以前、競馬愛好家の会社員が馬券配当で得た所得を申告せずに所得税法違反に問われたという裁判についてご紹介しました。
このたび最高裁判決において判決が下り、この判決について国税庁のHPにて概要等が記載されましたので簡単にご紹介します。
1.裁判内容
今回の裁判では、競馬の馬券の購入を機械的、網羅的、大規模に行っており、かつ、そうした購入を実際に行っていることが客観的に認められる記録が残されている等の場合において下記の2点について争われました。
(1) 競馬の馬券の払戻金は、一時所得と雑所得のいずれに該当するか。
(2) 所得金額の計算上控除すべき金額は、的中した馬券の購入金額に限られるか否か。
裁判の結果、「馬券の払戻金はその払戻金を受けた者の馬券購入行為の態様や規模等によっては、一時所得ではなく雑所得に該当する場合があり、その場合においては外れ馬券も所得金額の計算上控除すべき」と判断されました。
2.最高裁の判断
(1)競馬の馬券の払戻金は、一時所得と雑所得のいずれに該当するかの判断
・所得税法上、営利を目的とする継続的行為から生じた所得は、「一時所得」ではなく「雑所得」に区分される。
営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。
・被告人は、インターネットを介して馬券を自動的に購入できるソフトを使用して馬券の購入をしていた。長時間にわたり多数回かつ頻繁に、網羅的な購入により当たり馬券の払戻金を得て利益を上げていた。
払戻金は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として、「雑所得」にあたる。
よって、今回の件では所得税法上の雑所得に該当すると判断されました。
(2) 所得金額の計算上控除すべき金額は、的中した馬券の購入金額に限られるか否かの判断
・雑所得については、所得税法第37条第1項の必要経費にあたる費用は、同法第35条第2項第2号により収入金額から控除される。
・外れ馬券を含む一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有することから、当たり馬券の購入代金の費用だけでなく、外れ馬券を含む全ての馬券の購入代金の費用が、当たり馬券の払戻金という収入に対応する。
よって、今回の件では当たり馬券の購入代金費用だけでなく、外れ馬券の購入代金は必要経費に当たると判断されました。
3.一時所得と雑所得
今回の話の争点の一つである一時所得と雑所得の違いは、下記のとおりとなります。
(1)一時所得
一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいいます。(所得税法34条1項)
一時所得の求め方:「総収入金額 - 収入を得るために支出した金額 - 特別控除額50万円」×1/2
(2)雑所得
雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいいます。(所得税法35条1項)
雑所得の必要経費:必要経費にあたる費用は、収入から控除されます。(所得税法第35条2項第2号)
雑所得の求め方:総収入金額 - 必要経費
(3)所得額の計算
一時所得、雑所得ともに総合課税の対象なので、他の所得と合算して課税されます。
4.国税庁の今後の対応
従来は、馬券払戻金については、一律に「一時所得」として取り扱っていました。(所得税法34条第1項、所得税基本通達34-1)
今後は、判決内容を精査、パブリックコメントの手続を行い「所得税法基本通達34-1」が改正される予定です。
参考URL
国税庁HP
https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/shotoku/04/08.htm