「貴方が思っているほど、時が止まるという事は、単純ではない。
例えば…」
咲夜の左手から、1本のナイフが放たれる。
「くっ!」
ナイフの速さに驚くものの、間一髪で弾き飛ばす美鈴。
「さて問題です。私は何度時を止め、何をしたでしょう?」
「そんな、今の攻撃は単純な投げナイフ…。」
「そう、時を止める力というものは、
いかに時が止まっていないように立ち回れるか、それこそが真意。
明らかに時が止まったような動作は、必ず身を滅ぼす。
うちの主からの教えだけど。」
「ハッタリ…でも無いのね、その表情を見る限り。」
「そうよ。先の攻撃で、私は2回時を止めた。
ヒントは貴方の目に映っていたはずよ。
1つは恐ろしく速いナイフ、もう1つは足元。」
「…投げたナイフの瞬間移動と、はじいたナイフの回収!」
「本当に大したものね。普通はここまで話しても混乱するだけなのに。
貴方の推測通りよ。それぞれの動きの後、私はこの位置へ戻る。
そうすれば、見た目には時間が止まったようには見えない。
例え時を止める能力の所持が悟られていても、それは例外ではない。
時が止まるという事は、あらゆる物が運動を停止するという事。
けれど、その物の持つエネルギーは保存される。
そこを利用すれば、私の投げたナイフが、
ありえない程の速さで飛んでいるように見せる事も可能。
更に言えば、私の身体が不可解な移動を見せているからこそ、
注意力や神経がその点ばかりに集中し、他の情報をおろそかにしてしまう。
それこそが、時が止まったように見せる、数少ない例外的な行動。
相手のセンサーが鈍れば、
時を止めていないように見せるのが、より簡単になる。
そして、もう1つ、時が止まったように見せる例外行動がある。それは…。」
咲夜が身を低く構える。それを見た美鈴に嫌な寒気が走り、
全身には多量の汗がまとわり付く。