”最終兵器”をめぐる男たちの戦い。
世界大戦のさなかに突きつけられた究極の選択に、答えはでるのか?

Arika報告書v1アイコン1943年6月、上海。かつては自治を認められた租界に、各国の領事館や銀行、さらには娼館やアヘン窟が立ち並び、「魔都」と呼ばれるほど繁栄を誇ったこの地も、太平洋戦争を境に日本軍に占領され、かつての輝きを失っていた。上海自然科学研究所で細菌学科の研究員として働く宮本敏明は、日本総領事館から呼び出しを受け、総領事代理の菱科と、南京で大使館附武官補佐官を務める灰塚少佐と面会する。宮本はふたりから重要機密文書の精査を依頼されるが、その内容は驚くべきものであった。「キング」と暗号名で呼ばれる治療法皆無の新種の細菌兵器の詳細であり、しかも論文は、途中で始まり途中で終わる不完全なものだった。宮本は治療薬の製造を依頼されるものの、それは取りも直さず、自らの手でその細菌兵器を完成させるということを意味していた――。ひとりの科学者の絶望が産みだした治療法皆無の細菌兵器。その論文は分割され、英・仏・独・米・日の大使館に届けられた。手を取り合わなければ、人類に待っているのは、破滅。”最終兵器”をめぐる男たちの戦い。世界大戦のさなかに突きつけられた究極の選択に、答えはでるのか? 第159回直木賞候補作。



上田早夕里
兵庫県出身。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、デビュー。 2011年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞する。 SF以外のジャンルも執筆し、幅広い創作活動を行っている。『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』『深紅の碑文』『夢見る葦笛』『リラと戦禍の風』など著書多数。