数ある記事の中からお立ち寄りいただきありがとうこざいます。


今回は小説『カフェ ダマンド』最終章です。


3〜4分程度の小説になっております。


初めての方も何となくわかるように書いておりますので

どうぞお立ち寄り下さい(⁠◍⁠•⁠ᴗ⁠•⁠◍⁠)




『カサベラ、早く戻ってきて』

そう願うマスターの気持ちはなかなか届かず、
カサベラがいなくなってから月日が経った。


(カサベラというのは絵の中に絵が描かれた女性で、陽気でお喋り。悩めるお客さんに毒舌でアドバイスしちゃう)


以前、マスターの姉である友加里(マスターに心ないことを言う姉)がカフェに来て言ったように
カフェがあるこの小さな古いビルは取り壊され
新たにマンションが建つことになった。


マスターは、立ち退くことを余儀なくされたのだが

早く次の店舗を見つけなければ…

そう気ばかりが焦って、不安と焦りで心が押しつぶされそうになっていた。

必死に探しているのにそれでも見つからない…。


今のカフェは、たまたま買い物帰りにいつもと違う道を通っていたときに見つけた物件だった。


ビル自体がかなり古かったのだが

古いというよりモダンな雰囲気がマスターの気に入ったところだった。

それになんと言っても建物事態が古かったため家賃が破格に安かったのだ。


当時のことを思い出しながら

「なかなか見つけられないのは

やはり私の考えた方が甘いからなのだろうか…」

そう感じずにはいられなかった。


『あなたは甘いのよ!』
かつて姉にそう言われた言葉がいつも頭をよぎり

その言葉の呪縛から抜けられなかった。


行き先も決まらないまま、マスターはどんよりとした気持ちを抱えながら1人黙々と片付けていた。
趣味で集めたアンティークの数々を丁寧に梱包材で包む作業は、本当に骨がおれた。

退去日までまだ日にちがあると思っていた日も
あと2週間後と迫っている。


そんな時、中年の男が店内に入ってきた。

以前お客として来ていた建設会社の社長の渡辺だった。


「渡辺様、お久しぶりでございます。」


マスターは深々とお辞儀をし、渡辺を迎えた。


「いやー、近年の建設ラッシュでバタバタしていてねー。
資材の値段は上がるし、資材を手に入れるのも大変でね。すごい世の中になっちゃったもんだよ。ここも建て替えだってね。」


「そうなんです。そんなお忙しい中、お越しいただいたのに片付けの途中で大変申し訳ありません。
埃っぽいですが、珈琲をおいれしますね。
どうぞ、こちらの席に。」

勧められた席に渡辺は座り、片付け途中の店内を見た。

「あれ?カサベラさんは?マスターのことだから、カサベラさんは最後に綺麗に梱包するか、手で持っていくのかと思っていたけど。」


「えー、実はカサベラを描いたという方が見えたんです。」


カサベラがいなくなった経緯を話した。


「そうか。カサベラさんのお父さんが来たの。娘との久し振りの再会ってわけだ。
そして、マスターは黙って、その人の言う通りにカサベラさんが描かれた絵を渡した、ということなんだね。」


「はい。その通りです。
私はその方の気持ちもわかりますし、どうしていいかわからず…。お渡しすることを伝えたら、カサベラが物凄い剣幕で…。」


「それは、カサベラさんは怒るだろうね。カサベラさんはこのカフェに来るお客さんとの会話が大好きだからね。」


渡辺は、大きな声で笑った。


「相変わらず、マスターはお人好しだな。」


「まぁ、カサベラさんは無事に帰ってくるから大丈夫だよ。」


渡辺はマスターの顔をのぞき込むように言った。

マスターは、珈琲豆にお湯を落としながら『はい…』と、答えた。


珈琲の香りが漂い、静かな時間が流れた。


マスターは、渡辺に珈琲を出した。

相変わらず、マスターの入れる珈琲は酸味と苦味のバランスが最高で渡辺好みだった。

「ところで、次のカフェはどこにするか決まったのかい?」


「いえ、お恥ずかしながら、実はまだ見つけられてなくて…」


「あー、それならよかった!実は君に紹介したい物件があってね。このあとマスターの予定が空いてれば、見に行かないかい?」


「えっ?!とても嬉しいです!是非ともお願い致します。」


マスターは、早速準備をして渡辺の車で現地まで向かった。


渡辺が運転する車は、乗り心地がよく静かで香りもよく高級感があった。


夏の終わりの夕暮れ近くのドライブ。


車のおかげで暑さは感じにくかったが、

窓から感じるジリジリとした日差しが夏の終わりはまだまだ先だと告げているようだった。


さて、車で30分ほど走ったところにその物件はあった。


閑静な住宅街の中のビルの2階にあった。


1階は不動産屋が入っている。


カウンター席が6席と2人掛けテーブルが3つほど置けるくらいの小さなお店だった。


もともとバーだったようだ。


ここは住宅街だから、今までより少しカフェメニューを充実させる必要があることをマスターは想像した。
そして、内装はキッチンをもう少し充実させること。
そして店内をもう少し明るい雰囲気にするくらいかな?とざっくりとしたリフォームの金額を頭で計算した。

