「後継者がいない。最後は会社を売るしかないのか」

そう考える経営者は少なくありません。確かにM&Aは、後継者不在の中小企業にとって有力な出口として定着しました。ただ、統計を見ると別の流れも見えてきます。

2025年に代表者が交代した企業では、血縁のない役員や社員が社長に就く「内部昇格」が、親族による「同族承継」を上回りました。会社を継ぐのは、もう「身内」とは限りません。一緒に現場を支えてきた「右腕」が継ぐ形が、承継の主流になりつつあります。

この流れの先にあるのが、MBO(マネジメント・バイアウト)です。経営を担う役員が自ら株式を買い取り、「所有」と「経営」を一つにする手法です。

会社のことを一番よく知る人が継ぐので、社風も雇用も取引先との関係もそのまま守られます。外部の買い手が見つかりにくい規模の会社でも実行できるのが大きな強みです。

「でも、株を買うお金なんてない」と思われるかもしれません。一般的には、後継者が受け皿となる会社を設立し、金融機関から借り入れて株式を取得します。借入金は、事業会社から受け取る配当で返していきます。後継者が手元資金を持っていなくても、道は開けます。

MBOの本当の魅力は、その先にあります。所有と経営が一致した会社は、次の成長段階へ踏み出しやすくなります。その延長線上には「株式上場」という選択肢も見えてきます。

上場すると、資金調達力、社会的信用、採用力が高まります。自社株に市場価格と流動性が生まれるので、後継者自身がいずれ直面する相続の問題も軽くなります。従業員持株会やストックオプションを使えば、会社の成長の果実を社員と分かち合うこともできます。

もちろん、上場は簡単ではありません。グロース市場の門は狭くなっています。2030年3月以降、上場維持基準は「上場10年後に時価総額40億円以上」から「上場5年後に100億円以上」へ引き上げられます。

それでも、道は一つではありません。高い成長性を示すのが難しければ、スタンダード市場やTOKYO PRO Marketなど、自社の実力に合った市場を選ぶ方法があります。

後継者不在は、見方を変えれば会社を次のステージへ押し上げるチャンスです。「売るか、畳むか」の二択で考える前に、MBO、そしてその先の上場まで視野に入れてみてください。自社に合った承継の形と、その先の未来を描いてみる価値は十分にあります。

2026年(令和8年)9月24日、国税庁の基幹システムが約25年ぶりに刷新され、新システム「KSK2」が稼働します。現行のKSK(国税総合管理システム)は1995年から使われてきた仕組みで、申告・納税の情報を一元管理してきましたが、法人税・所得税・消費税・相続税といった税目ごとの縦割り管理であり、閲覧も税務署の庁舎内に限られていました。

KSK2では各税目の情報を横断的に確認でき、調査先からパソコンでアクセスすることも可能になります。さらに外部データの取り込みや地方自治体との連携も想定されており、分析に使えるデータの量は格段に増えることになります。

日本の法人の多くは同族会社。法人税・所得税・相続税・贈与税を一体で把握できるようになれば、会社と社長個人、そして将来の相続まで見据えた多税目型の調査が増えていくと考えられます。もっとも、「AIが自動的に不正を摘発する」といった話は先行しすぎで、KSK2はあくまでデータ基盤の刷新です。根拠資料を整え、説明できる申告を積み重ねることが、これまで以上に大切になります。

実務ですぐに影響するのは、むしろe-Taxの「処分通知等の電子交付」。これは税務署からの通知書や証明書を郵送ではなくe-Taxのメッセージボックスで受け取る仕組みで、国税還付金振込通知書、納税証明書、更正の請求に対する通知、予定納税額の通知書などが対象となり、9月24日以降その範囲が大幅に拡大します。あわせて同意の方式も、これまでの「申請等の都度の同意」から「事前の一括同意」へ変更されるため、すでに電子交付を利用している方も含め、9月24日以降にe-Tax上で改めて一括同意の手続きが必要です。

