本稿に取り上げる大手有名予備校(以後 “××予備校”と記す)には高二のリーディング教材がまともに訳せない講師が居る。しかもそれが一人ではないのだ。
私自身は、 大阪の予備校を振り出しに、 2つ目は北九州予備校(当時はまだ、 小倉と、それまでに聞いたこともなかった黒崎という町とに2校舎しかなかった)、 そして、最後にこの3つ目の予備校を体験したが、 これは予備校御三家のうちの一つで全国規模のものである。
普通に聞く噂や、 宣伝から、ここに居る「超一流の講師」に分からないことを質問すればその場で教えてもらえるものだと本当に思っていた。
或るとき、 年上の講師に質問をしたところ、 まともな返事が返ってこなかったので 「?」 と思ったが、後になってこの講師には 「学力がない」 という噂が他学科の講師たちの間でもささやかれており、嘲笑されていることを知った。
会議の席上で、この講師の発言内容が常に、 頭のどの部分から出たのか分からないような意味不明なことばかりだったからこの噂は本当だったかも知れない。
更に、 プリンストンとかケンブリッジといった大学を出たと言っては生徒の信望を集めているとも言われていたが、とにかく生徒の数だけは集めるので、「儲け高」のことしか考えていない キキケケたちには珍重されていた。
「予備校という所ではハッタリが効くからっ!!」 と吐き捨てるような言い方をした古手英語講師がいた。 多分、 この年配講師のことを指していたのであろう。
ところで、 この予備校に移ってから2年目に 「高校生用のリーディング教材を作成する」ということで、筆者のいた校舎では3人の講師がこれに当たることになった。
上記の講師と、もう一人年配の講師、そして私自身であった。
「このプロジェクトは5年間フィックスです」とのことで、上記の講師を中心に何度か運営方針の説明があった後、適切と思われる教材を各自提出することとなった。
あちこちの校舎の担当者から出たものを合せた多数の候補資料の中から、90編ほどが 「使える」 として英国人スーパーヴァイザーによって選出された(講読を1学期間に10回すると3学期間に30回、高一から高三までで90編が必要)。
私が提出した15編のものが全て、 この90編の中に採択されたことが、筆者のこの予備校に於ける不幸の始まりの原因だったような気がする。
「5年間フィックス」はどこへやら、それっきり完全にお呼びはかからなくなった。「あいつを入れると、全部持って行かれる」という「鼻汁レベルのシミッタレ根性」の発動だったのかも知れない。
が、それはそれでいい。会議に出なくて済んで体が楽になったからだ。しかし、その後で本当に腰を抜かすようなことに出くわしたのであった。
3年目の4月から上記の教材が使用されることとなり、筆者も新教材を使った高二のクラスを担当した。
真新しいテキストと共に「教務本部教材事業部」という厳しい名称の部署から教師用マニュアルが送られて来た。その各講の模範訳を見てド肝を抜かれたのである。
とつとつとした下手な訳の中にムチャクチャな誤訳が随所に散らばっている。これ程の大手予備校で、中央に集められて模範訳を書く講師がこんな訳をする!! しばらくは信じられなかったが、 この気持ちは押さえて授業をした。
そして2学期。次の教材と模範訳が来た。これでことが決定的であることが判明した。また、ムチャクチャ訳のオンパレードであった。しかも、各講の日本語訳の書き方が違うので数名の講師の手になることは明らかであった。
特に、英国紹介の英文の誤訳は、それは見事なものであった。返す返すも残念なことには、この教材と模範訳は捨ててしまって今は手元に残っていない。
デタラメ訳オンパレードの中に一つだけ立派なものがあった。その出来ばえの良さから、これは他所にあった訳を引き写したものであろうと確信したのであった。
