精霊の守り人 第二十三話『シグ・サルアを追って』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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「『剣の重みは生命の重み。その剣はそなたの生であり、死である。それを抜く時は自分の生命をその刃に託したものと覚悟せよ』。カンバルの言葉さ。本当は一人前になった息子に短剣を授ける儀式の時、父親が言うんだけどね」(バルサ)


チャグム、元服の儀。

いえいえ、どう見てもバルサが父親です。本当にあr……と思いましたが、ジグロのことを考えると、この言葉はバルサの口から出たジグロの言葉と思いたいですね。バルサがいったように『立派な若者』に成長したチャグムですが、当然のことながら、チャグム一人で大きくなったわけではありません。ヤクーの民族衣装にカンバルの短剣を帯びたヨゴの皇子というチャグムの姿そのものが、それを現しています。そうした点を言葉や台詞ではなく、ヴィジュアルで表現する巧みさは相変わらず。そして『精霊の守り人』もいよいよ、クライマックスに突入です。


ガカイと二ノ妃に励まされて、兵と共に宮を出立するシュガ。いまだに全ての碑文の解読は終わってはいないものの、ラルンガの弱点を突きとめたガカイさん、御見事。そして、自分の生命に代えてもチャグムを連れ帰るというシュガに『貴方も生きて帰りなさい』と告げる二ノ妃。正式な国母に就任するためには、チャグムの身柄だけでなく、シュガの力も必要という計算もあるのでしょうが、それでも、シュガの身を案じる心に偽りがあるわけではありません。シュガは最早、宮になくてはならない存在。絶望、挫折、探究という過程を経て、現今の境地に辿りついたシュガは、バルサ、チャグムに次ぐ、第三の主人公と評してよいでしょう。


『卵』に呼ばれるままに青弓川を遡上するバルサチーム。途中の女同士、男同士の会話が面白い。

まず、バルサ&トロガイ。チャグムを見つめるバルサを『母親みたいな顔しおって』とからかうトロガイですが、即座に『いけませんか?』と切り返されます。この時のバルサは完全に母親モード。少なくとも、チャグムをここまで逞しく育んだのは他の誰でもない自分だという自負がある。

「最近……同じ夢をよく見ますよ」

と呟くバルサの視線の先にいるのはチャグムとタンダ(チャグムのほうがフレームの中央に位置しています。両者への思い入れの差が出ている、ある意味で残酷なシーンです)。しかし、トロガイにどんな夢かと聞かれても、黙って微笑むだけのバルサ。幸せって奴は手に入れたり、掴んだりするもんじゃない。ただ、感じるもの。だから、無闇に口にしないのが大人というものです。

一方、そういうことを堂々と口にできるのが子供の特権。

「さっさと(バルサを)娶っちゃえばいいのに」

とチャグムはタンダの地雷に全体重をかけた蹴りを喰らわします。チャグム、自重しろ。夏がうんたら、秋がかんたらと理屈をこねて何とか回避を試みるタンダですが、

「じゃあ、俺が聞いてみようか、バルサに」

とトドメの一撃。チャグム、バルサに聞くのは自由だが、今度はビンタの一、二発じゃすまないぞ。

尤も、これらのチャグムの発言は子供ゆえの無邪気さだけとはいえません。

「チャグムはどうして、そこまで思い切れるようになったんだ? 俺は色んなことが怖くて仕方ないってのに」

というタンダの言葉に、

「判ったんだ。もし、自分が死んだとしても、必ず何かを残せるから大丈夫だって。バルサにジグロの話を聞かせてもらってから、そう思えるようになったんだ」
と答えるチャグム。ラルンガのことを考えれば、一行の中で最も死に近いのはチャグム。しかし、そのことに対する心の整理は既についています。むしろ、気になるのは生き残った人たちの動向。だから、チャグムはバルサとタンダをくっつけようとします。謂わば、これは『チャグムの遺言』ですね。まぁ、それに二人が応えてしまったら、完全な死亡フラグになってしまいますので、この話はここでオシマイ。


シグ・サルアが咲き乱れる青池に到着。青池が『宴の地』と推測するシュガたちも、ほぼ、時を同じくして合流します。つい、昨夜、狩人たちにバルサとの交戦を禁ずる一方で、事が成就した暁にはバルサ、タンダ、トロガイを始末する算段をたてていたことなど噫にも出さず、

「チャグム皇太子殿下。これより、水の精霊の誕生をお助けし、新ヨゴ皇国を救った英雄として還御していただきたく、お迎えに参りました」
などと宣う役者ぶり。シュガの心底までは読めなくても、その態度にカチンとくるバルサ。

「ヨゴを救った英雄とは、ずいぶんと掌を返したもんだねェ」

(ペチャクチャペチャクチャと小難しい理屈を並べるより先に『ごめんなさい』の一言があって然るべきじゃねェのか、ぁう?)

「女用心棒よ。既に我らの利害は一致している。何度かの行き違いはあったが、この者たちがそなたらに害することは最早ない

(あぁ? いつまでも過ぎたことに拘ってんじゃねーよ、このオバハン。俺だってなぁ、オメーにボコられたことを忘れたわけじゃねーんだぞ)

何か、ドドドドドドとかゴゴゴゴゴゴとかいう効果音が聞こえてきそうな雰囲気になりかけましたが、ここで過ぎたことを蒸し返しても始まらないので、バルサも『水車燃ゆ』の回のようにシュガをボコボコにするようなマネはしません。

宮が突きとめたラルンガの弱点は『火』。水は土に弱く、土は火に弱い。これって、五行だっけ? 四大精霊だっけ? そして、夏至祭でチャグムが薪割りをして拵えた大松明が、ラルンガ退治の名残であり、狩人の八人がトルガルに従った八武人の末裔であることも判明します。あーもー、こういう感じで次々と伏線が回収されていくさまは、ホントに観ていてキモチいい。

協力する気があるのかないのか判らん大人どもを差し置いて、事態は急変します。青池の『水面の上を歩いて』湖面の中央に辿りつくチャグム。どうやら、体内の『卵』が動き始めたことで、チャグムに何かのスイッチが入った模様。シグ・サルアの花を口にしたチャグムに近づくラルンガの爪。どうやら、普段はアストラルボディ(幽体)状態で一切の物理攻撃は無効。そして『卵』を狙う時だけ、フィジカルボディ(実体)状態になるようです。しかし、アストラルボディ状態でもシグ・サルアの花にだけは接触していたこと目ざとく見つけたタンダ。その花を鞄に詰め込むと、一同と共に『卵』に衝き動かされるように走り出すチャグムを追います。


ところが、ここで宮では大事件が勃発。青池≠宴の地であることが判明。水没した碑文を引き上げる水夫がもういないことが判ると、ガカイさん自らが潜ることを志願します。年寄りの冷や水は危険です(意訳)といって、やめさせようとする者を一喝するガカイさん。

「貴様らの役目は何だ! 滅んだ国で星を読む気か!」

この台詞は正直しびれた。今話の前半の心に沁みる名シーンの数々さえ、一言で吹き飛ばすオヤジの意地。ガカイさん、一世一代の晴れ舞台です。そして、引き上げられた残り八枚の碑文を携えて、シュガの元に奔る早馬で物語は〆。ダークホース・ガカイさんの一人勝ちで終わった第二十三話。精霊の守り人感想も@三話です。