ただし住宅借入金等特別控除証明書と適格請求書発行事業者の登録通知については、従前の同意が引き継がれるとされています。このほかにも、申告書等の様式変更(控用の廃止や配色の白黒化)、納付書の「整理番号」欄から「お問い合わせ番号」欄への変更、e-TaxのIPアドレス仕様の変更、更改前後のe-Taxメンテナンスによる利用停止期間など、細かな見直しが重なります。

まずは電子交付を利用するかどうかの社内方針を決め、通知メールを受け取るアドレスと、メッセージボックスを誰がいつ確認するかをルール化しておくことをおすすめします。確認が遅れると不服申立ての期限を逃すおそれもあります。

尚、国税システムの更改に伴うメンテナンス時間についての案内が発表されています。

e-taxの利用が制限されますので気を付けてください。・システム更改に伴うe-Taxのメンテナンスについて

 

■国税庁関連記事リンク

・国税システムの更改について

・処分通知等の電子交付について(e-Tax)

・電子交付の対象となる処分通知等の検索(e-Tax)

・メッセージボックスの確認(e-Tax)

・システム更改に伴うe-Taxのメンテナンスについて

・e-TaxのIPアドレス仕様変更について

・申告書等の様式変更・受付開始時期一覧(Excel)

・申告書等の書面提出についてのご案内(PDF)

・「お問い合わせ番号」について(PDF)

・納付書等の様式変更等について

・国税システムの更改に伴うe-Tax仕様書等(KSK2対応版)

 

「相続対策のためにアパートを建てましょう」――金融機関やハウスメーカーから、こうした提案を受けたことのある方は少なくないと思います。
しかし、令和8年度税制改正により、取得から5年以内の貸付用不動産については、相続税評価の考え方が根本から見直されることになりました。適用は令和9年1月1日以後に相続・贈与により取得する財産からです。
現行の相続税評価では、土地は路線価等、建物は固定資産税評価額を基準に評価します。さらに賃貸用であれば、貸家建付地・貸家としての評価減も加わります。
この方法によると、評価額は市場価格の5〜6割程度になることも珍しくありません。とくに近年のような地価・建築費の上昇局面では、市場価格と相続税評価額の差(乖離)が大きくなりやすく、その差を利用した節税が問題視されてきました。
タワーマンションについては令和6年から評価方法が見直されましたが、今回の改正は賃貸アパート・賃貸マンション・貸倉庫など、貸付用不動産全般に対象が広がるものです。

改正のポイント
取得から5年以内の貸付用不動産
対象となるもの
被相続人等が課税時期(相続開始または贈与)前5年以内に、対価を伴う取引により取得または新築した一定の貸付用不動産です。
評価方法
路線価等ではなく、**「通常の取引価額に相当する金額」**により評価します。課税上の弊害がない限り、取得価額等を基礎に、次のように計算した金額によることができるとされています。
|区分|計算のイメージ               |
|建物|(取得価額等 − 償却費相当額等)× 80%|
|土地|取得価額等 × 地価変動率等 × 80%  |
取得から5年を超えるもの
従来どおりの評価方法です。つまり、5年という保有期間が明確な分岐点になります。
5年以内→通常の取引価額に相当する金額(取得価額ベース × 80%)
5年経過後→従来の評価方法(路線価・固定資産税評価額)        |
適用時期と経過措置
適用は令和9年1月1日以後に相続・贈与により取得する財産の評価からです。
なお、改正を受けて発遣される財産評価基本通達で定める日までに、その日の5年前から所有していた土地の上に新築した家屋(同日において建築中のものを含む)については、従来の評価方法によることができる経過措置が設けられます。
店舗を新たに構える際、建築会社や設計事務所に支払う設計料やデザイン費について、「これは経費で落とせるのか、それとも資産計上しなければならないのか」と迷われる経営者の方は少なくありません。結論から申し上げると、設計デザイン費は原則として建物の取得価額に算入し、建物と一体で減価償却していくことになります。
法人税法施行令第54条は、固定資産の取得価額について、購入代価のほか「資産を事業の用に供するために直接要した費用」を含むと定めています。設計料・デザイン料・建築確認申請費用といった費用は、まさに店舗という資産を完成させるために直接要したものですから、建物本体の取得価額を構成するものとして資産に計上しなければなりません。
耐用年数については、建物本体の構造・用途に応じた法定耐用年数によることになります。たとえば鉄筋コンクリート造の店舗であれば39年、木造であれば22年といった具合です。設計費だけを切り出して別の耐用年数を適用することはできず、あくまで建物全体として一体で償却していきます。
なお、実務上よく問題になるのが賃借店舗への内装工事を伴うケース。この場合、他人所有の建物に対する造作として「建物」または「建物附属設備」に計上しますが、耐用年数は法定耐用年数ではなく、賃借期間や契約更新の実態を踏まえた合理的な見積耐用年数を用いることが認められています。賃借期間が短い場合には、実態に即した年数で早期に償却できる可能性がありますので、契約内容を確認したうえで慎重に判断することが重要です。
また、稀なケースではありますが、設計料を支払ったものの諸事情により建設自体が中止になってしまった場合は、建物の取得価額に算入することができません。この場合は繰延資産としての処理や、状況によっては損金処理の検討が必要になります。
店舗開業にあたっての費用は多岐にわたりますが、それぞれの費用の性質をきちんと見極め、適切な会計処理を行うことが、後々の税務調査においても重要になってきます。​​​​​​​​

