自分の聲は自分自身の因縁のこゑなんです、又、自性の聲なんです。
これを常に聞くことの出来る人は偉い人です。自分の腹の中で相談して実行する人こそ、本当の独立独歩の人です。自分の鼻で"いき"をする人です。
 

達人名人が紙にさっと一筆下ろす、そして今更何も工夫せず考へず さらさら、これは芸のうえでの自性の聲で書いて居るのです。此の様でなく一筆一筆を工夫しながら塗り上げて行く、それは画としては美しく完成したものでも、作意がある。生きたものではありません。
 

貴方だって、自性の聲は始終聞いている筈なのです。

ところが四囲の他人の言葉が多く、耳は外の言を聞く様にできて居るから、内部の聲に気が付かぬのかも知れません。
 

此の自性の聲を聞くには修練が大切です。

と云ってもそんなに苦労しなくとも出来るんです。
 

疲れたら休みなさい。悩んだら、その部屋を離れること、仕事場、事務所から離れること、只一人で"ボヤン"と寝ころんで大きく深呼吸を二つ三つ、暫く何も考へず 暫くぼんやりすること、聞えて来るんです、その時。

生活禅の極致なんですよ。