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ドイツ文学者池内紀編訳のアンソロジーです。
ウィーンは今では一地方都市といった感じですが、第二次世界大戦前まではコスモポリタン的な都市であり、西のパリと並ぶヨーロッパ文化の中心でした。特に19世紀末から20世紀初頭にかけては、「世紀末ウィーン」などともいわれ、文化芸術が絢爛に咲き乱れていたのです。
本書は、その頃に活躍した小説家や文筆家の作品を集めたもので、収録作品はほとんど1900年から1930年に発表されたもの。ですから、タイトルの「世紀末」は、文字通りの世紀末ではなく、「世紀末ウィーン」の意味だと思われます。
さて本書には、ホフマンスタールや、ヨーゼフ・ロート、ムージルなどの比較的有名な人の作品から、ヘヴェジーとかシャオカルとか、全く聞いたことのないような人の作品まで、SFっぽいのから純文学っぽいのまでバリエーション豊かな作品群が全部で16篇が収録されています。
どれも一読の価値ある作品だと思いますが、個人的には、SF小説家ヴェルヌが地獄と天国に関する報告である『地獄のジュール・ヴェルヌ/天国のジュール・ヴェルヌ』(ヘヴェジー)、本書の中では比較的オーソドックスな小説『落第生』(ツヴァイク)、架空の小国の短い紹介文「カカーニエン」などが興味深かったです。
ただ、本書の魅力は個々の作品より、前衛的で因習にとらわれない、「世紀末ウィーン」を生きた芸術家の情熱を感じられることだと思う。有名無名はあるし、作品の完成度にもばらつきがある。でもそんなことは些細なことだと思わせる力が全作品にみなぎっている。うん、これは素晴らしいアンソロジーだ。