東方Project 幻想入り小説

東方Project 幻想入り小説

ブログの説明を入力します。

Amebaでブログを始めよう!
魔理沙は度肝を抜かれていた。
よもや、新聞の妖怪がこうして現れるとは思っても見なかったからである。

孫市は青いケツに跨がりながら、悠然と魔理沙を見下ろしていた。

青いケツは微動だにしていない。
孫市を乗せるのは二度目だったが、実に落ち着いていた。


「これで分かっただろ。わしが賀茂建角身命の化身らしい。」


他人事のように孫市は言った。
たかが、喧嘩一つに鬼と酒を飲んだだけで賀茂建角身命の化身と冠をつけられるのがどうにも実感できなかったからである。

そもそも賀茂建角身命とは八咫烏に化身して神武天皇を先導したと言い伝えられている立派な神様である。
知恵の象徴として雑賀衆は旗印に使用していただけで、孫市が名乗っても良い名では決してない。
しかも、妖怪として悪名が広がれば雑賀衆どころか賀茂建角身命にも泥を塗ることになる。


だが、魔理沙は違った。
巨大な大男が化け物みたいな馬に跨がり、これまた大きな瓢と煙管をぶら下げ、地獄の幟を掲げているのだ。
悪魔か地獄の使者か、はたまた神の化身としか見えなかった。


「・・・そりゃあ、妖怪達が夜に出歩かないわけだ」


魔理沙が孫市の二つ名を知ったのは今持っている天狗の新聞であったが、実は妖怪達の異変には気づいていたのだった。
夜行性の妖怪が夜に出歩かなくなったのである。
魔理沙が夜に帰るときは見かけた影達が最近ぱったりと見なくなってしまったのだ。