「どうだい?少し狭いけど。」


「渡辺様、私、ここでやっていきたいです。
契約させてください。宜しくお願い致します。
少し手を加えたいところがあるので、そこは渡辺様の会社にお願いしても宜しいでしょうか?」


「勿論だよ!いやー、よかった!やっぱり、気に入ってくれたんだね。」


このビルのオーナーは下の不動産屋さんだから、契約はそこで。


後日、無事契約を交わし、リフォームをし、無事開店当日を迎えた。


渡辺は、大きな花束を持ってきてお祝いに駆けつけてくれた。


それから、続々と以前のカフェの常連たちが顔を出してくれた。


いつの間にか、狭い店内は多くの人で立食パーティー状態になっていた。

マスターは、来てくれたお客様同士が自分が振る舞う食事とケーキを食べながら楽しく談笑している姿を見て、幸せであることに震えた。


すると、ブルーノが流れる汗をハンカチで拭きながら入ってきた。


「マスター、お久しぶりです。遅くなってごめんなさい。ここに移転したと、ネットで見ました。」


ブルーノの片脇には布に包まれた絵と思われるものを挟んで抱えている。
マスターは、その脇に挟まれた物に心を奪われながら

「お久しぶりです。ブルーノさん。私はもうあなたは現れないのではないかと心配していました…。」


「マスター、本当に長い間ごめんなさい。カサベラからカフェでのたくさんの話を聞きましたよ。それで、どうしてもこの絵に手を加えたくなってしまって…、それでこんなに長くなってしまったんです。ごめんなさい。マスター、お返しします。」


ブルーノは布を被せたままマスターに絵を渡した。


マスターは、早速包んであった布を開いた。


そこには以前よりも楽しそうな笑顔のカサベラとたくさんの仲間たちが描き加えられていた。


『おかえり、カサベラ』
マスターは声をかけた。

そしてカサベラを店内が見渡せるところに飾った。


しかし、もう以前のようにはカサベラは喋らなくなってしまった。

マスターは、頭の中では理解しているけれど、淋しかった。
カサベラとの会話はマスターにとって特別だったからだ。

マスターは、カサベラの絵を今一度見た。たくさんの人に囲まれてとても幸せそうだった。『これでいいのだ…』

すると常連客の1人が
「カサベラ、お帰り!」
そう言うと、みんなも口々に『カサベラ、お帰り!』と、カサベラが帰ってきたことをとても喜んだ。


しばらくすると、お店の外で女性が渡辺に花束を渡し、帰っていった姿がチラッと見えた。


渡辺が花束をマスターのところに持ってきて
「これはお姉さんからだよ。」
そう言った。
マスターは耳を疑った。


「友加里さん(マスターの姉)の御主人と私はもともと友人でね。実は友加里さんにここの物件をマスターに紹介して欲しい、きっと気に入るから!とお願いされていたんだよ。お姉さん、とてもマスターのことを気にかけていてね…。」


姉に厳しいことを言われ続けていたマスターは、受け取った花束を握りしめながら暫く目を閉じた。

『私は子供の頃からずっの嫌われているとと思っていたけど、違ったのか…。

全くわからなかった…。』


マスターは、深く呼吸をして、目を開けた。
お客たちが変わらず談笑している。


マスターは、やっと気付いた。


自分にとってのカフェとは何なのか。


マスターは握りしめた花束を見ながら心の中で姉に感謝を伝えた。


渡辺は、マスターの顔を見て、満足した。


そして、渡辺がカサベラを見るとカサベラも嬉しそうにマスターを見ていた。


そして、渡辺の方を向いてウィンクをした。


渡辺はカサベラににっこり微笑み返した。


     《終わり》


最後まで読んでいただいて本当にありがとうございます。


また是非お立ち寄り下さい(⁠ ⁠ꈍ⁠ᴗ⁠ꈍ⁠)