[第1巻 メロドラマ] パミラ、あるいは淑徳の報い (英国十八世紀文学叢書)/研究社
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あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。
さて今回から飽きるまでの間、テーマを決めてそれに沿って読んでいこうかなと思います。といってもテーマは恣意的に選びますし、そのテーマにあった本を網羅的に読むわけでもないので、実際のところはこれまでとあまり変わらないかと思います。あと、テーマとは関係ない本もテーマとテーマの間に紹介できればと思っています。
最初のテーマはかわいく【児童文学を読む】にしようかとも思いましたが、せっかくの年末年始の休みなので、厚い本をゆっくり読んでみたいと思い、予定を急遽変更しまして、最初のテーマは【18世紀イギリス文学を読む】にします。ということで、
【18世紀イギリス文学を読む】
第1回『パミラ、あるいは淑徳の報い』
本書は、研究社から刊行中の『英国十八世紀文学叢書』の一冊です。おお、なんと今回のテーマにあった叢書なんだ! って逆ですね。この叢書からテーマを思いつきました。
『英国十八世紀文学叢書』の構成は以下のとおり、★は既刊を示します。
第1巻『パミラ、あるいは淑徳の報い』(サミュエル・リチャードソン)★
第2巻『ガリヴァー旅行記』(ジョナサン・スウィフト)
第3巻『ペストの記憶』(ダニエル・デフォー)
第4巻『オトラント城/崇高と美の起源(ホレス・ウォルポール/エドマンド・バーク)★
第5巻『アフリカ人、イクイアーノの生涯の興味深い物語』(オラウダ・イクイアーノ)★
第6巻『エロチカ・アンソロジー』
興味深い本が並んでいますが、『ガリヴァー旅行記』と『ペストの記憶』は、文庫本で簡単に手に入るので、この叢書で購入する意味があるかどうか・・・まあ、新訳で出すそうですけどね。
ちょっと前置きが長くなりましたが、『パミラ、あるいは淑徳の報い』の話に入りましょう。
作者のサミュエル・リチャードソン(1689‐1761)は、イギリスの小説家で近代小説の父なんて呼ばれたりもします。そんなリチャードソンのデビュー作にして代表作、それが1740年に出版された本書『パミラ、あるいは淑徳の報い』です。
本書は、パミラという女性を書き手とする書簡体小説の体裁をとっています。書簡体小説といっても途中から日記形式になるのですが、手紙の代用品としての日記ですので、広い意味では書簡体小説といっていいと思います。
さて主人公のパミラは、貧しい家庭に生まれた16歳の美貌な女性。裕福な未亡人のお世話係りとして働いていた。
その未亡人が亡くなり、本来だったら解雇されるところだが、未亡人の息子である主人Bの好意によりそのまま家のメイドとして働くことができることになる。
しかし、Bの好意には裏があり、パミラの貞操を狙っていたのだった。Bは妾としてパミラを囲おうとするが、パミラは貞淑を守り通そうとする。
あの手この手でパミラを陥落させようとするBであったが、パミラは貞淑を守り通すことを至上命令として断固拒否、妾になるくらいだったら実家で貧しい暮らしをしたいとBに告げる。
Bはパミラの要求をのんだと見せかけて、召使にパミラ実家へ馬車でおくらせるが、召使は主人の命令でパミラをそのまま別宅に連れ去り監禁してしまう。パミラは貞淑を守ることができるのか、Bはなぜそれほどまでにパミラに執着するのか・・・
とまあ、最初の方はそんなストーリーです。全体にわたって道徳や淑徳の効用と貴さを説く話なのですが、パミラとBの駆け引きなどが面白いですね。
あと、作者はパミラを心が清らかな女性として描こうとしていて、実際、淑徳はあるのですが、それ以外では結構ぞんざいで歯に衣を着せぬ物言いをしているところが面白い。
例えば、「ご主人さまのところへ来る前は、宿屋の主人の家政婦をしていたんだから。そういう人たちって、本当に厚かましいのよね(P165)」とか、「あの意地悪なケダモノ女(P231)」とか、「紳士のお屋敷の家政婦というよりは、ロンドンの売春婦みたいな話し方ね(P275)」とか。最後の言葉なんて本人に向かって実際言っちゃうからすごい(笑
とまあ、魅力の多い小説ですが、解説などをいれて約800頁という厚さや、今の小説では考えられないほど、ゆったりと進む展開など、ちょっと気軽には読めないかもしれませんね。でも、訳文は非常に読みやすいですし、18世紀イギリス文学の代表作ですので、興味が出た方は是非読んでみてください。