口をぽかんと開けている魔理沙に孫市は青いケツを一歩前に出させた。


「わしは人間だ。こいつもただの馬だと思うが、それでも良ければ決闘を受けたいのだが、どうかね?」


孫市と青いケツは確かに大きい。だが、妖怪のように術は使えない。
魔理沙の期待に添えないかもしれないと思い、出た言葉であった。


「あんたが良いなら私は全然構わないぜ」


魔理沙は快く決闘をする事にした。
妖怪よりも妖怪に間違われる人間の方が戦って面白いと思ったからである。


「私が勝ったら、天狗にこの異変は私が解決したと言わせてもらうぜ」


異変解決でいつもライバルになる霊夢のやる気が無いのは千載一遇のチャンスである。
魔理沙の条件に孫市は頷いた。


「じゃあ、わしが勝ったらさっきの幸若を大勢の前で舞ってもらおうかな」

「さっきのって、この鹿毛を・・・ってやつか?」

「この鹿毛と申すは、赤い羽織に八咫烏、喧嘩煙管に化け瓢、高いちょん髷旗幟、賀茂建角身命の化身が馬にて候」


孫市は青いケツの上で拍子をとりながら手振りを付け、野太い声で見事に歌った。
先ほどの新聞を見て咄嗟に思いついたらしい。


「こういう風にきちんと舞ってもらおう。さあ、この条件飲んでくれるかね」


魔理沙は一瞬躊躇したが、そこは魔理沙である。
すぐに、にかっと笑って。


「・・・良いよ、その条件飲むぜ」

「決まりだな。立会人も今の話は聞いたな?」

孫市が中に向かって喚くと、床を叩く音だけが、返ってきた。どうやら聞いたという変事らしい。

「よし、じゃあ始めるか。・・・っと、その前にスペルカードのルールを説明しなくちゃいけないか」


魔理沙は簡潔に決闘の説明をしてくれた。
要は、互いに札を宣言し合い、弾幕と言うやつで相手を負かせば勝ちらしい。


「・・・・弾幕と言うのは鉄砲なのか?」


鉄砲と言う言葉に、青いケツはビクッと反応した。
だが、魔理沙は首を横に振った。


「違う違う。鉄砲ではないんだ。まあ、一回見れば弾幕が何なのか分かると思うぜ」

「良かったな、青いケツ。・・・では、始めるか」

「おう。望むところだ」


両者は境内の橋と橋に離れた。
魔理沙は箒に跨がり飛ぶ準備をし、孫市は手頃な小石を懐に入れていた。


「用意はいいぞ」


孫市が大きく右手を上げ、声をかけた。


「じゃあ、行くぜ。霊夢!境内を決闘場所にさせてもらうぜ!」


魔理沙の声に床を三回叩く音が返ってきた。
「良いけど。壊したらただじゃ済ませないわよ」
そう言いたかった様だが、魔理沙が理解しているかどうかは不明である。


「サンキュー霊夢!さ、先手必勝!こっちから行くぜ」


魔理沙はそう言うやいなや、加速をつけて孫市たちに向かって突進してきた。
孫市たちの脇をかすめ、空に躍り出た魔理沙は懐から一枚のカードを取り出した。


「良く見ておきな!これが弾幕だぜ!魔符『スターダスト』!!」


魔理沙がスペルカードを持って宣言した途端、孫市たちの頭上から流星が降り注いできた。


(これは一体何だ!?)


孫市は訳が分からないまま、流星の雨の中を走駆した。

弾幕から間合いを取り、孫市は振り向き様に小石を一個放り投げた。
小石は流星の一つに当たり、あえなく落下した。


(なるほど、これは面白い遊びだ)


近くでは分からなかったが、距離をとって孫市は弾幕と言うものを理解した。

弾になる星はデタラメに降ってくるのではなく、何らかの法則に沿って隊形を組んで降っている。
避けるための退路もきちんと確保されていた。

やろうと思えば、間断の無い不規則な弾幕も出来るはずである。そっちの方が被弾も期待できるはずだ。なぜ、そうしないのか。

それでは、面白くないし。なにより美しくないからである。
孫市はその意図を魔理沙の弾幕から垣間見たのであった。


(詩の一つでも考えてみたくなるな)


あまりに美しい光景に、孫市はそんなことに頭を巡らせていた。

するとすかさず下からツッコミが入る。
余計なことを考えるな、そう言いたいらしい。


「分かっているよ。青いケツ」


孫市は青いケツの首をぽんと叩いた。


「詩は終わった後でもいい。今はこの遊びを存分に楽しもうか!」


青いケツはそうこなくては、と言うように嘶きをして、弾幕に向かって突進を始めた。

弾が耳の横を掠める音や、身体に少し当たる感覚がたまらなく気持ち良い。
一歩間違えれば終わり。その危うさが孫市には心地よかった。


「この遊びは楽しいな!」


思わず叫んだ孫市に魔理沙も頷く。


「喜んでもらえて嬉しいよ。だけど、こっからが本番だぜ」


魔理沙は弾幕を放っていた右手を懐に突っ込み、再びスペルカードを取り出し、高々と掲げた。


「魔符『スターダストレヴァリエ』!!」


柔らかかった孫市の顔が途端にいくさ人の顔になった。
次の弾幕は先ほどに比べて分厚い。弾の量が段違いで、さらに追尾してくる弾まである。
身体の大きいな二人には手強い相手であった。

たが、孫市は冷静であった。
鬣を操り大胆かつ慎重に弾の隙間を縫って行く。
そして、弾の隙間から魔理沙の姿を認めると、迷わずに馬手の小石をぶん投げた。


「おっと」


小石は弾に当たることなく飛んでいったが、魔理沙の頬を掠めただけであった。


(遠すぎるか)


激しい弾幕の海を右往左往しながら孫市は腹の中で舌打ちをした。ただ、闇雲に投げるだけでは十に一つも当たるはずがない。

相手は空を飛んでいるのだ。
避ける間もなく当てるには、至近距離から避ける方法を予測して投げるか、奇をてらい、隙を見て当てるしかない。

だが、前者は無理があった。
孫市と青いケツの図体の大きさが裏目に出てしまい、普通なら通れる隙間も当たってしまうからだ。

今は自分の目と勘を頼りに避けているが、これ以上近づくとそれすら当てには出来ない。
つまり、後者しか勝つ方法は無かった。

孫市は懐の石の数を確認した。
正確に狙える形の整ったものは一個しかない。
しかし、それで十分だ。二回も好機を失っている。戦でなら死んでいてもおかしくないはずだ。

孫市は目も眩む弾幕の中を見つめながら、思考を巡らせ、ある作戦を思いついた。


(なんてみっともない作戦なんだろう)