春先になると駐車場の白線が気になりはじめる。冬の間に雪や凍結防止剤にさらされた路面では、区画線が薄れて車の誘導もままならない。ある会社の総務担当者も同じ悩みを抱えていた。業者に見積もりを依頼したら90万円。決して安くはないが、やらないわけにもいかない。工事は無事に終わり、きれいな白線が引かれた。ところが請求書を手にした経理担当者が首をかしげた。「これ、修繕費で良いのだろうか?」

この問いに答えるには、まず税法上の「修繕費」と「資本的支出」の違いを理解しなければならない。固定資産に支出した金額がそのどちらに当たるかで、税負担の時期が大きく変わるからだ。修繕費であれば支出した期に全額を損金に算入できる。一方、資本的支出と判断されれば資産計上のうえ減価償却を通じて少しずつ費用化することになる。キャッシュの動きは同じでも、当期の利益と税金に与える影響はまるで違う。

区分の原則は法人税基本通達7-8-2に示されている。固定資産の「通常の維持管理のため、又はき損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額」が修繕費であり、固定資産の価値を高めたり耐久性を増したりする部分は資本的支出となる(法人税法施行令第132条)。白線工事に当てはめれば、消えかかった既存の白線を引き直したのであれば原状回復であり修繕費、これまで白線のなかった箇所に新たに引いた新設であれば価値の付加として資本的支出が原則となる。新設が明らかな場合は、金額の大小にかかわらずこの原則から逃れることはできない。

ただし、実際の請求書には「駐車場ライン工事」とだけ書かれていることが多く、引き直しなのか新設なのか、修繕費か資本的支出かが明らかでないケースも少なくない。そうした「判断に迷う場合」のために通達が用意しているのが、法人税基本通達7-8-4の形式基準だ。柱書きには「資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額がある場合において」と明記されており、あくまで区分が判然としない場合にのみ適用できる。新設と明らかにわかっている場合には、この形式基準は使えない点に注意が必要だ。

形式基準の内容は二段階になっている。まず支出額が60万円未満であれば修繕費として損金経理できる。それを超える場合でも「その修理、改良等に係る固定資産の前期末における取得価額のおおむね10%相当額以下」であれば修繕費として処理できると定めている。

冒頭の事例に戻ろう。この会社の駐車場アスファルト舗装は前期末の帳簿価額が1,200万円だった。10%相当額は120万円になる。今回の支出90万円はこれを下回る。引き直しか新設か判断がつかない状況であれば、法基通7-8-4第二号(10%基準)に該当し、修繕費として全額損金算入することができる。仕訳は「修繕費900,000/未払金900,000」で完結だ。もっとも、引き直しの事実が明らかであれば、形式基準を持ち出すまでもなく法基通7-8-2の原則に基づいて修繕費と判断できる。

