「少し前から、おじさんの村では、自分達の力が強い今のうちに、
 ヴァンパイアを制圧しておくべきだと考え始めたんだ。
 それにあたって、紅魔館に一番近いこの村を、
 制圧軍の前線本拠地にしたい、という話を持ちかけてきた。」
「どうして紅魔館のヴァンパイアなの? 単純に、近いから?」
「それもあるけど、調べによると、紅魔館に住むヴァンパイアは、
 今、住処が解っているヴァンパイアの中でも、とても幼いらしい。
 ヴァンパイアは他の種族と比べて、とても寿命が長いから、
 感覚的には、ほとんど年を取らないように見える。
 それでも、少しずつ、年齢は重ねていくんだ。
 だから、少しでも幼いか、逆に老衰の激しいヴァンパイアの方が、
 制圧しやすい、という事になる。
 1度制圧しておけば、ヴァンパイアも村に手を出しにくくなるし、
 同時に他の種族も、ヴァンパイアを制圧する程の村なんて、
 よほどの事情でもない限りは、襲う気にはなれなくなるだろう。」
「なるほどね…。それが近いうちに?」
「いや、うちの村はその提案を断ったんだ。
 今まで何者にも襲われる事無く、平和に過ごす事が出来たのは、
 この村が目立たなかったからなんだ。
 けど、ヴァンパイア制圧の前線になんてなってしまえば、
 望まずともとても目立った村になってしまうだろうし、
 何より、ヴァンパイアとの抗争自体が、とてつもなく危険な事だ。
 長として、村を危険にさらすわけにはいかないからね…。」
「え…ちょっと待って…それじゃ…まさか…。」
美鈴の瞳が、徐々に悲しみの光をまとい始める。
「そうなんだ…。東の村は、強行手段の準備を始めた。
 恐らく、かなり近いうちに、争う事になってしまうだろう…。」
「そんな…おじさんと争うの? そんなのおかしいよ…。
 何とかならないの? もっと話し合う事は出来ないの?」
「もう数年も前から説得しているんだ。
 けど、お互いの主張はずっと平行線のままだ。
 もう止める事が出来ないところまで来てしまっている。
 父さんとおじさん、2人の責任だ…。」
美鈴は、涙を浮かべながら、うつむいて黙り込んでしまう。
「美鈴、本当に、どう謝って良いのか解らない。
 けど、父さんは、この村はどうあっても守らないといけない。
 美鈴と母さんも守らないといけない。それに…」
少し、悩んだ表情を見せる父。
「それに…?」
「それに…ヴァンパイアとて、
 争いを好むとはどうしても思えないんだ…。
 …先に上がるよ、美鈴。」
父は言い残して、先に風呂から上がった。