首を傾け、器用に弾を避けながら孫市は思いついた作戦の酷さに苦笑した。
だが、勝つために手段を選ばないのがいくさ人ではないか。

孫市は腹を決め、大声で魔理沙に向かって喚いた。


「わしだけが楽しんではお前に悪い。鉄砲を使ってもよろしいか!」


魔理沙は孫市が言っている意味が分からなかった。
孫市の手にはそんな物は握られていなかったからだ。


「私は一向に構わないぜ。撃つ役だけじゃつまらないしな」


魔理沙は弾幕ごっこの醍醐味は避けることだと思っている。
一目見て無理だと思う弾幕を潜り抜けた後は高い山を登った後のような達成感が得られるからだ。


「わかった」


孫市はそう言うなり、青いケツに後ろを向かせ、そして走らせた。

やがて、境内の端まで来ると再び向き直った。弾が孫市たち目掛けてまだ飛んでくる。
ちらりと上を見てから、二匹の獣は吼えた。

魔理沙が目を瞠るような恐ろしい早さであった。
孫市は思いっきり青いケツの馬腹を蹴り、叫んだ。


「跳べ!!」


巨体は弾幕の雨の中を跳躍した。

青いケツが神社の母屋に着地すると孫市は青いケツの背中に立ち、懐から懐紙を一枚取り出した。
まさかスペルカードのつもりだろうか。


「行くぞ」


にぃっと不適な笑みを浮かべて孫市は言うと青いケツは突然、後ろ足を跳ね上げ、孫市を空高く放り投げた。

あっけに取られる魔理沙を見下ろしながら、孫市は奇策に打って出た。


便符雑賀漢の小便鉄砲』!!」


孫市は空中で下半身を露出させ、小便をぶちまけた。これが奇策であった。

こんな決闘の中で隆々とそそり立つ孫市の一物。常人の並みではない勢いで放たれる小便は正に鉄砲と言えた。

一応断っておくが、この小便はあくまで『脅し』である。本命はあの小石のためこの小便は魔理沙に当ててはいない。
しかし、神社への被害は未知数。


孫市は小便が終わると呆然とする魔理沙に落下しながら狙いを定め、本命を放った。
だが、予想外のことが起きた。


「・・・・!!」


小石は魔理沙の額目掛けて放ったはずだった。
だが、小石は無情にも下に落ちていった。


「ふう・・・今のは危なかったぜ」


魔理沙は間一髪、我を取り戻し、孫市の渾身の一撃を避けたのだった。
異変解決に身を賭けた少女もまた強い心を持っていたのだ。


「・・・悪いが、この勝負決めさせてもらうぜ」


魔理沙は懐からスペルカードを放り投げ、八卦の形をした物を孫市に向かって構えた。

孫市は魔理沙に向かって落下しつつ、死を意識した。

八卦の形をした物に光が集まってくる。
やがてそれが孫市の身体ほどの大きさになった時に、魔理沙は叫んだ。


「恋符『マスタースパー」


魔理沙が正にマスタースパークを放とうした時であった。
孫市が突如、持っていた火縄銃の銃床で魔理沙の腹を突いたのだ。

孫市がいつの間にか手にしていたのは八咫烏の装飾がされた火縄銃であった。
そう、孫市愛用の火縄銃「愛山護法」である。

孫市は訳の分からない内に火縄銃を出し、魔理沙に攻撃を当てることが出来たのである。当の魔理沙は孫市の強烈な銃床の一撃で意識を失い、落下した。

孫市は一瞬意識が飛んでいた。
ふと気がつくと、手にはなぜか愛山護法を持ち、気絶した魔理沙と一緒に落下していたのだ。


(まずい!)