結局のところ、白線工事の税務判断は「引き直しか新設か」という事実認定に尽きる。引き直しと明らかであれば修繕費、新設と明らかであれば資本的支出(構築物・アスファルト敷、耐用年数10年)として減価償却、判断がつかない場合に初めて形式基準の出番となる。請求書の摘要、施工前後の写真、業者への確認記録をきちんと残しておくことが、修繕費処理の最も確実な根拠になる。請求書を受け取ったとき、まず「これは引き直しか、新設か」と自問する。その一手間が税務判断の精度を大きく変える。

リスクを見据えた総合的な相続設計(令和8年3月10日現在)

 

借入による賃貸アパート建設は、相続税評価を圧縮するうえで非常に有効な方法ですが、それは同時に財務・経営の両面で大きなリスクを伴います。令和8年現在の不動産市場では、空室率の地域格差や金利上昇基調が続いており、単純な「節税目的の建設」は極めて危険な判断となりかねません。真に有効な相続対策にするためには、キャッシュフローと市場リスクを継続的に管理する視点が不可欠です。

全額借入の最大のリスクは、収入変動です。空室が増えれば返済原資である賃料収入が減少し、自己資金から元利返済を補うことになります。金利上昇や大規模修繕による支出増も重なれば、黒字経営であってもキャッシュ不足に陥ることがあります。節税効果が大きいほど借入規模も大きくなるため、財務リスクとのバランスは常に背中合わせです。返済期間全体を見通し、余裕ある資金計画を立てておくことが前提となります。

このリスクを軽減する手段として近年多く採用されているのが「一括借上げ方式(サブリース契約)」です。これは管理会社がオーナーから物件を一括で借り上げ、入居者に転貸する仕組みで、オーナーは空室の有無にかかわらず一定の賃料を受け取れる点が最大のメリットです。安定した収入が見込めるため、返済計画を立てやすく、節税対策と財務管理を両立させやすい点は大きな利点です。また、入居者募集や管理業務を委託できるため、相続後に家族が賃貸事業を引き継ぐ際の負担を軽減できるという実務的な効果もあります。

しかし、一括借上げにも明確なデメリットがあります。まず、賃料水準は通常の相場より低く設定され、長期契約の途中で見直し(減額)条項が盛り込まれるケースが大半です。築年数が進むと10〜20%程度の下落を求められることも珍しくありません。また、借上げ期間満了後の再契約では、修繕・リフォームを条件にされる例も多く、予想外のコストが発生することもあります。契約形態によっては、実際の損害リスクをオーナーが負う内容になっている場合もあり、「空室保証=リスクゼロ」ではありません。契約前に、賃料改定条件・管理費・原状回復義務などを入念に確認することが重要です。

相続対策としての賃貸経営は、税務・財務・市場の三つを同時に見なければ成立しません。借入による評価圧縮、消費税の負担、所得税のバランスを総合的に試算し、長期的なキャッシュフローを確認することが不可欠です。実務上は、建物を個人名義で所有しつつ、運営を法人格の管理会社に委任する形が安定しています。所得分散や相続時の評価抑制にもつながり、一括借上げに頼りすぎない柔軟な運営体制を組むことが可能です。

相続税を下げることは目的ではなく手段にすぎません。重要なのは、家族全体がリスクを管理できる構造を築き、長期にわたって安定した資産運用を続けられる体制を設計することです。節税だけを追う時代は終わり、これからは持続可能な賃貸経営とリスク回避こそが、次世代へ財産を残すための本質的な戦略と言えるでしょう。

借入による相続税圧縮のメカニズム・・・

 

借入でアパートを建てると、どのような仕組みで相続税が減るのか。令和8年現在もこの質問は多く寄せられます。ポイントは「評価額の圧縮」と「債務控除の積み上げ」にあります。

