発売日:  2014年03月
著者/編集:  松井今朝子
出版社:  NHK出版 
サイズ:  単行本
ページ数:  282p

【内容情報】(「BOOK」データベースより)
 祇園の料亭に育ち、歌舞伎の世界に飛び込んだ著者は、稀代の演出家にして昭和の怪人、武智鉄二に出会った。この反骨の師が全身全霊で教えてくれた、人生の闘い方とはー。直木賞作家が波乱万丈の半生を綴る自伝文学の傑作!

 

【抜粋メモ】

第二次世界大戦後に急速な近代化を遂げた世界では、その反動として前近代文化への見直しが起こり、日本では海外発のジャパネスクにも似たかたちで江戸ブームが到来した。前近代の日本社会を体感していた世代にはなかった日本の伝統文化に対する「憧れ」が、体感していない世代から生まれたといってもいいだろう。
戦後生まれの私は日本の伝統文化に対する「憧れ」なぞなく、ただ前近代的な「家」に生まれたので、幼い頃から身近に接していたに過ぎない。しかし、だからこそまた、それらの文化がいかに魅力的でも、それらを生んだ前近代の日本社会ははっきりと決別して、離脱すべき対象であることを、自身の体験を通じて実感する者なのだともいえる。
(略)
安易に昔を憧れて過去に回帰する誘惑に対して釘を刺す意味でも、私にはこれを自身の生い立ちから書き下ろす使命があるように思えたのだった。
[P.11]

出版者:小学館
サイズ:単行本
出版年月:2016年09月27日 
1,600円(税抜)

【あらすじ】「BOOK」データベースより)
北海道釧路市の千代ノ浦海岸で男性の他殺死体が発見された。被害者は札幌市の元タクシー乗務員滝川信夫、八十歳。北海道警釧路方面本部刑事第一課の大門真由は、滝川の自宅で北原白秋の詩集『白金之獨樂』を発見する。滝川は青森市出身。八戸市の歓楽街で働いた後、札幌に移住した。生涯独身で、身寄りもなかったという。真由は、最後の最後に「ひとり」が苦しく心細くなった滝川の縋ろうとした縁を、わずかな糸から紐解いてゆく。

【抜粋メモ】
米澤小百合は、ひとの同情を一瞬でかき集めて、周囲にある感情を束ねてしまう。ひと絡げにされた「同情」は、彼女の視界に入らないまま山積みになっている。彼女は、人の同情に気づきもせずに生きてゆける。
ありがたいと口にしながら何度も頭を下げられる鈍感さを、生きる力と呼ぶのなら、目の前の彼女は生命力の塊だった。なにも放り出さぬ代わりに、なにひとつ内側へと取り込まない。自ら傷つきもしないし、他人を傷つける自覚もない。仙台に見込まれ、見た事もない男と所帯を持ち、とうに破綻した一家の中で大きく感情を揺らすこともせず、ひとり息子を育てた女だ。感情を表に出せば、ひとの感情に振り回される。そういったことを、生まれながらに知っている。
米澤小百合は、自分が生きることにしか興味がない―――。
[P.231]

出版者:文藝春秋
サイズ: 文庫
出版年月:2016年10月07日 
840円(税抜)

 

【内容紹介】
カミーユ警部の恋人が強盗に襲われ、瀕死の重傷を負った。一命をとりとめた彼女を執拗に狙う犯人。カミーユは彼女との関係を隠し、残忍な強盗の正体を追う。カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ三部作の完結編。

 

【抜粋メモ】

 ダンヴィルはおかしな男で、どうやらスイッチと同じらしい。電気が流れるか流れないかのどちらかで、中間がない。そしてこのとき突然電気が流れた。こりゃ面白いという顔でカミーユのほうを向くと嘘偽りのない笑みを見せ、完璧な歯並びまで披露した。カミーユはなるほどと思った。要するにこの男は論争好きなのだ。無愛想で横柄だが、それは相手とやり合うのが好きだからだ。しかも喧嘩腰でありながら、実のところはがつんとやられるのが好きらしい。カミーユはこの手の男を何人も見てきた。殴っておいて、相手が倒れると介抱するタイプと言ってもいい。それはどこか女性的な面があるからだろうか。だから医者になったのだろうか。

[P.148]

出版者:文藝春秋
サイズ:単行本
出版年月:2012年11月 
1,400円(税抜)

【あらすじ】「BOOK」データベースより)
さあ、行こう。これは僕らの最後の旅だ。一人と一匹が見る美しい景色、出会う懐かしい人々。心にしみるロードノベル。

【抜粋メモ】

悲しまないと死んだ猫は片付かないんだ。ずっと音信普通だった猫の死を悼むことはできても、今さら悲しめないだろう?そしたらね、
コースケ、お前はハチの場所にそのまま僕を置いちゃうんだ。ナナとしてサトルに愛されてる僕は、今さらお前のハチの身代わりになるのはごめんだな。
そのうえ、困った親父や傷ついた奥さんが乗っかってくるならなおさらだ。僕は類いまれなる聡明な猫だけど、そんな鬱陶しい人間関係を背負って愛玩されるなんて、そんな面倒くさいことはまっぴらだな。
「奥さんとまっさらな猫を探して、二人の猫にしたらいいよ。お父さんのことはほっといてさ。お父さんはぶつぶつ言うかもしれないけど、無視して勝手にこの家で猫を飼えばいいよ」

