「なあ、アリス。」
「何よ。」
「いつからいたんだ?」
「私自身があそこに着いたのは、本当にギリギリよ。
 上海は、ずっと貴方達にくっついてたけどね。」
「そうか。気にかけてくれていたんだな。」
「八雲紫が出てきて、何か嫌な感じがしたのよ。
 もっとも、最初に見た時は紫という確信は無かったけど、
 他にアレだけの芸当を可能にするヤツが見当たらなかった。」
「そうか…。」
暫く黙る2人。溜まらず魔理沙が口を開く。
「今回…私は何も出来なかった…。」
「…らしくないわね。私にはそう見えなかったけど?
 どうしてそんな風に思うわけ?」
「ひたすら怖かった。それに、防戦一方だったしな。
 何より、結局白玉楼のやつらを助けたのも、八雲紫だろ?」
「守る力は大切よ。世の中、勝つ戦いは、案外脆い。
 負けない戦い方の方が、絶対的に強いもの。
 霊夢や咲夜が1人で来ていたとしても、カードか体力、
 どちらかがあっさり枯渇、敗退していたはずでしょ。
 貴方がいたから負けなかった。それは紛れも無い事実。
 それに、今回の相手は、結局一人相撲だっただけ。
 外力で救えるものじゃないんだから、気にするだけ無駄よ。」
「そう…か…。なあ、あいつら、救われるかな?」
「それは彼女ら次第よ。けど…まあ大丈夫なんじゃない?」
「そうか…。アリスにそう言って貰えると、安心するぜ。」
「気持ち悪いわね…落とすわよ?」
「おお!?」
その服装と同様に、魔理沙は基本的に、
物事を白と黒で捉える傾向が極めて強い。
グレーと言う概念が、ほとんど無い。
紅魔館における一件のように、判りやすい結果が伴えば良いが、
今回のような結末を迎えると、もやがかかった気持ちになり、
その気持ちが自己への嫌悪感へと変わってしまう。
グレーのまま終わってしまった事への、自分の責任を探してしまう。
もし今の魔理沙を1人にしていたら、
その気持ちによるダメージは一層深刻なものになっていた。
アリスがそれを食いとめ、癒していた。
アリスには、そんな意図は無かったのだが…。
「まあ、今は何も考えずに休むのが良いと思うわ。
 休んでから、また改めて考えてみても良いじゃない。」
「それもそうだな。そうするぜ。」











霊夢は、門を出た所で、少し周囲を見渡した。
「まだいるんでしょ? 出てきたら?」
「終わった~?」
「春が…漏れ始めたわね…。」
「咲かなかったんでしょ? 妖怪桜。」
「どうして知ってるの? あ、魔理沙が先に出たんだっけ。」
「ん~、それもあるけど、なんとなく判っちゃったんだよねぇ。
 春の流れ方みたいなものが、ふわっと見えたからさ~。」
「桜の季節には、桜前線と一緒にツアーをするの。
 だから私達は、開花の空気を感じ取る事、結構慣れてるの。」
「…結局、気圧や空気が、例年の感じに戻った…。
 だから、咲いていない、と判断した…。」
「ふ~ん、大したものね。あ、そうだ。
 この中に入るのは、明日か明後日まで待ってあげて。
 ちょっと…まあ、色々あったからね。
 もし宴会場が見つからなかったら、うちの神社に来て見なさい。
 うちでは、いつも誰かが騒いでいるはずよ。」
3人は、少し顔を見合わせて、笑顔で返した。
「ありがとう。さっき相談してたんだけど、ここが終わったら、
 暫くは、行った事の無い所ばかり回ってみようと思ってるの。
 音楽ももちろんだけど、大切なものを探していた気がして…。」
「その後でも良ければ…寄っても…良い?」
「もちろん、いつだって構わないわよ。」
「いずれ行くね~、絶対だよ~!」
「…楽な旅には、なりそうに無いわね。」
「…何とかなる。今までも…何とかなってきた…。
 とりあえず…やってみるよ…。」
「そう。ま、肩肘張らずにね。
 …見つかると良いわね、大切なもの。」
「見つかるわ、きっと。今日、見えかけたんだもの。」
「だから、探しに行く気になったんだよね~、多分!」
「そ。それじゃ、またいずれ。」
今度こそ、霊夢は白玉楼を後にした。
プリズムリバー三姉妹は、霊夢に言われたとおり、
2,3日後まで待つ為に、その場で練習を始めた。
騒霊にとっては、2,3日など一瞬に過ぎない。
少し音を合わせていれば、すぐ中にはいる時間だ。











「…紫、もう話せるわよね?」
「待て! 今は無理だ、もう少し…」
「藍、大丈夫よ。ありがとう。」
「紫様…判りました…。」
ゆっくりと、紫に近寄る霊夢。
その瞳は、どこか覇気が無い。
「最後のスペルカードの直前に、あなたは言ったわよね。
 何故幽々子を、妖として扱ったのかって…。」
「ええ…他意は無い。単純に、想った事を口にしただけ。」
「正直、言われてハッとして、何も言い返せなかった。
 あんたの言う通り、故人を想う時、故人を妖とはしない。
 現状が亡霊であっても、人として扱う事もあるべきと思う。
 それに関しては、私の方が浅はかだったと認めるわ。
 けれど、妖である貴方が、どうしてそんな事を…?
 あれほどの力を持った人が存在する、という事になるのよ?
 無意識に、幽々子を同じ妖として認識して当然と思ったけど、
 それもどこか、自然じゃない気がするのよね…。
 なにかしら…あんたの感情には、妙な違和感がある…。
 ………まさか…!」
「深読みし過ぎね。私は友の誇りを守りたかった。それだけよ。」
暫く、場を沈黙が包む。空気が重い。
「…まあ、そう言うのであれば、そうなんでしょうね。
 解ったわ。幽々子が起きたら、伝えておいて頂戴。
 今度は地上の桜でも見に来なさいなって。
 私達は、近所にいたって死にゃしないんだから。
 他にも、殺しても死にそうに無いヤツに心当たりはある。
 話し相手でも、呑み相手でも、『人』恋しくなったら、
 まず私に声をかければ良い。
 放っといても色んなヤツが集まるしね、ウチの神社。
 もう孤独になんかさせない。絶対にね。
 幻想郷には、賑やかなやつが多い。あんたも知ってるでしょ?
 きっとすぐ馴染めるわ。」
「…伝えるわ。」
「あんたも一緒に来なさいよ?
 1人でも良いし、式連れでも構わないし。」
「私が?」
「お賽銭くらい持ってきなさいよ。」
「…ふふ、祓われたらかなわないじゃない。
 だから、お賽銭は持っていけないわね。」
「ふふ…それもそうね。それじゃ、私も帰るわ。
 明日か明後日には、七草も芽吹くわよね。
 はぁ、や~っと七草粥が食べられるわ~。
 あれを食べないと、冬が明けないのよねぇ。」
「巫女が食い意地を出すモンじゃないわよ。」
「巫女だって食わなきゃ死ぬのよ。じゃあね。」
霊夢は、颯爽と帰っていった。
西行妖の下には、紫達5人だけが残された。