少年キム(ちくま文庫):ラードヤード・キプリング | 夜の旅と朝の夢

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少年キム (ちくま文庫)/ラト゛ヤート゛・キフ゜リンク゛

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作者のキプリング(1865 -1936)はイギリスの小説家で、ノーベル文学賞の最年少受賞者(41歳で受賞)としても有名です。ちなみに、本書では「キプリング」ですが、「キップリング」と表記されることもあります。

キプリングは帝国主義や人差別主義と結び付けられることもあって、評価が人によって大きく異なります。ただここでは、政治的な話は避けて『少年キム』に絞りたいと思います。興味ある方は調べてみてください。

さて、個人的には、ディズニー・アニメにもなった児童小説『ジャングル・ブック』、岩波文庫から出版されている『キプリング短篇集』に続いて3冊目のキプリングとなります。

舞台は19世紀末、イギリスの支配下にあるインド。南下政策を推し進めるロシアとそれを阻止しようとするイギリスとのスパイ合戦(本書では、闇戦争(グレート・ゲーム)と呼ばれています)が行われている時代。

主人公のキムは、イギリス人(アイルランド人)でありながら、両親が不在のためインド人のように育てられていて、英語もあまり話せません。話は、そんなキムがチベットから来た高僧ラマと出会うところから始まります。

ラマは、沐浴する者の汚れを落とし輪廻から解脱ができるという聖河を探しています。一方、キムは自分が何者かを知りたがっています。キムはラマに共感し、彼の弟子となって聖河探しの旅に出ることにしますが、旅に出る前に、旅の資金を得るために知人のムスリムであるマハブブに会いに行きます。そこでマフブブは資金を出す代わりに、馬の血統書をある人物に渡すという仕事をキムに頼みます。

ただし、馬の血統書というのは嘘で、本当は機密文書です。マハブブは、イギリス側のスパイなんですね。で、マハブブは聡明なキムにスパイの片棒を担がせるわけです。まあ、キムは渡されたものが馬の血統書じゃないことをちゃんと見抜いているんですけど。

キムは与えられた仕事をラマとの旅の途中でやり遂げるのですが、それがきっかけとなって、闇戦争に加担していくことになります。

その後の話は闇戦争という俗世間的なストーリーと、聖河探しという宗教的なストーリーとが絡みあって進みます。このストーリー展開自体も、とても面白いのですが、本書の本領は、キムやラマ、そしてインドの中で生きる様々な階級の人々の活き活きとした描写でしょう。

キムは聡明でやさしく、勇気もあるんですが、一方では、子鬼っぽいところもあって、それでいてやっぱり子供だったりする。そんな物凄く魅力に溢れた少年なんです。ラマも聡明でやさしいのですが、ちょっと頑固で浮世離れしたところがあります。そんな欠点をキムが上手くフォローし、一方ラマはキムの精神的な支柱となっていきます。この二人に加えて、脇を固める人々がまた絶妙に描かれているんですよね。

本書はキムとラマの旅物語であり、キムの成長譚でもあり、スパイ冒険ものでもあり、宗教的な話でもあります。それでいて読みやすく、ラストは感動的。純粋に読んでいて楽しい小説として、類を見ないほど卓越しています。万人にお勧めしたい一冊です。