[P.63]

出版者:講談社
サイズ:文庫
出版年月:1997年06月
1,100円(税抜)

【あらすじ】「BOOK」データベースより)
ヨーロッパ文学から離れて、土着派のマーク・トウェインなどと併せて、アメリカ文学として独立した画期的作品。後走者のヘミングウエイ、フォークナーなどに多大な影響を与えた。オハイオ州ワインズバーグ・オハイオという町を設定して、そこに住む人々の生活、精神の内面を描き、現代人の孤独や不安といった現代文学の主要テーマをアメリカ的背景のもとにとりこんだ。全体は22篇の短篇で構成。

【抜粋メモ】

「ぼくはそれに名前をつけたよ。タンディっていうんだ。ぼくはその名前を、まだ本当の夢想家で体もけがれていなかったころに、考えついた。それは愛されるだけの強さがあるという資質なんだ。それは男が女に求め、しかも手に入れることができないでいるものなんだ。」
よそ者は立ちあがると、トム・ハードの前に立った。体が前後にゆれて今にも倒れそうにもっていった。彼はその手にうっとりしてキスをした。「お嬢ちゃん、タンディになるんだよ」彼は祈るようにいった。「頑張って、強くて勇気のある人間になっておくれ。それこそきみの進むべき道なんだからね。何でも思い切ってやってごらん。愛されることを恐れないだけの勇敢さをもつことだ。男であるとか、女であることとか、そんな区別をこえた人間になるんだよ。タンディになるんだよ」
よそ者は立ち上がり、よろめく足どりで通りを遠ざかっていった。
[P.180]

出版者:小学館  
出版年月:2015.10
1,500円(税抜)

【あらすじ】(出版社より)
日本びいきの恋人、ジェニファーから、結婚を承諾する条件として日本へのひとり旅を命じられたアメリカ人青年のラリー。ニューヨーク育ちの彼は、米海軍大将の祖父に厳しく育てられた。太平洋戦争を闘った祖父の口癖は「日本人は油断のならない奴ら」。
日本に着いたとたん、成田空港で温水洗浄便座の洗礼を受け、初めて泊まったカプセルホテルに困惑する。……。慣れない日本で、独特の行動様式に戸惑いながら旅を続けるラリー。様々な出会いと別れのドラマに遭遇し、成長していく。東京、京都、大阪、九州、そして北海道と旅を続ける中、自分の秘密を知ることとなる……。

【抜粋メモ】
ふと、ある考えが閃いた。キリスト教徒の少ない日本では、いわゆる原罪主義に基づく運命論が通用しないのではないか。アダムの罪なんて、そもそも誰も背負っていないから、たとえ自然現象であれどんな不可抗力の結果であれ、不都合な結果が生じた際には、アダムのかわりに責任を負って、神の恩恵に与るかわりに人々に対して詫びる人間が必要なのではないのか。つまり、僕らキリスト教徒は信仰によってのみ原罪から解放されようとするが、それは現実社会では一種の諦めなのであって、けっして諦念によって現実を帰結しない日本人は、悪い結果が出るたびに当事者の代表が責任を感じて侘び、社会はそのつどそれを結論として寛(ゆる)すのである。
ソー・グッド。この旅行の往路の間に僕が感じた日本人の寛容さ、日本人のクールさ、日本人のやさしさは、これでだいたい説明がつくじゃないか。
ついでに、その責任の取り方の究極のかたちが、ハラキリだという仮定はどうだ。

[P.61]

出版者:新潮社 
出版年月:2016年09月30日
1,200円(税抜)

【あらすじ】「BOOK」データベースより)
ゴッホ、セザンヌ、マティス。綺羅星のようなコレクションを誇る美術館が、市の財政難から存続の危機にさらされる。市民の暮らしと前時代の遺物、どちらを選ぶべきか?全米を巻き込んだ論争は、ある男の切なる思いによって変わっていくー。アメリカの美術館で本当に起こった感動の物語。『楽園のカンヴァス』『暗幕のゲルニカ』の系譜を継ぐ珠玉のアート小説。

 

