十蘭錬金術 (河出文庫)/河出書房新社
¥798
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今回紹介する本は、河出文庫の久生十蘭選集『十蘭錬金術』です。この選集は、現時点で5巻出版されていますが、本書は今のところの最新刊にあたります。
十蘭の魅力としては、対象を冷静に観察しているような硬質な文体と、場面が目まぐるしく変化するストーリー展開が挙げられると思います。そして、この二つが相俟って生まれる独特なスピード感。このスピード感に載せられたまま、冒頭からは予想もつかないところまで連れていかれ、くどくどとした説明のない思い切りの良いラストシーンで唸らされることがよくあります。
本書に収録されている「勝負」と題された短篇は、そんな十蘭の魅力を余すところなく伝えています。
「勝負」の主要登場人物は、高須と、その妻である四季子、そして、高須の友人有本と、語り手の四人。太平洋戦争前夜、パリで暮らす彼らにも軍靴の音が聞こえてきます。このまま戦争ともなれば、日本に帰って兵役につかなければならない。不安と戸惑いを隠しきれない高須と、来るべき戦争を受け入れている有本。そんな高須と有本にはある因縁が・・・
戦争と因縁は高須と有本をどこまで押し流していくのか? そしてその結末は? とまあそんな感じの話なんですが、本選集の中でも出色の出来栄えだと思います。
あと本書の特徴としては、ルポタージュ的な作品が多いことが挙げられるでしょうか。南極の奥地に向かう人々を描いた「南極記」、海難事件を描いた「海と人間の闘い」など、エッセイとも小説とも読める独特な作品が収められています。
その他に、ユーモア溢れる「犂(カラスキー)氏の友情」や、時代物「公用方秘録二件」などを加えて、全10作品。今回も安定した面白さでした。
☆河出文庫の久生十蘭選集のリスト☆
1.久生十蘭ジュラネスク(ブログ記事なし)
2.十蘭万華鏡
3.パノラマニア十蘭
4.十蘭レトリカ