三略と云ふ支那の古い兵書に「能く彊きを欲すれどもその微を守るもの少なし」と云ふ言葉があります。


 

 囲碁で云ふと、お互ひに陣地争ひなんです。三目の領地を捨てて十目の領地をひろふ事は誰でも能くするが十目の処を捨てて十一目の処を取る事を仲々出来ない。人間とはそんな者だ。と云って居るのは兼行法師なんです。面白い言葉で兵書の「能く彊きを欲すれどもその微を守るもの少くなし」と云ふむづかしい文を説明して終ってゐます。
 

 三を捨てて十を取る。これは本当に誰でもする事です。敢えて危険を犯してまで行ひますが、さて十目をすてて、十一目をと云ふ場合になると、待てよ、功角十目なんだから、一目の損得くらい良いじやないか、と十目に就着して終ひます。其処に思考が固定し、勢力が限定されて終って、もふ發展はありません。何時のまにか他の所に敵の勢力を浱らせて終ひます。