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う、う、う、う、う、う、う、ぐう、ぐうぐ、ぐうう! おお、おれを見てくれ、おれは死にそうだ。
いえ、私のことではなく、本書の冒頭です。この不気味な唸り声とともに始まる小説のタイトルは『犬の心臓』、作者はミハイル・アファナーシエヴィチ・ブルガーコフ(1891-1940)、帝政ロシアに生まれ、ソヴィエト連邦の言論弾圧に堪えながら生きた、ウクライナ出身の小説家、劇作家です。
ブルガーコフの作品には、反革命的なものが多く、生前、ほとんど作品の出版・上演ができませんでした。ブルガーコフの最高傑作とされる長編小説『巨匠とマルガリータ』も死後20年以上たってから出版されたものです。
『巨匠とマルガリータ』は、出版される望みが全くない状態で書かれたそうですが、あれだけの分量の小説を出版される望みもなく書く心境を思い図るだけで、畏敬の念が浮かんできます。
なんて偉そうにいいつつ、今まで短編集や短めの戯曲しか読んだことなく、『巨匠とマルガリータ』も未読なんですけどね。
えっと、それはさておき、ブルガーコフの年表などを見ますと、本書はいつも中編『犬の心臓』と書かれていますが、翻訳本で200ページ程度あるので、長編といってもいいと思います(中編と長編の境界線は一般的に何ページくらいなんでしょうね?)
上に引用した冒頭の叫びは、人間のものではなく、シャリクという名の野良犬のもの。本書は、このシャリクの視点による一人称と三人称とが混合した独特な文体になっています。
さて、舞台は革命後のロシア(ソヴィエト)、餓死寸前で叫んでいたシャリクが医者のフィリッポヴィチに拾われるところから話は始まります。
フィリッポヴィチは、今や国家の仮想敵になった感のあるブルジョアジーで、アパートに診察室や手術室を含む8部屋を借りて住んでいます。一人で8部屋を借りることはプロレタリア側からすると許されざる行為のようで、アパートの管理組織、特にそのリーダー・シヴォンデルから目を付けられてしまいます。けれども、フィリッポヴィチはお偉いさんにコネもあることから、シヴォンデルを軽くあしらい、プロレタリアを軽蔑しながら優雅に暮らしています。
そんなフィリッポヴィチに拾われたシャリクは、餌を与えられ、非常に快適な生活をおくることになり、次第にフィリッポヴィチを心から感謝するようになります。
もちろん、そんな幸せは長く続きません。ある日、一体の死体が手術室に運ばれてきたことから事態は急変して・・・
その後の展開は、グロテスクな様相を呈していくのですが、これが面白い。実際に読まれるときのために詳しいことは書きませんが、多くの人に読んでもらいたい傑作です。おススメ。