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今回紹介する本は、ホルヘ・ルイス ボルヘス(1899-1986)の『エバリスト・カリエゴ』です。
作者のボルヘスは、アルゼンチンの詩人、小説家で、ラテンアメリカ文学ブームを牽引したガルシア=マルケス(1928-)などと比べるとやや世代的には少し上になりますが、熱烈なファンも多い20世紀を代表する作家の一人です。
かくいう私も、一時期かなりハマっていまして、少なくとも邦訳のある作品はほとんど全て読んでいます。というか、おそらく本書で全部読んだことになると思います。
ボルヘス自身は、自分のことを詩人として認識していた節がありますが、少なくとも日本で人気のあるのは短編小説でしょう。彼の短編小説は形而上学的な遊戯に満ちた難解なものですが、少ない文章に多大な情報を積み込む独特な文体や、人を形而上学的な問題へと啓発するような凄味があります。その辺りが読む人を魅了するのですが、その一方で実人生や政治的な世界に背を向けている感があり、批判も受けています。
個人的な意見を言えば、ボルヘスの最良の作品は、形而上学的な趣味が実人生と触れ合う、その稀な瞬間に生まれていると思います。
そういう観点でみると、ボルヘスの最も素晴らしい本は、恐らく『アトラス』という旅行記でしょう。
アトラス―迷宮のボルヘス (^Etre・エートル叢書)/現代思潮新社
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『アトラス』は写真とエッセイ的な文章からなる薄い本ですが、実際は散文詩集といってもいい内容で、彼の形而上学的趣味が無味乾燥したものではなく、人に感動を与えるものであることを教えてくれます。
アトラスの旅の最後は、なんと出雲大社。ボルヘスによれば、そこで人類は俳句のおかげで救われるのです。
さて本書はそんなボルヘスの最初期の作品(後年、追加された章もあります)で、隣人でもあった夭折の詩人エバリスト・カリエゴの伝記です。
しかしそこはボルヘス、普通の伝記ではありません。最初の1章から、ブエノスアイレスのパレルモという地区の話から始まり、脱線はお手の物、追加された章にいたっては、カリエゴはほとんど無視されてしまう。カリエゴの伝記というより、ブエノスアイレス、もっと言えば、パレルモの風変わりなクロニクルといった趣です。それも最後まで読むと分かることで、読んでいる途中で、何の本なのか分からなくなることもしばしば。人を幻惑するボルヘスは既に誕生しているのだ。
とはいえ、後年の作品に比べると、ややこなれていない感もあるので、ボルヘス初心者にはおすすめしづらいところもあります。しかし、ファンならば読むべき一冊ですし、かえってこれくらいが初心者にもちょうどいいのかもしれません。
ということで、興味がある方は是非読んでみてください。