ビアンカ・オーバースタディ(星海社FICTIONS):筒井康隆 | 夜の旅と朝の夢

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ビアンカ・オーバースタディ (星海社FICTIONS)/講談社

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今回紹介する本は、「筒井康隆、ライトノベル始めました。」というキャッチフレーズで今注目(?)の『ビアンカ・オーバースタディ』です。 

筒井康隆は、今さら説明する必要もない有名な小説家ですよね。熱狂的なファンがいまして、そのような方は「ツツイスト」と呼ばれています。そして、何を隠そう私は「ツツイスト」なのです。といっても今はあまり読んでいないのですが、中学から高校にかけてはそれはもう熱烈でしたね。我が青春ですよ。ダカラコンナニヒネクレタニンゲンニナッテシマッタノダ。

まあ、それはさておき、ライトノベル(以下、ラノベ)です。

ラノベは今や文芸の一ジャンルとして定着していますね。一昔前に「ジュブナイル」とか「ヤングアダルト」などと呼ばれていたティーンズ向けの小説に、アニメ調の表紙と挿絵を加えたもの、という感じでしょうか。

私個人のことを言えば、「ジュブナイル」や「ヤングアダルト」は少し読んでいましたが、ラノベついてはほとんど門外漢。記憶が正しければ、本書以前に読んだことのあるラノベは上遠野浩平の「ブギーポップは笑わない」の一冊のみ。ということで以下の感想はラノベ初心者によるものだということを考慮して読んでみてください。

さて、可愛い女の子が描かれた表紙をめくると目次が見える。
第一章 哀しみのスペルマ
第二章 喜びのスペルマ
第三章 怒りのスペルマ
第四章 愉しきスペルマ
第五章 戦闘のスペルマ
これはひどい。

主人公のビアンカ北町は、学校で一番可愛い高校2年生。短いスカートに集まる男子生徒の視線を浴びながら、放課後に向かうは、生物学実験室。ビアンカは、部員2人の生物研究部に所属し、ウニの受精の様子を顕微鏡で毎日観察するぶっ飛んだ女の子だった。だがそんなぬる~い毎日ではもはや足りない。人間の精子を観察してみたい。人間の精子が必要だ!

そこで白羽の矢が立ったのは、生物学実験室に入るビアンカをいつも盗み見ていた文芸部所属の美少年塩崎哲也。塩崎哲也を理科実験室に呼び込んだビアンカは、精子を採取するために、射精の手助け(端的に言えば、テコキ)をしてあげるのだった。

エロ本か? エロ本だ。いやエロ本の域は超えている。なぜならば、そう筒井康隆だから。

その後、高校で一番美しいと言われる沼田耀子、シュワちゃんに似ている生物研究部顧問の工藤先生、そしてなんと未来人などなど、かなりご都合主義的な登場人物たちが現われて、人間と蛙の交配などあぶなーい感じで物語は進んでいくのだった。

ラノベ初心者の私には断言できませんが、恐らくラノベファンより、筒井ファンの方に受けが良い作品でしょう。筒井自身による自己パロディ的な要素も多いですし。例えば、学園モノ+未来人は『時をかける少女』、同じ文章の反復は『ダンシング・ ヴァニティ』、異生物間の交配や巨大カマキリは『虚構船団』など、読んでいて元ネタが浮かびます。ツツイストであれば、その辺も込みで面白いわけですが、果たして筒井康隆を読んでいない人、ましてはラノベしか読まないような人がその辺りをどのように受け止めるのかは未知数ですね。

あと、作者曰く本書は通常のラノベとも読めるしメタラノベとも読めるとのこと。一見すると、メタラノベ的な要素は最後の方に凝縮されていている感じがしますが、実際にはビアンカのぶっ飛んだ性格やテキトー感一杯のご都合主義的展開自体がメタラノベなのでしょう。ラノベ初心者の私には断言できませんが。

最後の方のメタラノベ的な要素についても書きたいことがあるのですが、ネタバレになりそうなので割愛。内容がアレなんでおススメはしませんし、文学的でもないと思いますが、個人的には面白かったです。

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