ルナサ、メルラン、リリカが、公園に見える。
音楽パフォーマンスを披露しているようだ。
それぞれの持つ楽器には、名前が刻まれていた。
ヴァイオリンにはルナサ、トランペットにはメルラン、
キーボードにはリリカの名前が見える。
父が、いずれ娘達に贈る為にと用意していた物を、
母が守り、あの時に持ち出してくれたようだ。
「もう…1年か…。」
「そうだよね。早いなぁ…。」
「うん。けど、長かったね。」
3人の楽器のケースには、ぱらぱらと小銭が入っている。
「レイラ…元気かな…?」
リリカがポツリと呟いた。
2人の姉は、何も言う事が出来なかった。
しかし、ルナサが気丈に口を開く。
「お母さんが…見守ってくれているはず…。」
「…そうよね。歌ってるかなぁ? アカペラになっちゃうけど。」
レイラの名が刻まれた楽器は、用意されていなかった。
レイラには、持って生まれた美しい声があったためだ。
ヴォーカルとしての類稀な才は、幼い頃から際立っていた。
「きっと…歌ってる。」
すっかり日も傾いてきた。小銭を回収し、楽器を片付ける3人。
しかし、その金額は3人分のパンを買うことも難しいほど。
母は、半年ほど前に息絶えてしまった。
3人は気付いていなかったが、父が変わってからの館での生活により、
母の身体は既に病に侵されていたようだった。
それでも、娘を守るために、必死に働き続けた。
その結果、あまりにも早過ぎる死を向かえてしまった。
(また…大きく場面が変わる…。
…少し…休んだ方が良い…。)
呆然とするレイラ。当然と言えば当然かもしれない。
父を狂わせた元凶と、その父の本当の気持ち。
今まで知り得なかった事実を一気に知らされる。
まだ若いレイラの頭は、パンクしそうになっていた。
しかし、父も被害者である事は本能が感じ取っていた。
今も、僅かなポルターガイストの旋律は鳴り止まない。
まるで、混乱するレイラを優しく励ますように。
その時、階段を登ってくる音がレイラの耳にとどいた。
「あれ…お父さん…?」
この部屋まで足音が聞こえてくるという事は、
かなり乱暴に歩を進めている事が伺える。
レイラの予想通り、足音は部屋の前で止まった。
ノブをガチャガチャと、乱暴に回す父。
「レイラ、開けろ! 何だ、あの状況は!
もっと丁寧にやれないのか!?」
ノブを回す手が、どんどん乱暴になっていく。
それに同調するように、ポルターガイストの旋律も、
徐々に荒々しく、激しく変化していく。
レイラは、ガタガタと震えながら、布団を被りこんだ。
そして、軽いパニックから目を閉じてしまった。
(準備は…良い?)
「え…ち、違うよ…今のは…!」
「レイラっ!」
大きな音と共に、ドアが外れた。
父の力だけで外れたのではないようだ。
ドアにも過度のポルターガイスト現象が発生し、
明らかに強度が甘くなっていた。
しかし、それを確認するよりも少し早く、
レイラはまた、ビジョンの中に引き込まれていた。
ここでビジョンがストップし、世界がモノクロに変わる。
声が、ビジョンの外側にいるレイラに、優しく語り掛けた。
(…思い出した? 貴方にはショックが大きかったのね…。
夢は、貴方の嫌な記憶を、見えないところに封じ込めた。
けれど、それと同時に、大切な事も押さえ付けてしまった。
…ここからなら…本当の表情が見られる。
お父さんの…本当の声を、貴方が聞いてあげて。
お父さんと、向き合ってあげて。)
促されるまま、父の表情を見てみる。
優しく、穏やかだった頃の父の顔だ。
しかし、沢山の涙を流している。
耳を傾け、父の声を聞いてみる。
(皆…置いていかないでくれ…怖い…私は怖い…!
あの桜を見てから、あらゆる不安が私に押し寄せてくる…。
私は…私が思っているより数倍…弱い人間だった…。
けれど…決して不満は無かった…むしろ満たされてはいた…。
それを…その気持ちを失う事が怖かった…。
力ずくで手元に残そう…そう考えてしまった…。
そして…私のように弱くならないようにと、
皆に完璧な動向を求め続けるようになってしまった…。
それは…浅はかな過ちだった…。だから…だから…!
私を1人にしないでくれ…! 皆!!!)
泣き叫ぶレイラの肩に、父の手がかかる。
その瞬間、ビジョンは途切れた。