美鈴が振り返りながら肘を打つ。
しかし、背後にいたはずの咲夜は既に間合いを広げている。
「速い…! けど、いくらなんでも速過ぎる…。
 人間にこれ程の速さが出せるとは、到底思えない…。
 何か、特殊な力が必ずあるはず…。どうすれば見破れるか…!」
「考え事をする暇は無いんじゃない?」
咲夜の手から、無数のナイフが投げられる。
ナイフ全体が渦を巻くように、うねりを上げて美鈴へ襲い掛かる。
「これは…避けてはいられないか…。」
美鈴は身体を固め、ナイフの渦に向かって身構える。
「ハッ!」
全てを避けることが困難と判断した美鈴は、
自分に向かってくるナイフを打ち落とし始める。
「まるで大道芸ね…。それなら…!」
咲夜は投げたナイフの後を追い、美鈴に斬りかかる。
「待っていたわ…食らえ!」
「無駄よ。」
美鈴が咲夜を間合い一杯まで引きつけ、拳を振り上げる。
そのタイミングで咲夜は時を止め、美鈴の背後を取る。
しかし、時が動き始めた美鈴の拳は、空を切るものではなかった。
「せいっ!」
美鈴は軽く飛び上がり、足元の土を思い切り打ち抜く。
地面には大きな穴が開き、咲夜は不意に足場を失った形になる。
これに対し、美鈴は自ら飛び上がっているため、
次の市田への体勢がすでに整っている。
軽やかに身を半分ひねり、肘から肩にかけて、自分の体を咲夜にあびせる。
「しまった!」
「捉えた!」
空中という所では、浮いた者が意図的に飛び上がった場合を除き、
必ず無防備になる瞬間が、どこかにある。
美鈴はそこを正確に狙い、咲夜に始めてダメージを与えた。
咲夜が強く地面に叩きつけられる。
「つ…久しぶりね、人に殴られるなんて…。」
「育ちが良いのね。」
「良かったのは育ちじゃなく、暮らしね…。」