瞳孔の中(松籟社):シギズムンド・クルジジャノフスキイ | 夜の旅と朝の夢

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瞳孔の中 クルジジャノフスキイ作品集/松籟社

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今回は、ロシアの小説家シギズムンド・クルジジャノフスキイ(1887-1950)の短編集『瞳孔の中』を紹介します。

誰でもこの言葉に弱いなぁと思うことってあるのではないでしょうか。僕は「復刊」という言葉に弱くて、復刊するくらいなんだから面白いんじゃないかと思うと、少なくとも立ち読みしちゃう。

でも一番弱いのは、「再発見」とか「忘れられていた作家」とかいう言葉です。こういう言葉が付く作家は、時代を先取りし過ぎていたことが多く、今読んでも刺激的なものが多いんですよ。だから、そんなフレーズを見つけたら、まあ大体は買っちゃいますね(笑)

ということでもうお分かりですね。本書の作者クルジジャノフスキイはそういった再発見された人なんです。いや、ほんとはよく知らないんですが、本書の帯にそう書いてあります(笑)

さて本書には、「クヴァドラトゥリン」「しおり」「瞳孔の中」「支線」「噛めない肘」の5篇が収録されています。

最初の「クヴァドラトゥリン」は、部屋を広くする薬であるクヴァドラトゥリンを壁に塗るというSF的な作品。実際に部屋が広くなったところまでは良かったのですが、広くなり続けるという弊害が・・・

「しおり」は、「望んでいるんですよ、物語について物語ることを(P49)」という言葉が出てくるメタフィクション。ラストを読者に投げたようなショートストーリーを大枠の中に並べたフレームストーリー(枠物語)の構成をとっていいます。僕は好きですが万人受けするかどうかはビミョー。

「瞳孔の中」は、恋人の瞳孔の中に住み着いた小人のお話。幻想的な話かと思いきや、存在論的なテーマが主軸を占めるやや難しい作品。

「支線」は、電車の中で寝てしまった男の夢を描いたもの。「『現実とは』彼(哲学者パスカルのこと)は断言した―『一貫性があるものだ。一方、夢はたよりなく変わりやすい。(以下省略)』(P164)」というわけで、本作も、たよりなく変わりやすいのだが・・・

「噛めない肘」は、噛めない肘を噛もうとする狂人が社会現象を巻き起こしていくというもので、どこかカフカの「断食芸人」を思い出させます。物語としては一番面白いかも。

といった感じの渋いラインナップですね。大傑作ではないけれど、脳を刺激する面白い話が多く、1920年~1940年くらいに書かれたことを考えると、時代を先取りしていることには間違いないでしょう。評価が分かれそうな短編もありますが、興味ある方は是非。