「お兄ちゃん、入院ながいの」と男が蚊の鳴くような声で話しかけてきました。
実はこの男は精神病院に入院していたのですがその病院で人を刺してきたのです。さされたひ被害者も入院患者です。そして男は拘置所を精神病院だと誤解していました。精神病院での殺人事件を起訴した検事を私は笑いました。司法研修所に入り直せ、と。
ところが普通にしていればいいものを、この男は法廷では正常を装うのです。精神鑑定でも正常と判定されました。真正の狂人なのに出る所に出たら妙に頑張るタイプだったのです。
誰もが罪を逃れたいために法廷では狂人の芝居をするのに、この男の場合は反対で法廷ではよそ行きの挙動をするのです。
「アホの癖に法廷ではこましゃくれたことをぬかしよる」
職員も首を捻っていました。
結局、情状酌量もなく男は有罪で重刑。懲役の意味も理解していません。
「お兄ちゃん、チョーエキって、何?」と聞かれても答えようがありません。
「お兄ちゃん、お家へかえります。さようなら」と男は下獄していきました。

宝島社
「実録刑務所暮らし」より

法律って何だろう?
裁く側の常識って何だろう?

笑ってはいけないことはよくわきまえているが、裁判官の社会的=人間的認識の浅さに驚いた!