ほどなくして、パチュリーが妖怪軍を捕捉する。
「長蛇陣…通りで到着がこれだけ早いわけね…。
野戦は無いと賭けてきたか、あるいは自棄になっているか…。」
「あの娘の仲間よ? そんなに諦めが良いとは思わない。前者ね。」
「咲夜に引き続き、随分買ってるわね。上手く引き込めるの?」
「それは、あの娘次第ね。」
「よく言うわ…。」
「あら、意外と嘘じゃないわよ。勝算の無い行動を控えてるだけよ、私は。」
「そう…。向こうもこちらを見てるわね。…井蘭陣に展開し直してる。
随分と強気ね。こちらの事を知っている様子だったから、
方円陣あたりで、慎重に固めて来ると思ったけど…。」
「館を崩す気で来ているのね。」
「ヴァンパイア相手に、まともに一騎打ちなんてしないでしょう、普通。」
「それなら、ヴァンパイア相手に包囲戦なんて、それこそ無意味でしょう?」
「城を崩せば屋根が無くなる。そう思ってるのよ、多分。」
「なるほどね。それは困るわ。」
「でしょう? あの井蘭陣、少し変形で組まれている。
恐らく、前線は中にねじ込むつもりだと思うわ。
内と外から城壁を崩す。稀にあったらしいわね、そういう事って。」
「随分博識な軍師さんがいるみたいね。」
「少し古い時代に流行った手だから、古文献に恵まれるのかもしれない。
興味があるわね。ぜひ行って見たいものだわ~。」
「似たような本なら、うちにもあるでしょう?」
「同じ内容でも、伝え方が違うの。そこが趣き深い。」
「そんなものかしらね…。」
「そんなものよ。本を読む意義なんて。」
「で、どうやって片付けるの? 私達が動く事が無い事を祈るけど。」
「井蘭陣で壁に張り付くなら、土魔法で一層して終わりじゃないかしら。」
「容赦ないわね…。美鈴に頑張ってもらわないと。なんとしても。」
「容赦できる程、甘い軍じゃ無い。そう言ったのはレミィでしょう?」
「ええ、そうでないと、あの娘が背負う意味が無い…。」
2人の眼が、妖怪軍をしっかりと見据え続ける…。
外では、美鈴と咲夜が最後の確認を行っている。
「ねえ、メイドさん…。」
「どうしたの? 不安にでも?」
「まさか。自信はある。けど、もう戻る事は、やっぱり出来ないと思う…。
貴方は、何かを守る為に、何かを捨てた事がある?
ここに来る前でも、来た後でも、どちらでも良いから。」
「…以前は、守るものなんて私には無かったし、
レミリア様に仕えてからは、命を預けているつもりだから…。
守る為に捨てた事は無いわね。」
「そう…。私も今回が初めて…。」
「そう何度もある決断じゃないわね。……怖いの?」
「…そうかもしれない。けど、少し違う気がする。
どちらかと言えば、淋しい、と言った方が近いと思う。」
「淋しい、ね…。私にはあまり縁の無い感情だけど、苦しいんでしょう…?」
「楽ではないわ。こう見えて、育ちは悪くないのよ?
周りには、いつも必ず、誰かがいてくれたから…。」
「身を寄せていたいの?」
「寄せていたいのは、身じゃなくて心。別に、そばにいてくれなくても良い。
自分が仲間と思える者が欲しい。失うことになって初めて気付いた。
私の動く原動力…。守る為に、仲間ではなくなってしまうなんて…。
どうしようもないけど、可能なら遠慮願いたかった…。」
少し下を向き、拳を固く握る美鈴。後から、咲夜が柔らかく声を掛ける。
「…今の間だけで良いなら、私達が担える。」
「え…?」
思わず、咲夜の方を振り返る美鈴。
「貴方とこの館、今の間は、奇しくも目的が一致している。
それは、仲間の証にはならないかしら?」
「それは…」
「続きは後ね。来たわ。
フォローはするつもりだけど、くれぐれも気をつけて。」
2人の目が、真っ直ぐ森の方を見据える。