1章 盲心で自失な生者
深く日が沈み、月明かりだけが辺りを照らすような丑三つ時。
レミリアは狩りに出ていた。
人間の少ない幻想郷での狩りは、決して楽ではないが、
姉妹揃って少食であるため、1人狩る事が出来れば、
しばらくの間は食べる事で不自由はしないで済む。
その人間の血液量が回復する早さの方が2人の食欲よりはるかに上回る為、
1人の人間が館に確保されていれば、本来狩りに出る必要は無い。
しかし、吸血鬼の視点からすれば人間はあまりにも寿命が短く、
頑丈さとはとことん縁の無い生き物、と感じられてしまう。
このため、ある程度のスパンで狩りに出向く必要性が出てくる。
また、この姉妹に限ってはもう1つ、特別な理由があるようだ。
本来、レミリアは不必要な殺生は好まないが、その特別な理由のために、
どうしても必要なファクターと割り切って狩りに出る方法を選択した。
いや、少なくともこの時は、選択せざるを得なかったのかもしれない。
「この季節、森では狩れないかもしれないわね…。」
秋の夜は、深く長い。しかし、空気は澄んで月が明るい。
月の光が届く所になら、まだ人気はある。
普通、月の光を遮られる夜の森に、人間は寄り付こうとしない。
しかし、今日は少し事情が違うようだ。
森の作り出した深い月影の中に、うずくまっている少女が1人。
「ついているわね。森の外まで行かなくても済むなんて。」
レミリアにとっては、非力な人間を1人生け捕りにする事など造作も無い。
気配を殺すでもなく、足音に気を配るでもなく、普段どおりに振る舞い、
ゆっくり、確実に、その少女のもとへ近づいていく。
「誰?」
レミリアは一瞬、全神経を疑った。
今、本当に今の瞬間まで前方に存在していた少女が、
何故か自分の背後に立ち、ナイフを首筋に添えている。