【抜粋メモ】

セザンヌ夫人-彼女の名前は「オルタンス」というのだとDIAのキュレーターに教えてもらった-は、透き通るような白い肌をしていて、頬はうっすらとバラ色に染まっていた。そしてなんということもない粗末な青いワンピースを身につけていた。が、その青は単純な青ではない。まるで朝焼けの空の色が溶け込んだような、なんともいえぬバラ色が混じった青。そのバラ色は、婦人の頬にほんのり差したバラ色と見事に呼応していた。
(略)
そして何よりも、彼女の表情。貴婦人の肖像画のようにゆったりと微笑んでもいなければ、法悦のマグダラのマリアのように恍惚としているわけでもない。生真面目にきゅっと口を結び、こちらを一心に見つめる目。小さな、ごく小さな光の粒が瞳の奥に宿ってふるえている。
-なんと気難しい、一生懸命な顔をしているんだろう。
彼女は、聖母でも女神でもなければ、姫君でも貴婦人でもない。ごくふつうの、どこにでもいるような女性だ。それに、絵に描かれるほどの特別な美人かと問われれば、そうとは言えない。
けれど・・・・・・。
このままずっと、いつまでもみつめられたい。そして、みつめていたい。
彼女と一緒に暮らしてみたい。このさき、自分の人生にずっと寄り添ってもらいたい。
寂しいときも、悲しいときも、病めるときも・・・・・・死がふたりを分かつまで。
そんな思いが心をよぎった。-ずっと会いたかった人にようやく会えた、と。
そのときからずっと≪マダム・セザンヌ≫はロバートとともにあった。

[P.44]

 

講談社
ISBN:9784061856981
1994年06月発売 文庫
590円(税抜)



【あらすじ】
世界初の脳移植手術を受けた平凡な男を待ちうけていた過酷な運命の悪戯!脳移植を受けた男の自己崩壊の悲劇。
平凡な青年・成瀬純一をある日突然、不慮の事故が襲った。そして彼の頭に世界初の脳移植手術が行われた。それまで画家を夢見て、優しい恋人を愛していた純一は、手術後徐々に性格が変わっていくのを、自分ではどうしょうもない。自己崩壊の恐怖に駆られた純一は自分に移植された悩の持主(ドナー)の正体を突き止める。


【抜粋メモ】

「御本人にお会いしていないので何ともいえませんが、今のお話を伺ったかぎりでは、エディプス・コンプレックスの一種という見方ができますね」
「エディプス・コンプレックス?」
「幼少期に見られる小児性欲のひとつといえます。自分の性を意識することで、身近な異性である母親に官能的な愛着を抱き、同姓である父親にライバル心を持つのです。誰にでも多少はあるものですが、それがうまく解消されないと、後年になって精神に影響を及ぼすことは十分にありえます」
(略)
「さらにこれは一歩進めた考えですが」医者は前置きした。「親を異性として見るわけですから、エディプス・コンプレックスには必ずといっていいほど、罪悪感がつきまとうのです。そしてその罪悪感の裏返しとして、時には極端なまでの潔癖性に陥ったりします。あなたのお兄さんの場合、自分だけでなく他人の怠惰や不精も我慢できないということですが、それもこの症状の一種といえるかもしれません。つまりセックスをはじめとする快楽の追及する行為を否定する意味で、人間は勤勉であらねばならないという脅迫観念が生じてくるわけです」

[P.295]

ポプラ社
ISBN:9784591137277
2014年01月10日頃発売 単行本
1,620円(税込)




【あらすじ(BOOKデータベースより)】
「生きて、生きて、生きぬくんや!」1995年、神戸市長田区。震災で両親を失った小学一年生の丹華(ニケ)は、兄の逸騎(イッキ)、妹の燦空(サンク)とともに、医師のゼロ先生こと佐元良是朗に助けられた。復興へと歩む町で、少しずつ絆を育んでいく四人を待ち受けていたのは、思いがけない出来事だったー。


【抜粋メモ】

1995年1月17日(火曜日)
午前5時46分52秒
兵庫県南部地震 発生
震源地 淡路島北部
北緯 34度36分 東経 135度02分
最大震度 7
マグニチュード 7.3
震源の深さ 16km

未明の空に、白い満月が、しいんと黙って浮かんでいた。決して届くことのない、別世界への出口のように。

[P.23]

KADOKAWA
ISBN:9784048662260
2014年01月24日頃発売 文庫
570円(税抜)





【あらすじ】(「BOOK」データベースより)
静かにあたためてきた想い。無骨な青年店員の告白は美しき女店主との関係に波紋を投じる。彼女の答えはー今はただ待ってほしい、だった。ぎこちない二人を結びつけたのは、またしても古書だった。謎めいたいわくに秘められていたのは、過去と今、人と人、思わぬ繋がり。脆いようで強固な人の想いに触れ、何かが変わる気がした。だが、それを試すかのように、彼女の母が現れる。邂逅は必然ー彼女は母を待っていたのか?すべての答えの出る時が迫っていた。


【抜粋メモ】

「そうです…でも、当時手塚治虫の人気は下降しつつありました」
俺は目を丸くした。
「本当ですか?」
「本当です。手塚治虫は『鉄腕アトム』『ジャングル大帝』『リボンの騎士』などを生んだ、戦後のストーリーマンガの礎を築いた天才ですけれど、この時期は不調を囁かれていました。経営していたアニメのプロダクションが倒産し、抱えていた連載も次々と打ち切られていたんです。原稿料も当時のマンガ家の中では『Bクラス』だったようです。」

[P.156]