例えば、建設費1億円の賃貸アパートをすべて借入で賄ったとします。建物の相続税評価額は、固定資産税評価額(建設費の50〜60%程度)を基礎に、さらに借家権割合30%を控除して計算するため、一般的には3,500万円前後まで下がります。一方で借入金1億円は全額が債務控除として差し引かれるため、差額の約6,500万円分が評価圧縮効果として働くことになります。ここに土地の貸家建付地評価と、小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等200㎡・評価減50%)を加えることで、トータルの減額効果は非常に大きくなります。

ただし、令和元年の改正により、相続開始前3年以内に開始した新規の貸付事業については小規模宅地特例が使えません。このルールは2026年時点でも継続しており、今から建設する場合、少なくとも3年の経過を確保することが節税計画の前提になります。相続発生時期が近い高齢の方にとっては、この3年ルールがリスク要因となる点に注意が必要です。

さらに、税務当局は近年、過度に節税目的に偏った借入スキームへの監視を強めています。経済的合理性が乏しいと判断される場合、評価減の否認リスクがあります。収益性や地域の需要を無視した無理な建設計画は「形式だけの節税」とみなされる可能性があるのです。

全額借入は適切に使えば非常に強力な相続税対策ですが、それは同時に高リスクの金融レバレッジでもあります。返済不能に陥れば家族財産全体を毀損する危険があり、節税と経営安定のバランスをいかに取るかがカギです。節税ありきではなく、実需を前提とした賃貸経営計画として位置づけることが、これからの時代における王道の考え方です。

見落とされがちなコストについて・・・

 

かつて賃貸マンションの建築では、消費税還付スキームが節税方法として注目を浴びた時期がありました。しかし令和2年の消費税法改正によってこの方法は完全に封じられ、令和8年現在もその取扱いは変わっていません。住宅賃貸をめぐる消費税の論点は今でも誤解が多い領域であり、制度の本質を理解しておくことが極めて重要です。

住宅の家賃収入は「消費税の非課税売上」に分類されます。つまり、賃料を受け取っても課税売上にはならず、建設費に含まれる消費税を仕入税額控除として控除することができません。現在の制度では、税抜取得価額が1,000万円以上の居住用賃貸建物は、建設にかかった消費税分を全額コストとして計上する扱いとなっています。たとえば建設費1億円の賃貸マンションなら、消費税1,000万円がそのまま損金化され、控除も還付も認められません。かつて流行した仮の課税売上を計上して還付を受ける手法は、すべて実務上排除されています。

さらに注意すべきは、既存事業を行う法人が新たに賃貸事業を追加する場合です。住居賃貸による非課税売上が伸びると、法人全体の「課税売上割合」が下がり、既存事業に関わる仕入税額控除の一部が制限されます。つまり、新しい事業を始めたことで本業の消費税控除が減ってしまうという“逆節税”の現象が起こるのです。税額控除の減少はキャッシュフローに直結するため、財務上も見逃せません。

また、個人名義で建設する場合も同様に還付が受けられず、消費税は完全にコスト化されます。課税・非課税の線引きが明確になった今、建物建設に関しては消費税の戻りを期待する考え方そのものが時代遅れです。

このように、現行制度では消費税が相続税・所得税とは全く違うロジックで動いています。賃貸事業を始める際には、相続税上の評価圧縮と合わせて、消費税がどの程度キャッシュフローを圧迫するかをシミュレーションしておく必要があります。特に建設費用が高額になりがちな都市部においては、消費税の控除不可が実質的に利回りを引き下げる要因になるため、見逃すと後で大きな負担となりかねません。税制が安定している今こそ、制度の基本設計を正しく理解し、現実的な経営判断を行うことが求められています。

法人名義のメリット・デメリットと出口の落とし穴・・・

 

法人で賃貸マンションを建てるスキームは、相続税評価を一時的に圧縮しつつ、将来の管理を法人で統合できるという利点があります。近年の税務環境では、個人と法人のいずれにも節税効果とリスクが明確化しており、2026年現在では法人の利用価値は「規模と時期」によって評価が分かれます。

