どん底(岩波文庫):マクシム・ゴーリキー | 夜の旅と朝の夢

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【ロシア文学の深みを覗く】
第33回:『どん底』
どん底 (岩波文庫)/岩波書店

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今回紹介する本は、ゴーリキー(1868-1936)の『どん底』です。本書では、作者の名前が「ゴーリキイ」と表記されていますが、面倒なので「ゴーリキー」に統一します。

ゴーリキーは、1892年に短篇小説でデビューした後、比較的順調に文学的なキャリアを積み上げていき、ロシアのみならず世界的にも名が知れ渡ります。

その一方で革命運動にも参加し、レーリンが率いるボリシェビキに入るなど社会革命家としても行動していきます。1917年のロシア革命後は、ボリシェビキやレーニンなどとは袂を分かち、スターリンによる粛清の時代には自宅に軟禁されるようにまでなってしまい、1936年に没します。

文学作品としては、小説と戯曲を主に執筆していました。本書の『どん底』は戯曲としての代表作で、1902年の作品です。

以前チェーホフを紹介したときにチェーホフの特徴として筋を持たないことを挙げました。本書『どん底』は、そんなチェーホフの影響を受けて書かれた戯曲で、要するに筋をほとんど持ちません。

本書は、貸部屋として提供されている地下室で暮らしている、社会の「どん底」の人々を写実的に描いた群像劇です。

この人々は、いわゆるルンペンプロレタリアートと言われているものです。ルンペンプロレタリアートというのは、革命意識のない極貧層のプロレタリアートで、マルクス主義では、クズ扱いを受けています。

本書でも、病気で余命幾ばくもない妻を労ろうとすらしない夫や、夫を他の人に殺させようとする女性など、お世辞にもモラルを有しているとは言えない人ばかり。

しかし、本書では、そんな人を単に見放してはいません。彼らに宿る悲哀や絶望感を描くことで、彼らもまた見捨てるべきではない圧政に苦しむ人々であることを主張しているように思えます。

次回もゴーリキーの予定です。