二人は神社の屋根の上より高い場所から落下していたのだ。
孫市はこの程度の高さなら大丈夫だが、気絶している魔理沙はひとたまりも無い。

おまけにさっきの一撃で、魔理沙との距離がだいぶ離れてしまっていた。
もう孫市が、抱えることは不可能だった。


「青いケツ!!」


孫市の声に屋根の上の青いケツはひらりと下に降り、鼻を鳴らした。
任せておけ、とでも言っているようだった。


「頼むぞ!・・ん?」


孫市の目線の先に、ミニ八卦炉があった。
ミニ八卦炉はくるくる回転しながら地面を目指している。

孫市は何を思ったのか愛山護法をミニ八卦炉目掛けてぶん投げた。そして、地面に着地した。
魔理沙は青いケツが背中で受け止めていた。

魔理沙はその衝撃で、ようやく意識を取り戻した。
中っ腹で起き上がり周りを見渡している。
どうしてこうなったか分からないようだ。


「・・・あれ?私はどうしてここにいるんだ?」

「・・・良く分からないが、わしの勝ちらしい」


孫市は仏頂面で答えた。
孫市も勝つ瞬間は意識が無かったため、実感など感じるはずも無かった。


「・・・・いや。らしいじゃない。私の負けだぜ」


魔理沙は気絶する瞬間を思い出したのだ。孫市の右手が光り、火縄銃が現れるのを。その火縄銃を銃口の方ではなく持ち替えて銃床の方で突き飛ばされたのも覚えていた。

魔理沙は再び寝転がった。
弾幕も放てず、空も飛べない人間に負けた。だが、不思議と悔しくは無かった。

孫市はそんな魔理沙の姿を見て、思い出したかのように神社の屋根に上った。
そして、ある物を手に降りてきた。


「落とし物だ」


寝ている魔理沙に向かって孫市が投げたのはあのミニ八卦炉だった。


「あ!」


がばっと魔理沙は起き上がり、ミニ八卦炉を受け取った。
目立った傷などは無かった。当然である、ミニ八卦炉はとても堅い素材で出来ており傷などつくはずがない。


「大事な物なんだろう。次は落とすんじゃないぞ」


それだけ言って、孫市は決闘の後始末を始めた。
魔理沙は茫然自失としている。

孫市が愛山護法をミニ八卦炉に投げたのは掠めて軌道を変えさせるためだったのである。
あのまま地面に激突していたのなら、ミニ八卦炉が壊れると思ったのだろう。

自身を追い詰め死を意識させるような危険な武器であろうと孫市には関係なかった。
ただ、遊びに付き合ってくれた魔理沙の物が傷付かないように救っただけなのだ。


「異変ね」


神社の中から現れたのは霊夢であった。
手には先ほどまで孫市が握りしめていた愛山護法を持っている。


「ビックリしたわよ。寝ていたら枕元にこんな物騒なものが降ってきたんだから」


霊夢はそう言いながら、愛山護法を天に放り投げた。愛山護法は光に包まれて塵となって消えていった。


「消えた・・・?」

魔理沙はその光景を見て不思議に思うのは必然であった。

「・・・さっきの鉄砲は鈴木さんの能力みたいよ」


能力とは幻想郷に住まう者達が身に付ける力のような物だ。どれも自分はこんな能力を持っていると自己申告するらしい。


「・・・能力って、どんなだよ」

「・・・『天に愛される程度の能力』」

天に愛されるとは?
そのままの意味なのだろうか?
魔理沙は今まで色んな能力を持つ者を見てきたがその名の通りな能力じゃないものもいた。

「どんな能力なんだよ、それ」

「・・知らないわよ。私の勘で、そう思えただけよ」

「屋根に穴が空いておるぞ!!青いケツ!そこの木の板を持って来い!」


孫市が何やら屋根の上で喚いている。
二人が見上げると、孫市が先ほど愛山護法で開けた屋根の穴を修繕しようと試みていた。
魔理沙が気絶する直前に見た男とはまるで別人の顔であった。


「そう言えば魔理沙」

「・・・何だよ」

「・・・貴方、本当にさっきの歌を歌うの?」


魔理沙は、はっとした。
決闘の条件をすっかり忘れていたのだ。
あんな罰ゲームなどやりたいわけが無い。

逃げようとしたが、肝心の箒がない。
魔理沙があたふたしていると上から大声が聞こえてきた。


「おーい!青いケツ!わしが言ったのは木の板だ!そんな折れた箒じゃないぞー!」

青いケツは折れた箒を食わえていた。
落ちた時の衝撃で折れたのだろう、青いケツが食わえた力で修復不可能な位に折れた。

「・・・・・・」

魔理沙の顔が音を立てて色冷めた。

「・・・一応、同情するわ」


魔理沙の肩に手を置いて霊夢が耳元で呟いた。

屋根な修理が終わると魔理沙の罰ゲームが滞りなく妖怪の山で行われた。

人里を魔理沙が断固拒否したからである、霊夢の口添えがあったのもあり、人里ではなく、妖怪の山に場所が選ばれた。

孫市は自棄になって踊る魔理沙の後ろで、手を叩きながら魔理沙を褒め上げた。
そして、自分も馬から降り、躍りに参加した。

後に、「風流異変」と呼ばれる鈴木重秀こと、雑賀孫市の幻想郷での傾いた生活がこの日を皮切りに始まったのである。