まず土地と建物の関係から整理しましょう。個人が土地を所有し、その土地の上に法人が建物を建てて賃貸経営を行う場合、地代を取らない「使用貸借」では土地が自用地扱いとなり、評価減を受けられません。これを避けるため、「無償返還の届出書」を提出して地主と法人間で適正地代を設定すれば、評価額は自用地の80%となります。さらに、「特定同族会社事業用宅地等」の特例が適用され、400㎡まで80%評価減が認められるため、土地規模が大きい場合には有利に働きます。

ただし、法人で家賃収入を受け取れば、利益は法人の内部留保として積み上がります。非上場会社の株式は「純資産価額方式」で評価されるため、内部留保・現金・不動産の増加により、株式の相続税評価額が上昇していきます。借入金を返済すればするほど純資産額が増える構造であり、長期的には節税効果が次第に弱まっていくのが現実です。

さらに注意すべきは出口課税です。将来、法人が所有する賃貸マンションを売却する場合、法人には約34%の実効税率が適用されます。個人が所有している場合の長期譲渡所得税率20.315%との間には13%以上の差が生じます。加えて、法人を清算する際には「みなし配当課税」が生じ、内部留保を配分するときに再度所得税が課される可能性があります。

法人スキームのもう一つの課題は、得られる利益をどう分配するかです。役員報酬型にすれば所得税の累進課税負担が増え、配当型にすれば二重課税となります。つまり、最適な出口戦略を前提に構築しなければ、短期的な評価減の恩恵が長期的コストで打ち消されてしまうという構造です。

令和8年現在の環境では、法人スキームを選ぶ意義は「土地が広大である」「家族内で長期に事業承継を図りたい」「相続人間の権利関係を整理したい」といった明確な理由がある場合に限られます。それ以外のケースでは、個人名義を主体にしつつ、必要な部分だけを法人と連携させる「管理会社スキーム」のような中間的設計が最も現実的です。

個人名義と法人名義、どちらが有利なのか・・

 

自分の土地に賃貸マンションを建てる際、建物を個人名義にするか法人名義にするかという選択は、相続税対策の相談の中でも最も多いテーマの一つです。

 

令和8年現在の税制においても、どちらが絶対的に有利とは言い切れません。重要なのは、両者の仕組みと税務上の位置づけを正確に理解したうえで判断することです。

 

個人名義で建てる場合、土地は「貸家建付地」として評価されます。自用地の評価額から、借地権割合と借家権割合を掛け合わせた分が控除され、評価が圧縮されます。さらに建物は固定資産税評価額(建設費の50~60%程度)を基礎に借家権割合30%を差し引くため、概ね建設費の35%前後の評価額になることが多いです。ここに小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)を用いると、200㎡まで50%の評価減が可能となります。借入金は全額が債務控除の対象となるため、これらを組み合わせると個人名義のシンプルなスキームでも極めて大きな評価圧縮力が発揮されます。

 

一方、法人名義で建てる場合は、土地を個人が所有したまま法人に貸す形が一般的です。このとき注意しなければならないのは「使用貸借(地代なし)」です。

 

地代を取らないと土地は自用地評価のままになり、節税効果が期待できません。これを防ぐためには「無償返還の届出書」を提出し、適正な地代を設定する必要があります。そうすれば、土地は自用地の80%評価となり、特定同族会社事業用宅地等の特例(400㎡まで80%減)を活用することができます。土地が広いケースではこの制度が有効となります。

 

しかし、法人スキームでは家賃収入が法人に蓄積されるため、内部留保が増えるほど相続評価上の株式価額が上昇していきます。不動産賃貸業は「類似業種比準方式」が使いにくく、純資産価額方式になりやすいことから、この影響は無視できません。また、将来の売却・清算時には法人税実効税率が34%前後であり、長期譲渡所得税率20.315%の個人よりも大きな負担になります。

 

したがって、個人名義は土地が中小規模で相続税圧縮を重視する人に有利であり、法人名義は大規模地や事業承継を見据えた長期管理に向きます。単なる税率比較ではなく、相続税・所得税・消費税・出口コストを横断的に試算し、人生設計と一致するかを慎重に検証することが求められます。