ブラックダリア~そして蘇るエルロイ
深夜テレビを見ながらうたた寝していたおいらにかみさんが「『ブラックダリア』って知ってる?」と聞いてきた。ブラックダリア!ジェイムス・エルロイにはまっていたのは結婚する前だからもう7年ぐらい経つ。ちょうど『L.A.コンフィデンシャル』が映画化され日本で公開された頃だ。
『ビッグ・ノーウェア』、『ホワイト・ジャズ』、『アメリカン・タブロイド』。
まさに貪り読んだね。読んだ順番が発表順ではなかったけど、『ホワイト・ジャズ』の衝撃は今でも忘れられない。当時は『アメリカン・タブロイド』が出たばかりで、当分新作も出ないだろうと思ってエルロイのことは忘れていた。あっという間に時は過ぎるもんだ。
ただ『ブラックダリア』に出会ったのはもっと前で文庫本発売の頃だったと思う。当然興味があったのは、エルロイではなくて “世界でもっとも有名な死体”の方だ。確か別冊宝島の映画読本かなんかで読んだのが最初だったが、その本には本物のブラックダリアの死体写真が数点掲載されていた。
真っ二つにされた胴体、耳元まで切り裂かれた口。だけど死体にしてはあまりにも美しい顔。
その本にもこの写真はマネキンを使って再現したものではないのか?と疑問符がついていた。警察より早くカメラマンが現場に着いたことにより撮影されたとされるこの写真の真偽も含めて、おいらは興味を惹かれたわけで、その点からするとエルロイの『ブラックダリア』はちょっと期待ハズレだった。この本はあくまでフィクションだし、後半部分はブラックダリア事件からはちょっと外れていたような気がする。正直言ってあまり覚えていない。だから『L.A.コンフィデンシャル』の作家が同じエルロイだと知った時、ちょっと驚いた。と同時に二作に繋がりがあって、それどころか四部作で、他にも『ビッグ・ノーウェア』、『ホワイト・ジャズ』という作品があると知った時から、一気にエルロイに嵌まっていった。『L.A.コンフィデンシャル』は面白かったし、別物の小説が実は繋がっている?ような展開はおいらのツボにはまるのだ。
結局ブラックダリア事件の詳細は別冊宝島にあった以上のことは知らない。それ以上にエルロイの生い立ちが衝撃的だったから、エルロイに興味は移っていった。エルロイの母はブラックダリアではないけれど、似たようなシチュエーションのなかで殺されてしまっているし、犯人も挙がっていない。したがってどうしても重なってしまうし、なんたってエルロイ自身が二人を重ねちゃってるわけで、このあたり現実と虚構が入り組んではっきりしないところがエルロイのリアリズムであり魅力だと思う。『わが母なる暗黒』はエルロイが生い立ちを語った自伝なので是非とも押さえるべきだろう。読後の衝撃と言う点では、マイケル・ギルモア(村上春樹訳)の『心臓を貫かれて』と双璧をなす。
さて、映画の『ブラックダリア』だが、監督がデ・パルマだってことでもう見るしかないって感じだ。まだ健在だったのね、ブライアン・デ・パルマ。映画の『L.A.コンフィデンシャル』ははっきり言って60点だった。それはまあ小説のほうが遥かに面白いと言う比較点なんだけど、『ブラックダリア』は監督もこういう類の映画を取らせれば秀逸だし、おいらはストーリーも忘れちゃってるので、映画で見るにはちょうどいいかもしれない。あとエルロイの新作を注文しなければ。