろうか。請求棄却を受けて11年に成立した「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律」では立ち入り検査などの権限はあるが、解散を命じることはできない。

 それにしても、16年の歳月は長すぎた。

 教祖の麻原彰晃(本名・松本智津夫)死刑囚の1審は、8年4月の初公判から、257回の公判と7年10カ月を要して、死刑を言い渡した。次々と証人を呼んで公判を長引かせた1審弁護団の法廷戦術は、許し難かった。

 ≪なお残るカルトの温床≫

 麻原死刑囚に対して、1審判決は「救済の名の下に日本を支配しようとした犯行で、極限ともいうべき非難に値する」と断じた。

 共犯者の刑が未確定のまま死刑が執行された例はほとんどなかった。だが、共犯者のすべての判決が確定したいま、刑の執行を妨げるものはなくなった。

 まず、平岡秀夫法相は「事件の首謀者」である麻原死刑囚の刑を速やかに執行すべきだ。しかし、9月の就任時に「国際社会の(死刑)廃止の流れや国民感情を検討して考える。考えている間は当然判断できない」と語った平岡氏は執行を見送り続けている。法相の職責が放棄されたままでは、法の下の正義は守られない。

 一連の公判では、多くの青年がカルト宗教に精神をからめ捕られる過程が明らかにされた。「解脱」や「修行」といった言葉に操られ、洗脳された彼らは決して特殊な存在ではない。

 東日本大震災の被害や不況による失業者の増加など、心に隙間を生む不安要素は増す一方だ。若者が夢を持って生きられる社会をつくっていかねばならない。

 オウムの後継団体、「アレフ」と「ひかりの輪」には1500人の信者がおり、一連の事件を知らない若い層が多いという。指名手配されている3人の容疑者も逃走中だ。裁判は終結したが、事件は終わっていない。